社会情報学フェア2005 での発表

2005年9月12日 ~ 14日の3日間, 京都大学吉田キャンパス構内,百周年時計台記念館 百周年記念ホールで700名を超える参加者を迎えて盛大に開催された「社会情報学フェア」において,「地域産業の情報化を考える」と題して,当会会員が出席してワークショップが開催されました。


日本社会情報学会(The Japan Society for Socio-Information Studies)とは,社会情報学及び社会情報に関する研究を行う研究者,ならびにこれに関連する分野を研究する者の相互の協力を促進し,併せて外国の学会との交流を図り,以て我が国における社会情報学の発展と普及,ならびに学術文化の向上に寄与することを目的として設立されました。(日本社会情報学会規約より)

社会情報学とは,情報学,社会科学の境界に広がる学問領域です。
問題意識や研究成果を共有し,社会情報学の将来を展望するため,社会情報学に関わる多様なイベントを集めた社会情報学フェアを開催しています。

<報告>

ワークショップ 地域産業の情報化を考える

9月12日から14日まで,京都大学において開催された社会情報学フェア2005の一環として,9月14日に掲題のワークショップを開催しました。
以下,その内容をご報告します。

オーガナイザー : 宗平順己

1. このワークショップのねらい

地域振興にあたって,常に課題になるのが,地域に雇用の場を確保することである。このため,各地で工業団地が計画され,工場誘致が図られたものの,ここで必要とされる労働力は情報の格差が小さくくなった現在,若者にとって魅力のある職場とは言いがたい。誘致された工場は,基本的には東京などに本社を置く企業の一生産部門であり,創造的な活動の場ではなかったからである。

地方であっても魅力のある企業は,地元に本社を持ち,自らの手腕でビジネスを展開する力のある企業である。かつては,これらは地場産業として大きな雇用力を有していたが,産業のグローバル化に伴い,自らのビジネスモデルを変革できた企業を除き,衰退の一途をたどっている。

これら地方にある企業のほとんどは中小企業である。中小企業の衰退は即ち地域の衰退につながることから,これまで様々な施策が実施されてきた。特に懸念されているのが情報化の遅れである。 その多くを中小企業が占める地域の産業の情報化を考えた場合,ITコーディネータの役割が極めて重要なものとなってきている。

情報化の推進役である大手SIベンダーは,いわゆる大企業や中堅企業を顧客ターゲットとしており,中小企業に対してビジネスを展開していない。

このため、中小企業の情報化は,主流からは取り残された形で,進められてきた。この状況を打破し,正しく中小企業の情報化を進めるために設けられたのが,ITコーディネータである。

ITコーディネータには,税理士や経営コンサルタントも多く,経営面に加え,情報化という面でも,中小企業を支援する役割を担いつつある。

本ワークショップでは,京都・滋賀において地元企業の情報化を支援したITコーディネータから事例報告を行い,中小企業の情報化推進を実態を把握するとともに,彼らの点の活動を面の活動へと展開するための課題テーマ等について議論した。

2. 本ワークショップの主体

本ワークショップは,京都在住のITコーディネータの集まりである,NPO法人ITコーディネータ京都が発表主体となっている。

このNPOへの参加メンバーは,コンサルタント,SIベンダー,会計士,税理士,企業の情報システム部門など様々なであり,京都に住むあるいは勤務しているという地縁集団である。平常の勤務の傍ら,自らの能力を磨き,なんとか地元のための貢献したいという志を有する人たちでもある。

3. ワークショップの内容

本ワークショップは以下のプログラム構成であった。

■事例報告-1

ITコーディネータ京都が経済産業省のITSSP事業の一環として情報化計画の策定指導を行った「京都試作ネット」の事例を紹介する。京都試作ネットは,その名のとおり,京都の企業が集まって試作品作成ビジネスをネット上で展開しているものである。試作機能は企業のグローバル展開においても国内に残る機能のひとつであり,そこにビジネスチャンスを見つけている事例である。

加えて,一企業が単独でビジネスを展開するのではなく,複数社が参画し,お互いの得意分野を補完しあってバーチャルカンパニーを構成しており,新たな地場産業作りの草分けともいえる事例でもある。

彼らのビジネスモデルの特長は,スピード感にある。ネットを通じてよせられる引き合いに対して,短時間で見積もりを出すことをコア・コンピタンスの一つとしている。そしてこのビジネスを持続させるために参加企業に不公平感を持たさないことも大きな特徴となっている。

ITコーディネータ京都は,この特徴あるしくみを支える情報システムを構築するにあたり,戦略的IT投資コンサルを行い,その後独自にシステム導入を果たしている。

本事例報告では,この支援内容を紹介するとともに,システム導入後のビジネス展開についてフォローした。

ワークショップ事例1 プレゼンテーション資料
<report_050914_1.pdf (約900KB)>
report_050914_1.pdf
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■事例報告-2

