経営とITの橋渡し/成岡 秀夫

ITCの役目の大きな柱の中に「経営とITの橋渡し」という言葉があるが、これが簡単そう
でなかなか難しい命題である。確かにITCの仕事は、「経営とITの橋渡し」と言えるかも
知れない。しかし、過去において、この橋がうまくかからなかったために、莫大なコスト
をかけ、IT化に取り組み、一敗地にまみれた企業やプロジェクトは、数限りなく存在する。

なぜだろうか?そうそうたるプロジェクトメンバーや一流ベンダーやSEを投入し、結果が
出ない、出せないIT化投資がいかに多いことか。

ここで、忘れてならないもうひとつの重要なポイントは、「経営の革新」である。IT化は
そのための方法論であり、ITの導入はそのためのツールの導入である。

導入したツールをうまく使いこなし、結果を出し、業績の向上や顧客満足の向上につなげ
るには、ひとえに「経営を革新する」ことを鮮明に打ち出すことと、「経営を革新するこ
とを全体の共通の価値観として持つ」ことが重要ではないだろうか。

往々にして、トップマネジメントの考え方が現場から遊離していたり、理想を追い求めす
ぎて身分不相応な過大投資になったり、将来を悲観的に考えすぎて消極的になったり、技
術的なことが不透明、不明確にもかかわらず見切り発車が行なわれたり、IT化投資に対す
る問題点は色々なところに見受けられる。

それもこれも、「経営の革新」という視点がぼけているのであり、そのような企業の状態
であれば、「経営とITの橋渡し」を行なおうとしても、非常に無理を生じる。

まず、きちんと橋渡しができるには、両岸の高さを正確に測定し、そのギャップがどのく
らいかを把握し認識することである。この、現状認識からすべては出発するのであり、や
みくもに「ITの導入」が先行しては本末転倒である。現状を正確に認識して、それが思っ
ていたよりも後ろ向きの結果が出ても、別に悲観したりすることはない。そこで、そのこ
とがきちんと分かっただけでも、大収穫である。

IT化の理念だけが先行してしまうと、「ITの導入」が、そのこと自体目的化してしまい、
ハードとソフトを導入したことですべてが終了し、これで簡単に結果が出るような錯覚に
陥る。

橋の両岸の高さを揃えることは、非常に困難伴うことが多い。経営の現場はどうしても毎
日の現状を重視することになり、日々発生する目先の問題の対応に追われ、IT導入の大前
提である「経営の革新を目指した全体最適」の理想からは次第に距離が出来るようになり、
そのギャップは大きい。

両岸の高さが異なる場合は、途中に橋脚を設けて、緩やかに傾斜を調整したり、調整が出
来ないほどのギャップが大きい場合は、時間とコストはかかっても、ループを造って迂回
したり、二重構造にしたりしないと解消できない場合がある。あまり落差が大きいと、橋
はかからないから、その場合は、色々な条件が整うまで、実行を見送る場合があってもよ
い。何も、拙速にことを運ぶことが大事なのではない。時には、全体のリテラシーを高め、
経営基盤を固めることに優先順位を置く方が、将来にわたって効果的な場合もある。

このような状況を冷静に見極め、この傾斜の落差をどの程度の時間とコストをかけて解消
していくかは、重要なポイントである。特に、「経営の成熟度」が低い場合には、導入後
の運用面での障害が大きく、実効が上らないことが予想できるから、情報化の基盤整備に
充分な時間とエネルギーをかけるべきである。

企業のIT化を推進する場合は、「経営とIT」に橋をかけるにあたり、この「両岸の落差」
を冷静に、かつ、客観的に分析し、効果的かつ速やかに実効があがる方法を選択する必要
がある。何も、流行に振り回される必要もないし、他の企業と足並みをそろえる必要もな
い。要は、経営の革新」をどうやって実行していくかであるのだから。


■執筆者プロフィール

成岡秀夫 naruoka@dohoprit.co.jp
1952年生まれ。1974年大学卒業後、化学繊維メーカーで新規化学繊維の開発に従事。
1984年同朋舎出版に移籍。1997年図書印刷同朋舎に移籍。
中小企業診断士。上級システムアドミニストレータ。生まれる前からの阪神ファン。

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