介護現場をAIが救う!

 2019年に本コラムへ「介護支援をITが救う!」を寄稿しました。当時、私が支援したのは、スマートフォンで利用者ごとの介護手順を確認し、実施記録をクラウド上に作成するシステムでした。紙の手順書を事業所で受け取り、訪問後に手書き記録を持ち帰る働き方を見直し、ヘルパーの直行直帰や情報共有につなげる取り組みです。その結びに「将来的にはAIを活用したケアプランの作成も可能になるでしょう」と記しました。それから7年、AIは「将来の可能性」から、介護現場で使い方を具体的に検討する道具へと変わってきました。

■まず効果が見えた記録業務

 その後、ITC京都内において2020年5月に介護ソリューション研究会を立ち上げ、6年間にわたり、月1回のペースで介護事業者も交えた協議を重ねてきました。特に昨年度からは、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援、デイサービス、小規模多機能型居宅介護などの現場を対象に、生成AIをどの業務に適用できるか、職員の皆さんへのヒアリングと、研究会メンバーによる試行を重ねてきました。その中で、特に手応えを感じているのが記録業務です。

 

 サービス担当者会議では、ケアマネジャーを中心に、介護職、看護職、福祉用具事業者などが利用者の状況や支援方針を話し合います。そしてその内容を会議後に整理し、「サービス担当者会議の要点」という所定のフォーマットへまとめますが、作業には時間がかかります。

 

 最近では、会議をAIボイスレコーダーで録音し、文字起こしした内容を生成AIで要約したうえで、会議の目的、検討内容、結論、残された課題など、所定の項目に沿って整理できるようになってきました。単なる全文の文字起こしではなく、実務で使う様式にマッピングできる点が大きな進歩です。職員はゼロから文章を起こすのではなく、AIが作った下書きを原音やメモと照合し、修正して完成させます。記録時間の短縮だけでなく、書き漏らしの防止や記録品質の均一化にもつながることが期待されます。

 同じ考え方は、日々の介護記録、申し送り、ヒヤリハット報告、利用者家族への報告などにも活用できます。また、利用者や家族からのカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応にも応用できます。やり取りを音声で記録し、文字起こしと要約によって事実経過を共有すれば、管理者が早期に状況を把握し、組織として毅然と対応できます。管理者の曖昧な対応は、職員を孤立させ、離職につながりかねません。ただし、AIを利用する際は、録音についての説明や個人情報の管理に加え、AIの聞き間違いや誤要約にも注意し、最終確認は人が行うことが前提です。

 

 実際に試してみると、AIへの指示の出し方によって結果は大きく変わります。「要約してください」だけでは、介護記録として必要な情報が抜けたり、逆に不要な会話が残ったりします。使用する様式の項目、文字数、専門用語の扱い、「推測で補わない」といった条件をあらかじめ指示し、良い出力例を示すことが有効でした。AIを選ぶこと以上に、現場で繰り返し使える指示文と確認手順を整えることが重要だと感じています。

 

■計画業務にも広がるAI

 AIの適用範囲は今ではケアマネジャーのケアプラン作成においてもアセスメント情報や本人・家族の意向をもとに、課題、長期目標、短期目標、サービス内容の案を作ることができます。AIが完成したケアプランを決めるのではなく、専門職が検討するための「たたき台」を短時間で用意する使い方です。あるいは自ら作成したプランの原案をAIに評価してもらう、いわゆる「壁打ち」的な使い方もあります。経験の浅い職員の視点を補い、ベテラン職員には文章作成の負担を減らす効果が期待できます。

 

 さらに、ヘルパーの勤務シフト計画、デイサービスの入浴予定、送迎計画、介護タクシーの配車計画など、複数の条件を組み合わせる業務にも活用できると考えます。これらの計画作成には、多くの時間を要します。職員の資格、勤務可能時間、利用者の希望、移動時間、車両条件などを整理し、AIに複数案を出させれば、担当者は調整と判断に集中できます。ただし、AIの作成結果に完璧を求めず、たたき台として活用することが大切です。そのためにも、業務ルールを整理し、結果を検証する仕組みが欠かせません。

 

■研修と情報発信を支えるAI

 人材不足の介護現場では、研修資料の作成も大きな負担です。BCP、災害対応、認知症ケア、看取り、事故防止などについて、現場の事例や既存資料を生成AIに読み込ませれば、スライド、講師用の読み原稿、確認問題、イラスト案まで作成できます。日本語をやさしく言い換えたり、多言語化したりすることで、外国人スタッフへの教育にも応用できます。

 

 また、施設での行事や利用者の一週間の様子を家族向けのお便りにまとめる、寄附募集や採用のためのWeb・SNS原稿を作る、レクリエーションの企画案を出すなど、AIは現場の周辺業務も支援できます。こうした作業に費やす時間を減らすことができれば、職員が利用者と向き合う時間を増やすことにつながります。

 

 一方、すべてを一つの生成AIで行う必要はありません。音声の文字起こしが得意なもの、長い資料の整理が得意なもの、スライド作成に向くものなど、それぞれ特徴があります。無償版で小さく試し、情報管理や利用頻度、必要な機能を確認してから有償版や介護専用システムを検討する進め方が現実的です。既存の介護記録ソフトとの二重入力を増やさないことも大切です。

 

■AI導入の出発点は業務の見直し

 厚生労働省の最新推計では、2026年度に約240万人、2040年度に約272万人の介護職員が必要とされています。2024年10月時点の介護職員数約212.6万人と、2026年度の必要数との間には、単純計算で約27万人の開きがあります。また、特に訪問介護員では、83.4%の事業所が人材不足を感じているとの調査結果もあります。そのような中で、業務の効率化は喫緊の課題ですが、介護現場をAIが救う、といっても、AIを導入するだけで課題が解決するわけではありません。まず、どの業務に時間がかかり、どこで転記や手戻りが発生しているのかを現場と一緒に見える化する必要があります。そのうえで、小さな業務から試し、作業時間や記録の正確さを測り、使い方を標準化していくことが重要です。

 

 経営者だけで導入を決めても、現場が「仕事が増える」と感じれば定着しません。反対に、現場の便利な使い方を個人任せにすると、情報漏えいや品質のばらつきが生じます。対象業務、入力してよい情報、確認者、保存方法をルール化し、職員と一緒に改善を続けることが必要です。

 

 介護の本質は、人が人を支えることにあります。AIは、その判断や温かさに代わるものではありません。しかし、記録、計画、研修などを支える「頼れる助手」にはなり得ます。AIに任せる仕事と、人にしかできない仕事を切り分け、職員が利用者に向き合う時間を取り戻すことが重要です。そのためにはAIに頼り切らず、誤った回答を見抜く「判断のものさし」を、現場経験を通じて磨く必要があります。介護の言葉とAI・ITの言葉をつなぎ、その適切な活用を伴走支援することが、これからのITコーディネータに求められる役割ではないでしょうか。

 

(参考文献)

・これ一冊でわかる!介護の現場と業界のしくみ 第3版 著者:高山善文 2024.9.6発行

・事例詳解 介護現場における苦情・ハラスメント対応の実務 著者:松宮良典 2021.5.26発行

・介護人材確保の現状について 厚生労働省社会・援護局 2025.11.10発行

 

■執筆者プロフィール

 ヒーリング テクノロジー ラボ  代表 下村 敏和

 ITコーディネータ&インストラクター

 電話番号:075-200-2701

 E-mail:t-shimomura@zeus.eonet.ne.jp