ITコーディネータは特異なコミュニティを形成している。都道府県ごとに組織化されている他の「士」の組織とは異なり,「知縁」や「地縁」に基づき自主的に形成されたコミュニティを作っている。

このようなコミュニティ形成の背景には,,TCの資格取得時に実施されるケース研修と資格取得後の知識ポイント制度というものがある。

ケース研修は35名程度のクラスで,5~6名のチーム編成で,15日間にわたり,モデル企業の計戦略の策定から情報化戦略の策定,運用モニタリングまで一連のプロセスをサポートするコンサルタントを仮想体験するものである。研修は,終日あり,ITCインストラクターの指導を受けながら,グループディスカッションを繰り返しながら,チームとして,課題への回答を形成していく,参画型研修になっている。

このようなタイプの研修は他にもあり,同窓会的な集まりは持たれているケースも多い。しかしながら,ITCのコミュニティは,密度の高いコミュニケーションを卒業も維持している。この原動力となっているのが,知識ポイント制度である。ITCの資格は毎年更新を必要とされ,所定の知識ポイントと実務ポイントを獲得しなければ,資格を失うことになっている。このため,ケース研修の卒業生が集まって,自主勉強会組織を形成している。これが図に示す137のコミュニティのうち,初期に形成されたものはこのような「知縁」のものが多くを占める。

一方,すべてのケース研修クラスがこのような「知縁」によるコミュニティを形成できているわけではない。都道府県単位に「地縁」によるコミュニティを形成しているケースもある。ケース研修には各地から集まる場合もあり,地理的な制約から卒業生コミュニティに参画しづらい場合,日常の活動の場が近いもの同士が集まって,知識ポイントの獲得のための自主勉強会組織を形成している。この「地縁」によるコミュニティでも多様なプロファイルを持つ人材が集まっている。そのため,自然の流れとして,共同で案件を受託できないかという活動へと発展しつつある。

NPO法人ITコーディネータ京都は,このような背景を持ち,当初はITC京都という地縁のコミュニティとして設立された。

会長の強い指導力により,当初からビジネスを志向しており,自主研究会だけでなく,京都におけるIITSSP事業の実施集団としての活動もしており,その結果2004年度にNPO法人として再出発することとなった。

本事例報告では,同様の活動を行っている他のITCコミュニティのビジネスモデルも紹介しながら,コンサルタントの点の活動を面的な活動へと広げる際の課題について,浮き彫りにした。

ワークショップ事例2 プレゼンテーション資料
<report_050914_2.pdf (約2000KB)>
report_050914_2.pdf
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■パネルディスカッション

最後のパネルディスカッションでは,発表者以外にITコーディネータ京都の会員3名を加え,地域で活動することの実態報告を行う。

パネリスト4名は以下のプロフィールを持つ。
  中村事務局長 情報処理サービス業勤務,中小企業診断士,ISMS主任審査員,社労士
  洲崎 章弘  鋳物製造業経営,中小企業診断士
  藤原 正樹  ITベンダー勤務,中小企業診断士,公認情報システム監査人
  中川 普巳重 新規事業支援業,中小企業診断士

このようにパネリストは,本業の傍ら,ITCとしての活動,そしてNPO法人の役職をこなしている。本業においても地域企業への支援業務は行っているものの,地域企業のために自らのプライベートな時間をも割いている。

中小企業向けの施策は多くあるが,一般には対象となる中小企業の認知度が低いという問題点が良く指摘されている。制度があっても利用されていないのが現実であり,実施部隊を有さない行政としての施策の限界はここにあるのかもしれない。

一方で,当NPO法人のように,個人からの年会費(5000円)のみを資金源として,個人の力を合わせることで成果をあげようとしているところもある。

両者をつなぐための活動を双方も試みてはいるが,現在のところをなかなか成果が上がってこない。志を持ちNPO法人に参加しているメンバーの力を地域において発揮させるには,このメカニズムを創設することが必要なのかもしれない。

本パネルディスカッションでは,以上のような課題,限界点をパネラーが発表し,次いで今後の活動の方向性として,以下の提案を行った。

  • 他地域のように銀行との連携パターンでは,企業の一本釣りから抜け出ることはできない。
  • n対1ではなく,n対n,すなわち京都試作ネットの事例のように中小企業の共同体をITC集団がサポートするという「京都モデル」を推進することが必要であろう。
  • このためには,このづくりにもITCコミュニティがかかわっていく必要がある。京都はユニークな企業を生み出す土壌がありながら閉鎖的なところもあるので,モデルとしては最適な場所であろう。