キュレーションの未来 / 藤原 正樹

 今回は、”キュレーション”という最近注目されている用語について書きます。

 ”キュレーション”または、”キュレーター”という用語をよく聞くようになりました。キュレーション・サービス、キュレーション・メディアという使い方もされます。
 ネット上に登場した新しいサービスの名前と思われている方も多いですが、実際はもっと大きな社会的変化に他なりません。

■キュレーションとは!?
 日本で「キュレーション」という用語を初めて使用したのは、ITジャーナリストである佐々木俊尚さんが書かれた「キュレーションの時代 ~「つながり」の情報革命が始まる ~」(ちくま新書、2011年2月刊)という書籍だと思います。
 もともとキュレーション(curation)という用語は、博物館や図書館の管理者や館長を意味する「Curator(キュレーター)」が、館内の展示物を整理して見やすくするところからきています(出典:コトバンク)。

 キュレーターが膨大な作品を取捨選択して展示を構成するように、インターネット上にあふれる情報やコンテンツを独自の価値基準で編集して紹介するサービスもキュレーションと呼ばれ、IT用語として広く使われるようになりました。

 先の佐々木俊尚さんによれば、「情報の膨大なノイズの海の中から、どうやってキラリと光るあなただけに重要な情報を取り出すのか。劣化したマスメディアでなければ、無味乾燥な検索エンジンのアルゴリズムでもない。情報と人を結びつけ、そこに人と人のつながりをも生み出す新たな概念」という意味です。

 東日本大震災の後に、この「キュレーション」という用語が注目されたことは偶然ではありません。

■なぜキュレーションが注目されるのか
 現代は、「情報爆発の時代」と言われています。ネットワークの発展により、世の中を流通する情報の量は指数関数的に増加しつつあります。その膨大な情報の中から自分必要とする情報を探し出すのは、至難の業と言えます。

 それでは、どのようにして必要な情報を見つけるか?

 ある調査によれば、人々が何かの購買を検討する際、最も信頼できる情報源は、家族や友人など身近な信頼できる人と答えています。別の表現をすると、信頼できる人がまとめてくれた情報だけが役に立つ情報である、となります。
 どの情報を信用するか、というテーマは、「誰からの情報を信用するか」と言い換えてもいいでしょう。

■キュレーション・サービスのあれこれ
 ネット上には多くのキュレーション・サービスやキューレーション・メディアが登場しています。皆さんがご存じのサービス例をいくつか紹介しましょう。

(1)ニュースまとめ系サイト
 SmartNews、Gnosyなどが有名です。自社では、ニュース記事を作らず、ネット上を流れているニュースを整理して再配信するサイトです。

(2)NAVERまとめなどのまとめ系サイト
 誰でもがまとめ記事を作成できるまとめ系サイトです。Twitterのつぶやきをまとめる「Togetter」も同様のサービスです。

(3)画像、動画系サイト
 ニュースまとめサイトが文字情報中心なのに対して、画像、動画を中心としてサービスも注目を集めています。
 「Antenna(アンテナ)」というサービスは女性を主な対象としたサービスで、写真を中心とした画面構成となっています。
 Line元社長である森川亮氏が最近立ち上げたサービスである「C Channel」は動画が中心で”クリッパー”と呼ばれる女性たちがファッションやメイク、フード、トラベルなどの情報を紹介するサービスです。

 このように多くのキュレーション・サービス、キューレーション・メディアが登場しています。

 先の佐々木俊尚さんが5年前に定義したキューレーションでは、人の手による情報の整理と新たな価値の付与が想定されていました。ところが、ここで紹介したサービスの多くはビッグデータの解析技術を用いており、アルゴリズムによるキュレーションと言えます。キュレーション・サービスは、アルゴリズムによるものが主流となっていますが、キュレータを介した人と人とのつながりである点が重要です。

■これからの時代に必要なキュレーターとは!?
 既存のメディアが存在感を失い、”情報洪水”に人々が溺れがちになっている現在、先に紹介したキュレーションサービスは、多くの支持を集めています。
 しかし、これらのキュレーションサービスは、既存メディアに変わる新メディアに過ぎません。「キュレーションの時代」と言われる社会変化の1側面に過ぎないのです。

 キュレーションの時代とは、人と人の「つながり」を介して情報をやりとりする時代に他なりません。この時代を体現しているのは、先のキュレーション・サービスではなく、ネット上に無数に存在するコミュニティではないかと思います。
 それらのコミュニティは、友人関係や趣味が同じ人の集まり、特定の商品のファンの集まりなど多様ですが、「ネット上にある情報を集め、新たな価値を付与してみんなで共有する」ことで成立していると言えます。

 キュレーションの流れは、アルゴリズムによるサービスが目に付きますが、人と人とのつながりから生まれる無数のコミュニティにも注目していきたいと思います。

<参考文献>
・佐々木俊尚著「キュレーションの時代 ~~「つながり」の情報革命が始まる ~」(ちくま新書、2011年2月刊)
・「定義がどんどん拡大してる「キュレーション」の未来はどっちだ!? 」
 佐々木俊尚の未来地図レポート 2014.3.31 Vol.289

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■執筆者プロフィール

藤原正樹(フジワラ マサキ)

NPO法人ITコーディネータ京都 理事
公立大学法人 宮城大学 事業構想学部 教授
博士(経営情報学)
中小企業診断士 公認情報システム監査人(CISA)