以下の3例は、システム導入の典型的な失敗例です。
1)ERP導入における失敗例
⇒企業のコア・コンピータンスは何であるかの検討がなされず(経営方針とシステムのリンクがな
い)、ERPの導入を前提とした検討を進めた(部分最適)ため、企業競争力の源泉を失わせる
こととなった。
(用語)Enterprise Resource Planning(エンタープライズ リソース プランニング/経営資源利用計
画)。財務会計・人事などの管理業務、在庫管理などの生産業務、物流などの販売業務など、企
業が蓄積する基幹情報を統合管理し、企業活動の効率を高めるためのIT。
2)SCM導入における失敗例
⇒自社の都合でのみ業務の最適化を図りかつ導入を急いだ、すなわち、生産システム全体を考えた
スムースな移行についての考慮がなされていなかった。また、取引先の意見を十分に考慮せず、
SCMベンダ主導で進めたことも失敗要因。
(用語)Supply Chain Management(サプライチェーン マネージメント)。
部品調達から生産・物流・販売までジャスト・イン・タイムの管理を実現するためのIT。取引
先を含め、入口から出口までを総合的に管理することで余分な在庫などを削減し、コストを引き
下げる効果がある。
3)基幹システム更新における失敗例
⇒最新型の機種や最新技術が使える環境にすることを目的とし、投資効果を考慮していない。投資
効果を考えるならば、この機会に、システム全体の見直しを行い、投資に見合う業務効果が得ら
れるシステムへと変更すべきであった。
情報システムの導入は、業務改革が前提となるべきであるとされている。したがって、システム導入にあたっては、次の要件を満たす必要がある。
ア)事業の経営目標の達成に寄与すること
・情報システム導入により経営課題の解決に寄与できることを確認する。
・そのためには、経営方針の再設定など、経営レベルまでもどって検討する。
・経営課題⇔業務課題⇔情報システムの導入効果、この成果連鎖について明確に説明できるように
し、情報システム導入の意味を、経営レベル、業務レベルにおいて、委託先のベンダーも含めて全
員で了解し、合意する。
イ)実現に向けてのシナリオを示すこと
・システムのみを検討するのではなく、その前提となる業務プロセスの変更や社員の意識変革につい
て、まず解決に努める。
・これらの解決策は、社内の抵抗や取引先の戸惑い、顧客との関係などを考慮し、かつ、競争状態を
考慮し、スムーズかつタイムリーに実施できるものとする。
ウ)投資効果を提示できること
・正しく経営判断するために、システム費用だけでなく種々の改革にかかわるコストも含むトータル
コストを算出する。
・これらを費用ではなく、投資として捉えるために、その効果とその根拠を定量的に提示し、投資す
べきか否かの判断材料を揃える。
エ)全体最適を図ること
・パッケージの導入を図る場合であっても、対象業務範囲のみでの適正化を図る(部分最適)のでは
なく、経営方針との整合性を踏まえ、常に全体最適を図る。
情報システムの導入にあたっては、内容の大小はあれ、常に上記4点の検討が必要になる。経営コンサルタントでもITベンダーでも難しい内容ですが、このような検討を支援するのがITコーディネータです。
システムの検討に先立って、こんな難しいことできるのかなぁと不安をお持ちの場合は、ぜひ、ITコーディネータの力を活用して頂きたい。
■執筆者プロフィール
宗平 順己(むねひら としみ)
(株)オージス総研 OGソリューション事業部 コンサルティング部長
ITコーディネータインストラクター、ITコーディネータ
プロフィール
昭和57年3月 京都大学理学部卒(地球物理学教室)
昭和57年4月 日本電気(株) 入社 汎用機セールスエンジニア
昭和61年6月 (株)オージス情報システム総研 入社 社会システム部
(現在のオージス総研 コンサルティング部)
以来、地域情報化、行政情報化、企業情報化コンサルティング業務に従事
平成10年度 JISA行政情報化委員会情報化投資評価部会 部会長
平成11年度 JISA情報化投資評価委員会 委員
平成13年度、14年度 JISA白書委員会 副委員長
専門分野
・BSC(Balanced Scorecard)
・ABC/ABM
・行政評価
・IT投資評価