1.はじめに
製造業において、製品を製造する場合や生産システムを構築・運用する場合、常に意識しなければならない重要項目に“標準化・標準“がある。最近は”地球環境・規制撤廃・大競争時代・個族“などのキーワードで代表されるように、様々な分野における環境が大きく変化してきている。特にこれらのキーワードは、多様な生産活動・事業活動をおこなう場合、単に自国内のことを考慮すればよいというほど単純でないことは自明である。すなわち、自国以外の状況が自国の生産活動・事業活動に大きな影響を及ぼすということである。
このように生産活動・事業活動が今日のように複雑・高度になってくると“標準化・標準“の考え方が重要になってくる。ここでは、経営品質における”標準化・標準“の重要性について概観する。
2.標準化・標準について
体系化、体系、標準化、標準についての言葉について以下に説明する。
●体系化:一つの原理によってまとめ統一していくこと。(日本語大事典 講談社)
●体 系:一つ一つの部分を統一的にまとめたもの。筋道をつけてまとめられた全体。
●標準化:標準を設定しこれを活用する為の組織的行為。(JIS Z8101品質管理用語より)
●標 準:統一・単純化:関係する人々の間で利益・利便が公正に得られるよう統一・単純化を図る。
(説明)物体・性能・能力・配置・状態・動作・手順・方法・手続・責任・義務・権限考え方・概念などについて定めたとりきめ。通常は文章・図・表・見本などの表現形式で表わす。
(社内標準化便覧第2版1989[財]日本規格協会)
2-1.工業標準化の起源
工業標準化の起源についていくつかの例を紹介する。
1)互換性のある”ネジ”の出現
イギリスのブラマー(1748~1814)とモズレー1771~1831)が、旋盤のスライド式刃具台を開発した。従来は、職人が刃具を手で持って工作物に押し付け当てがって加工していた。彼らは、現在の旋盤で行なわれているように刃具を旋盤の支持台に固定し、送り方向と回転方向とを歯車機構とリードスクリューによって連動させ自動送りができるようにした。この結果、従来、熟練工によって個別に作られていたネジが標準化され、互換性のあるネジを作ることができるようになった。
2)互換性のある小銃生産の要求
アメリカのホイットニー(1765-1825)は、互換性のある小銃の生産に成功した。小銃は、当時のヨーロッパでは、熟練工による現物合わせで個別に作られていた。従って、同型式の小銃間での部品の互換性がなく、また生産性も低いものであった。ホイットニーは、1798年にアメリカ政府と小銃1万挺の生産契約を結んで、互換性原理を適用し、様々な困難の末に生産を行い1809年に完納した。
3)T型フォードの単一機種の量産における標準化
フォードは、1903年フォード自動車会社を設立し自動車の生産販売を開始した。T型フォードは、大衆者向けの頑丈で安価なものであり、市場の膨大な需要に応えるために「フォードシステム」と呼ばれる単一機種の量産システムを開発した。1920年代初頭、市場占有率は60%になった。
(特徴)
・製品
T型フォードという1機種・1型式に限定、徹底した統一化・単純化
・製造プロセスの徹底的な標準化
製品・部品・加工工業・マテリアルハンドリングの同期化
4)GMの製品多様化・複数機種の量産における標準化
GMは多数の自動車会社の合併で成長してきた企業である。1920年の初頭には、市場占有率は、フォードの60%に対して12%に迄落ち込んだ。GMは、フォードと違って製品の複数機種路線を堅持していた。当時、市場の多様化傾向が進展することに注目したスーロン(GM社長)は、下記のような観点で市場占有率を高めようとした。
・人によって好みはまちまちである。多くの人々は、隣人と同じ車を持つことに抵抗を感じる。
・大衆は、いくら安くても、いつまでも画一的な車で満足するものではない。
より豊かな変化を要求するようになる。この考えに基づいて、市場の要求に応じ次のような製品体系を作った。
○市場の価格段階の要求対応: 6種類の車種を設定
○各価格段階毎の仕様対応 : 標準品とオプション品の組合せ・選択
○生産対応: 同一ラインで複数機種を量産できる生産システムを工夫した。GMは、フォードの統一化・単純化の原則を踏まえた上で、もう一歩押し進めて、各段階での「きめの細かい」対応をして成功した。
2-2.標準化活動
標準化活動には、大きく分けて次の2つのアプローチがある。
1)トップダウン的アプローチ
このアプローチは、大きな観点(国、国家間、世界の動向)に立って考える場合のアプローチである。すなわち、標準を制定する場合、当初より国際標準を意識して、業界標準化->国内標準化->国際標準化へと大きな枠組みの標準を設定するアプローチである。
2)ボトムアップ的アプローチ
このアプローチは、自社の現在の仕事を中心にして考える“企業内標準化”である。すなわち、問題意識を持って、身近な問題・対象から捉える標準化のアプローチである。たとえば、社内標準には、次のような例がある。
・設計の標準化技術 (EAの標準化技術)
・生産の標準化技術 (FAの標準化技術)
・事務の標準化技術 (OAの標準化技術)
2-3.団体標準化から国際標準化の過程
1)団体標準化
20世紀の初頭には、製造業の組織化が進み会員企業内部の標準化が活発になり、技術・経験を相互に交換し合って団体規格を制定した。これにより会員企業相互の利益につながることが認識され、団体標準化が始まった。
(例)アメリカ材料試験協 会(ASTM;American Society for Testing and Materials)1902鉄鋼、非鉄、 セメント、コンクリートの仕様書、試験方法の標準化
2)国家的標準化
多種の産業団体で団体的標準化が押し進められると、複数の産業団体に共通して使われる基礎資材(鉄鋼、セメントなど)について、関係団体で協議し標準化する機運が高まり、今日のような世界的な活動に発展してきた。
3.標準化の効果
標準化は、最終的には高品質、低価格、環境に優しいモノの生産を実現する条件を作り出すことにある。しかし、標準化活動は、非常にコストがかかり、またそれを生産活動・事業活動に定着・反映させるまでには、生産活動・事業活動を必ずといってよいほど乱すと考えられる。しかし、標準化は、このような犠牲を払っても、それを回収して余りある経営効率の向上を実現する方策である。特に国家レベルでの標準化対応は、近年、その国の将来の産業基盤に影響しかねないまでに重要なものになっている。
4.おわりに
ここでは、ごく簡単に標準化・標準について概説した。最近の標準化の動きとして重要なのは、“先取り標準“という考え方である。すなわち、体系化 -> 体系 -> 標準化 -> 標準という手順を踏まず、競争的関係が発生する前に、あらかじめ標準を設定し、その標準のもとに、生産活動・事業活動を展開していこうという考え方である。このような考え方が発生した理由は、生産活動・事業活動をおこなう場合、あまりにも費用が発生することも一因になっている。
企業の経営品質の向上においては、ITを含めた「標準化・標準」の積極的な利用がいかに重要であるかが、少しなりともご理解いただけたと考える。
■執筆者プロフィール
柏原 秀明(Hideaki KASHIHARA)
京都情報大学院大学教授
技術士(情報工学・総合技術監理部門)・ITコーディネータ
ISO-9000審査員補、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)審査員
公認システム監査人補
E-mail : kasihara@mbox.kyoto-inet.or.jp