攻めのIT投資で経営改革を! / 下村 敏和

 昨今、我々は金融危機や業界再編そしてグローバル化の進展やライフスタイルの変化など様々な環境変化にさらされています。企業が利益を生み出し続けるためには、経営戦略や企業システムがこれらの変化に追従する俊敏性が必要とされます。そのためにも「攻めのIT投資」による経営改革が不可欠となっています。

■企業環境の変化
 ITの劇的な進化によってユビキタス社会が到来し、中小企業事業者でもIT環境を安価に利用できる時代となりました。千載一遇のチャンスが訪れたと言っても過言ではありません。

1)ライフスタイル・生活者ニーズの多様化
 ライフスタイルの変化には、スーパーからコンビニへそしてオムニ(多様な販売)チャネルへの対応が急速に進んでいる点が挙げられます。消費者は、ショールーミングで見た商品をネットで評判や価格を比較検討してネットで発注し、商品の受取りはコンビニで行うなど「O2O」(オー・ツー・オー)「Online to Offline」または「Offline to Online」が自然な形で行われています。また、電子マネーやスマホの普及でそれらが加速化し、「ネットとリアルの融合」というシームレスな利用環境の整備が求められています。

2)産業のモジュール化によるレイヤー構造化
 従来、消費者は目的の商品を求めてリアル店舗に足を運んで商品を買っていました。今ではネット上のいくつかのモールの中から最適な加盟店を選択してその商品を買うことが出来るようになりました。リアル店舗のある土地、店舗、商品のモジュール化が進展して、ネット、モール、加盟店に分化し、消費者はそれぞれのレイヤーを運営する事業者と直接アクセス出来るようになりました。一方、商品の製造業者は自らの利益を得る付加価値をバリューチェーンの中のどのレイヤーの中で作り込むかが重要となっています。

■攻めのIT投資とは
 経済産業省から昨年12月に東京証券取引所と共同で、上場会社の中から経営革
新や競争力の強化のためにITの積極的活用に取り組んでいる企業を『攻めのIT経
営銘柄』として選定することが発表されました。

1)攻めのIT投資とは
 経済産業省では新規事業分野(新たな価値創造)への投資や既存事業分野の質的・量的改革(利益拡大)のための投資などを「攻めのIT投資」と考え、社内業務(間接業務)の効率化・利便性の向上等のための投資を「守りのIT投資」と仮に位置付けています。

2)日米のIT投資の考え方の違い
 IT予算を増額する企業における増額予算の用途として米国は「製品やサービス開発強化」、「ビジネスモデル変革」などの「攻め」が上位であるのに対し、日本では「ITによる業務効率化/コスト削減」という「守り」に主眼が置かれています。また、経営者のIT関連技術の動向に対する理解も米国と比較すると大きく劣後していると電子情報技術産業協会(JEITA)から調査報告されています。いま、経営者もITが苦手では済まない時代になっています。ITといってもシステム開発・運用などの実務知識ではなく、IT利活用の勘所をもつことが重要なのです。

3)IT部門をプロフィットセンターへ
 他の調査結果からも企業内のIT部門は「安定稼働のための運用管理」や「セキュリティの維持・運用」など「守りのIT」が主担当業務だと認識されており、主体的にビジネスに関与する組織と認識されていないのが実状です。社内のIT人材を社内ローテーションなどで幅広い業務知識と経営面での知識を習得させ、主体的に顧客価値提案ができるような力を付けさせて、コストセンターとしてではなく、
プロフィットセンターとして活用していくことが重要です。

■攻めのIT投資のポイント
 企業においては経営やITの成熟度に合わせた業務改革とIT投資が必要です。従業員のITリテラシーと大幅にかい離していると意味がありません。「環境変化にダイナミックに対応できるIT経営」を実現するためにも、自社が下記4つのIT化レベルのどの段階にあるか、あるいはどこが弱いかを充分認識する必要があります。現在、効率化のためのIT化すら充分に出来ていないという中小企業・小規模事業者も多いと思いますが、効率化のためのIT導入だけでは、市場の変化に対応して新たな市場、新たなビジネスモデルを創出することは極めて困難となります。

1)現状のIT化(効率化のためのIT化)
 直接的に利益の向上額が把握できるIT化として省力化(労務費)、在庫削減(金利、保管費)、経費節減(輸送費、通信費)などがあります。また利益向上額まで把握できないが、効果目標は数値化可能なIT化として、クレーム数の減少、納期短縮、迅速化、正確化などのIT投資になります。

2)改善のIT化
 企業間ネットワーク、内部統制、コンプライアンス等の有効性向上のためのIT化としてセキュリティ強化やBCP(事業継続計画)へのサーバ二重化/クラウド化など社会的責任(CSR)を果たし、付加価値を高めるIT投資になります。

3)顧客開拓のIT化
 CRM(Customer Relationship Management)、WEBサイト、ネット活用、データ活用等、新市場を求めての外部のためのIT化で、顧客の囲い込み(CRM)、検討顧客の誘導・新規顧客の開拓(WEB,SNS)、ネット販売による販路拡大(EC、モール出店)、ビッグデータ分析による見える化などマーケティングでの的確な判断(データ活用)そして先のO2Oでのシームレスな環境整備など「攻め」のIT投
資になります。

4)社会価値創造のためのIT化
 新しいビジネスモデルや社会的責任達成のためのIT化で、新たなビジネスモデルとして顧客価値提案、利益の生みだす仕組み、プロセスの構築(自社の資源と活動、パートナーとの協業、どのレイヤーを分担するか)等を明確化し、社会にとってなくてはならない存在になることを目指す「攻め」のIT投資になります。

 国際競争の激しい中においてITの劇的な進化を企業の競争力の源泉にしなくてはならない時代になっています。ITを積極的に活用することにより効率化に留まらず、全く新しいビジネスモデルや顧客価値、社会価値を創出できることを認識し、ぜひ「攻めのIT投資」で経営改革を実現していきましょう。

(参考文献)
 ・経済産業省News Release「攻めのIT経営銘柄」を創設しました!H26.12.9
 ・早稲田大学 WEB研究センター早稲田国際経営研究No.44(2013)  バリュー
  チェーン戦略論からレイヤー戦略論へ
 ・ITコーディネータ(ITC)実践力ガイドライン

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■執筆者プロフィール

ヒーリング テクノロジー ラボ  代表 下村 敏和

ITコーディネータ