2005(平成17)年度 活動報告


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IT経営応援隊事業

IT経営応援隊事業のうち,事例発表&相談会(IT利活用による経営革新セミナー)及び経営者研修会では,(財)京都市中小企業支援センターに運営協力し,経営者研修会事業およびIT経営成熟度診断事業(2種類)を主催しました。

1) IT利活用による経営革新セミナー

京都のベンチャービジネスの草分け的存在である堀場雅夫氏の基調講演に続き,ファブレスメーカーとして躍進著しい大阪の(株)フクナガエンジニアリング社長福永政弘氏の講演,次いで酒類販売店としてはネット販売の他特色のある複数店舗を運営する(株)もりもと社長森本章氏の講演でIT経営成功の秘訣を披露しました。参加者数:147名。これに続いて希望企業5社には,個別の経営相談を実施しました。

事例発表&相談会の風景
事例発表&相談会の風景

2) 経営者研修会

地元企業の経営管理職層に対して,IT経営企画を策定する実践研修会を開催しました。途中で脱落する企業はなく,作成したIT経営企画書をそのまま実行すると答えた人が9名と,これまで京都地域で実施した研修会の中でもっとも成功したケースでした。

 開催日時 : 200510月1日,8日,15日,22日,29日の毎土曜日 6時間×5回=30時間
 参加企業 : 12社 23名

※同種の経営者研修会を(財)京都市中小企業支援センター主催で11月にも実施し,こちらは13社16名の経営管理層が参加されました。幣NPOから6名のITコーディネータがインストラクターとして出講しました。

3) IT経営成熟度診断事業

この事業では,2名のITコーディネータが対象企業を訪問しておこなう出張形式の実践研修です。受け入れる企業側は,部署横断的な自己診断プロジェクトチームを編成して対応します。企業として組織的な合意が形成され,組織の意識ベクトルが統一されます。

前期 IT経営応援隊事業

実施時期 : 2005年11月~2006年1月 参加ITC6名
対象 : 経営者研修会から2社(総合印刷業,プラスチック成型品製造業),その他1社(印刷業)

後期 IT経営応援隊事業

実施時期 : 2005年11月~2006年1月 参加ITC6名

対象 : 経営者研修会から3社(プラスチック成型品製造業,精密金属加工業,電子応用製品)うち2社は金融機関からの紹介及び公的支援機関の専門家派遣制度を継続して利用。

社会情報学フェア2005 での発表

2005年9月12日 ~ 14日の3日間, 京都大学吉田キャンパス構内,百周年時計台記念館 百周年記念ホールで700名を超える参加者を迎えて盛大に開催された「社会情報学フェア」において,「地域産業の情報化を考える」と題して,当会会員が出席してワークショップが開催されました。

日本社会情報学会(The Japan Society for Socio-Information Studies)とは,社会情報学及び社会情報に関する研究を行う研究者,ならびにこれに関連する分野を研究する者の相互の協力を促進し,併せて外国の学会との交流を図り,以て我が国における社会情報学の発展と普及,ならびに学術文化の向上に寄与することを目的として設立されました。(日本社会情報学会規約より)

社会情報学とは,情報学,社会科学の境界に広がる学問領域です。
問題意識や研究成果を共有し,社会情報学の将来を展望するため,社会情報学に関わる多様なイベントを集めた社会情報学フェアを開催しています。

<報告>ワークショップ 地域産業の情報化を考える

9月12日から14日まで,京都大学において開催された社会情報学フェア2005の一環として,9月14日に掲題のワークショップを開催しました。
以下,その内容をご報告します。

オーガナイザー : 宗平 順己

1. このワークショップのねらい

地域振興にあたって,常に課題になるのが,地域に雇用の場を確保することである。このため,各地で工業団地が計画され,工場誘致が図られたものの,ここで必要とされる労働力は情報の格差が小さくくなった現在,若者にとって魅力のある職場とは言いがたい。誘致された工場は,基本的には東京などに本社を置く企業の一生産部門であり,創造的な活動の場ではなかったからである。

地方であっても魅力のある企業は,地元に本社を持ち,自らの手腕でビジネスを展開する力のある企業である。かつては,これらは地場産業として大きな雇用力を有していたが,産業のグローバル化に伴い,自らのビジネスモデルを変革できた企業を除き,衰退の一途をたどっている。

これら地方にある企業のほとんどは中小企業である。中小企業の衰退は即ち地域の衰退につながることから,これまで様々な施策が実施されてきた。特に懸念されているのが情報化の遅れである。その多くを中小企業が占める地域の産業の情報化を考えた場合,ITコーディネータの役割が極めて重要なものとなってきている。

