企業文化/成岡 秀夫

最近、会社を変わって、また、「企業文化」ということを強く感じることがあった。移籍した会社は、比較的平均年齢が若いこともあって、デジタル技術への対応には全く違和感がない。しかし、よくよく見ると、そんなに難しいマネジメントを日常行っているのではないことに気が付いた。コミュニケーションのツールは、ほとんどメールとOUTLOOKの予定表のみである。ただ、このメールの使い方が、生半可ではなく、上から下まで徹底している。とにかく、何か新しい案件が持ち上がったり、プロジェクトが始まったりしたら、まず、社内で「メーリングリスト(以下MLと略する)」が立ち上がる。参加メンバーは、挙手の自主参加もあれば、業務命令による強制参加もある。しかしながら、どのような形態にせよ、プロジェクトリーダーがメンバーを募り、リーダーがメンバーのアドレスをMLに登録要請する。要請を受けたシステム管理者は、すぐにMLを立ち上げる。社員40名、パート、アルバイト、派遣社員入れて総勢80名くらいの会社で、MLが20グループほどあり、1日にものすごい量のメールが飛び交う。もちろん、パート、アルバイト、派遣社員にもアドレスが割り振られる。
連休の3日間、パソコンを開かなかったら、休日3日間でも山のごとくメールが溜まっていた。連絡事項はもとより、届出の書類、討議や議論、営業からの顧客情報、商品開発からの進捗状況、経営トップからのメッセージ、その他何でもありである。情報セキュリティという面では、いささか問題がないでもないが、情報の漏洩より、情報共有のスピードを重要視している。うっかりすると、非常に重要なものを見落としてしまうくらい、沢山のメールが飛び交う。また、投げかけにはすぐに反応するのが決まりである。黙っていると、反応がないのは「肯定」でも「否定」でもないから、「AGREE」か「AGREEでない」か、あるいは代案があるのかないのかは、すぐに意思表示をしなければならない。「無反応」はメンバーから「無視」されることである。
もちろん、自宅にパソコンを持って帰るし、休日にもメールが飛び交う。ここまで徹底すると、中途半端なグループウエアなどより、はるかに効率的、かつ、効果的である。もっとも、京都と東京に事業所が分散していたり、東京のオフィスも、同じビルの異なるフロアーに入居していたり、固有の事情はあるが、それを割り引いても、ここまでやるか?という徹底振りである。初めは、正直戸惑った感じは否めなかった。すぐそこにいる人にまでメールを送るのは、いささか気が引けたが、やってみると、そんなに違和感はない。そこには、長い時間をかけて積み上げてきた暗黙の了解や規範があって、トップから末端まで、例外なくそれを実行するという「文化」が存在する。
このような方法が「企業文化」といえるまでに成熟するには、相当時間がかかったはずである。意識改革もしかり。環境整備もしかり。社内の床には、LANを接続するHUBと電源のターミナルがごろごろ転がっている。会議には全員パソコン持参で、電源コードとLANケーブルを持ち歩く。遅く来るとデスクに座れない者は、膝にパソコンを抱いての参加となる。会議には必ず書記を決めて、その場で会議のレジメの下にどんどんテキストで議事録を打っていき、それをプロジェクターで正面に映写しながら、確認していく。営業の数字の報告も、その場で共有フォルダーのデータを更新する。会議が終わると、すぐに議事録はサーバの共有フォルダーにアップされ、全員で共有される。かつ、参加しなかった者にも、議事録は共有される。この調子で、会議であろうと、プロジェクトであろうと、営業の提案であろうと、商品開発からのメッセージであろうと、どんどんメールは流れて、どんどんファイルは更新かつ共有されていく。これに、タイムリーに乗っからないと、メールを「読むだけで無視」するROMメンバーは意見がないものとして、「蚊帳の外」に自動的に置かれていくという、自然淘汰の法則が存在す
る。
情報の共有とは、何も、グループウエアを導入することだけではなく、このように、簡単な情報インフラをいかに有効に、かつ、スピード感を持って活用していくかが、非常に重要であることを、いまさらながら思い知らされた。
ITとは、言い古されたことではあるが、所詮「道具」であり「ツール」である。
使ってなんぼの世界である。結果に結びつけるか、出来ないかは、ひとえにトップの決意と実行にかかっている。そして、なかなか出来ないことではあるが、それが「文化」と認知されるようになるまで、徹底することである。


■執筆者プロフィール

 成岡秀夫
1952年生まれ。1974年大学卒業後、化学繊維メーカーで新規化学繊維の製造開発に従事後、1984年から同朋舎出版取締役、図書印刷同朋舎取締役。2003年株式会
社シンカに移籍。
中小企業診断士。上級システムアドミニストレータ。ITコーディネータ。
生まれる前からの生粋の阪神ファン。今年はチャンスと燃えている。
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