情報化の推進役である大手SIベンダーは,いわゆる大企業や中堅企業を顧客ターゲットとしており,中小企業に対してビジネスを展開していない。

このため、中小企業の情報化は,主流からは取り残された形で,進められてきた。この状況を打破し,正しく中小企業の情報化を進めるために設けられたのが,ITコーディネータである。

ITコーディネータには,税理士や経営コンサルタントも多く,経営面に加え,情報化という面でも,中小企業を支援する役割を担いつつある。

本ワークショップでは,京都・滋賀において地元企業の情報化を支援したITコーディネータから事例報告を行い,中小企業の情報化推進を実態を把握するとともに,彼らの点の活動を面の活動へと展開するための課題テーマ等について議論した。

2. 本ワークショップの主体

本ワークショップは,京都在住のITコーディネータの集まりである,NPO法人ITコーディネータ京都が発表主体となっている。

このNPOへの参加メンバーは,コンサルタント,SIベンダー,会計士,税理士,企業の情報システム部門など様々なであり,京都に住むあるいは勤務しているという地縁集団である。平常の勤務の傍ら,自らの能力を磨き,なんとか地元のための貢献したいという志を有する人たちでもある。

3. ワークショップの内容

本ワークショップは以下のプログラム構成であった。

■事例報告 - 1

ITコーディネータ京都が経済産業省のITSSP事業の一環として情報化計画の策定指導を行った「京都試作ネット」の事例を紹介する。京都試作ネットは,その名のとおり,京都の企業が集まって試作品作成ビジネスをネット上で展開しているものである。試作機能は企業のグローバル展開においても国内に残る機能のひとつであり,そこにビジネスチャンスを見つけている事例である。

加えて,一企業が単独でビジネスを展開するのではなく,複数社が参画し,お互いの得意分野を補完しあってバーチャルカンパニーを構成しており,新たな地場産業作りの草分けともいえる事例でもある。

彼らのビジネスモデルの特長は,スピード感にある。ネットを通じてよせられる引き合いに対して,短時間で見積もりを出すことをコア・コンピタンスの一つとしている。そしてこのビジネスを持続させるために参加企業に不公平感を持たさないことも大きな特徴となっている。

ITコーディネータ京都は,この特徴あるしくみを支える情報システムを構築するにあたり,戦略的IT投資コンサルを行い,その後独自にシステム導入を果たしている。

本事例報告では,この支援内容を紹介するとともに,システム導入後のビジネス展開についてフォローした。

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ワークショップ事例1 プレゼンテーション資料
<report_050914_1.pdf (約900KB)>
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■事例報告 - 2

ITコーディネータは特異なコミュニティを形成している。都道府県ごとに組織化されている他の「士」の組織とは異なり,「知縁」や「地縁」に基づき自主的に形成されたコミュニティを作っている。

このようなコミュニティ形成の背景には,,ITCの資格取得時に実施されるケース研修と資格取得後の知識ポイント制度というものがある。

ケース研修は35名程度のクラスで,5~6名のチーム編成で,15日間にわたり,モデル企業の計戦略の策定から情報化戦略の策定,運用モニタリングまで一連のプロセスをサポートするコンサルタントを仮想体験するものである。研修は,終日あり,ITCインストラクターの指導を受けながら,グループディスカッションを繰り返しながら,チームとして,課題への回答を形成していく,参画型研修になっている。

このようなタイプの研修は他にもあり,同窓会的な集まりは持たれているケースも多い。しかしながら,ITCのコミュニティは,密度の高いコミュニケーションを卒業も維持している。この原動力となっているのが,知識ポイント制度である。ITCの資格は毎年更新を必要とされ,所定の知識ポイントと実務ポイントを獲得しなければ,資格を失うことになっている。このため,ケース研修の卒業生が集まって,自主勉強会組織を形成している。これが図に示す137のコミュニティのうち,初期に形成されたものはこのような「知縁」のものが多くを占める。

一方,すべてのケース研修クラスがこのような「知縁」によるコミュニティを形成できているわけではない。都道府県単位に「地縁」によるコミュニティを形成しているケースもある。ケース研修には各地から集まる場合もあり,地理的な制約から卒業生コミュニティに参画しづらい場合,日常の活動の場が近いもの同士が集まって,知識ポイントの獲得のための自主勉強会組織を形成している。この「地縁」によるコミュニティでも多様なプロファイルを持つ人材が集まっている。そのため,自然の流れとして,共同で案件を受託できないかという活動へと発展しつつある。

NPO法人ITコーディネータ京都は,このような背景を持ち,当初はITC京都という地縁のコミュニティとして設立された。

会長の強い指導力により,当初からビジネスを志向しており,自主研究会だけでなく,京都におけるIITSSP事業の実施集団としての活動もしており,その結果2004年度にNPO法人として再出発することとなった。

本事例報告では,同様の活動を行っている他のITCコミュニティのビジネスモデルも紹介しながら,コンサルタントの点の活動を面的な活動へと広げる際の課題について,浮き彫りにした。

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ワークショップ事例2 プレゼンテーション資料
<report_050914_2.pdf (約2000KB)>
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■パネルディスカッション

最後のパネルディスカッションでは,発表者以外にITコーディネータ京都の会員3名を加え,地域で活動することの実態報告を行う。

パネリスト4名は以下のプロフィールを持つ。

  中村事務局長 情報処理サービス業勤務,中小企業診断士,ISMS主任審査員,社労士

  洲崎 章弘  鋳物製造業経営,中小企業診断士

  藤原 正樹  ITベンダー勤務,中小企業診断士,公認情報システム監査人

  中川 普巳重 新規事業支援業,中小企業診断士

中小企業向けの施策は多くあるが,一般には対象となる中小企業の認知度が低いという問題点が良く指摘されている。制度があっても利用されていないのが現実であり,実施部隊を有さない行政としての施策の限界はここにあるのかもしれない。

一方で,当NPO法人のように,個人からの年会費(5000円)のみを資金源として,個人の力を合わせることで成果をあげようとしているところもある。

両者をつなぐための活動を双方も試みてはいるが,現在のところをなかなか成果が上がってこない。志を持ちNPO法人に参加しているメンバーの力を地域において発揮させるには,このメカニズムを創設することが必要なのかもしれない。

本パネルディスカッションでは,以上のような課題,限界点をパネラーが発表し,次いで今後の活動の方向性として,以下の提案を行った。

  • 他地域のように銀行との連携パターンでは,企業の一本釣りから抜け出ることはできない。
  • n対1ではなく,n対n,すなわち京都試作ネットの事例のように中小企業の共同体をITC集団がサポートするという「京都モデル」を推進することが必要であろう。
  • このためには,このづくりにもITCコミュニティがかかわっていく必要がある。京都はユニークな企業を生み出す土壌がありながら閉鎖的なところもあるので,モデルとしては最適な場所であろう。

このようにパネリストは,本業の傍ら,ITCとしての活動,そしてNPO法人の役職をこなしている。本業においても地域企業への支援業務は行っているものの,地域企業のために自らのプライベートな時間をも割いている。

オフィスオートメーション学会

 第51回全国大会発表

2005年11月5~6日の2日間, 大阪成蹊大学現代経営情報学部におきまして「オフィス・オートメーション学会」全国大会が開催されました。

中小企業における情報化成熟度モデルの提言と題しまして,当法人会員7名による共同研究成果の発表を行いました。 藤原氏による発表を多数の参加者が聴講され,活発な質疑応答がなされました。

オフィス・オートメーション学会とは?(以下:OA学会)

OA学会は、「オフィス・オートメーション」という概念のもとに、まさにオフィスシステムそのものにとどまらず、経営システム、 企業システム、そして経営情報システム、社会情報システムなど各種の情報システム現象を理論的・実践的に研究する学際的な場として1979年 秋に設立(1980年5月、第1回全国大会)されて今日に至っている。経営学を基軸において学際的な情報システム論的研究を掲げたわが国最初の学会であり、現在、日本学術会議第3部会の所属学会として当該 研究領域の発展において一貫して中枢的役割を担っている。

プレゼンテーション風景
プレゼンテーション風景
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発表資料【パワーポイントはこちら】
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<発表内容>

中小企業における情報化成熟度モデルの提言【抜粋】

NPO法人ITコーディネータ京都

藤原 正樹,柏原 秀明,津田 博,成岡 秀夫,宗平 順巳,杉村 麻記子,若松 敏幸

1. NPO法人ITコーディネータ京都の紹介

発表のはじめに当NPO法人の紹介を行った。

  • 2002年4月ITコーディネータ制度の普及,促進のための地域版として「ITC京都」を立ち上げ
  • 2004年6月 NPO法人「ITコーディネータ京都」設立
  • NPO法人ITコーディネータ京都は,ITコーディネータ制度の地域社会への浸透を目指し,戦略的な情報化投資に熱意と意欲をもつ不特定多数に対して支援活動を行うとともに,ITコーディネータなどの能力向上,育成,普及を図る。
  • 今回の発表は,有志7名の共同研究である。 

2. 調査の目的,内容,対象企業

本研究では,情報システムを活用して経営革新を実現した先進中小企業の事例調査を通じて,中小企業向け情報化投資評価方法,および情報化投資を最適化する組織能力評価方法を研究する。具体的な調査目的,内容,対象企業は以下の通り。

(1) ヒヤリング,調査の目的

中小企業向けの情報化投資マネジメント,投資評価方法を検討する。

(2) ヒヤリング対象企業

経済産業省がすすめる「IT活用型経営革新モデル事業」に採択された先進中小企業を対象とする。

(3) ヒヤリングの内容,方法

①モデル事業採択事業の実施結果,②IT活用の企業スキル,③業績評価指標の活用状況,等について担当者が当該企業を直接訪問し,ヒヤリングを実施した。

3. ヒヤリング対象企業の4タイプ

今回ヒアリングを実施した14社は以下の4つのタイプに分類される。

(1) IT新規導入による個別業務効率化タイプ

ITを使って,従来手作業でやっていた業務を効率化した。懸案事項が解決したため, 情報活用の次の方向が見え始めている。新規事業展開や経営革新に積極的に取り組み始めている。 【いわゆる典型的なモデル】

(2) ビジネスプロセス再構築型IT導入タイプ

従来のコンピュータ処理を見直し,ビジネスプロセスを再構築しながら 自社の経営課題解決に向けITを導入した。モニタリングにも着手している。【ITコーディネータ等が参画するケース】

(3) 業界標準ビジネスシステム構築タイプ

業界団体として,業界標準のビジネスプロトコルを決めるとともに,それを標準システムとして開発し, 関係企業に提供している。

(4) 戦略的ITマネジメント実施タイプ

優良大企業ばりの経営戦略と一体となったIT投資マネジメントを実施し,継続的にIT投資を実施している。

★上記4つのタイプの中で,中小企業成熟度モデルのベースとなり得るのは,(1)・(2)である。

4. ヒヤリング結果と分析

(1)「IT活用型経営革新モデル事業」採択事業の成果

→ 今回ヒアリングをした14社は,情報化投資で具体的な成果を上げていて,ほとんどの企業が投資マネジメントを実施している。
※従来の中小企業では,情報化投資のマネジメントを継続的に実施している企業例はまれで,年商100億未満企業ではIT投資の事後評価は7%に満たない状況(JUAS調査)であった。

(2) ITを活用する企業スキルについて

→ いずれも積極的に経営革新に取り組んでいる。

業績評価のためのモニタリング活動を開始した(ITCなどの支援あり)情報システムの管理については,アウトソーシング志向。

5. 中小企業向け情報化成熟度モデルに向けて

(1) 情報化投資評価,マネジメントのためのフレーム

中小企業が情報化投資で効果を上げていくためには,下記のような情報化投資マネジメント・サイクルの成熟度をあげていく必要がある。

(2) 中小企業向け情報投資マネジメントの重点事項

中小企業向け情報化投資を最適化するための重点ポイントは以下のとおり。

■経営革新・経営戦略と一体となった情報システム導入の推進

■業績評価指標を導入し,継続的に評価・改善を続けていくこと

 投資評価のための業績評価指標(KPI)を導入し,マネジメントサイクルの成熟度を高めていく。

 経営革新を推進していく梃子として,ITの積極的活用を行う。経営革新と情報化は表裏一体といえる。

■情報システムの開発・管理・運用は,外部資源を活用する

 情報システムのマネジメントについては,アウトソーシングを積極的に推し進める。

6. おわりに

今回の研究を発展させる上で,今後の課題は以下の3点である。

第1は,情報システムを活用して効果を上げている企業の固有能力を評価する方法

第2は,中小企業の情報を進めるにあたっての外部資源活用の方向

第3は,これらをふまえて本論のテーマである「中小企業むけ情報化成熟度モデル」を作り上げること 

7. コメント

発表後のコメントでは,大阪成蹊大学の國友義久教授より,「中小企業むけ情報化成熟度モデル」に向けての以下のようなアドバイスを頂戴した。

  • 成熟度モデルの仮説を立てた上での検証アプローチを検討するべき。
  • 経営革新と一体化した情報化推進にあたり,IT要件策定で失敗しないためのポイントがなにかを見極めていただきたい。

これらのご意見をふまえて,今後も当法人の継続研究課題としてモデル策定を進めていきたい。 

※最後に,本研究・調査にあたり,積極的な協力を受けた14社をここに記して謝意を表します。

株式会社 サンリット産業,株式会社 全国自治管理組合連合会,タナカ工業株式会社,株式会社 デリコ,東海バネ工業株式会社,ケニス株式会社,株式会社三晃,社団法人 日本塗料工業会,梅田和紙株式会社,昭和電機株式会社,株式会社武田,社団法人 西日本プラスチック製品工業協会,ナルックス株式会社,フジ矢株式会社 【順不同】

プレゼンテーション風景
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