1.金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)とは
金融機関から「貸し渋り」や「貸し剥がし」を受けるのは、金融庁の検査や金融検査マニュアルが厳しすぎるためではないかという声が、中小企業団体等から多数寄せられました。また、政府の「早急に取り組むべきデフレ対応策(平成14年2月)」においても、債務者の経営実態の把握向上に資するため、中小零細企業等の債務者区分の判断について、金融検査マニュアルの具体的な運用例を作成し、公表することが盛り込まれました。
これを受けて、金融庁は平成14年6月に「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」を公表しました。この「別冊」は「金融検査マニュアル(本冊)」に新しいルールや考え方を追加するものではありませんが、中小企業の財務状況、資金繰り、収益力等により返済能力を総合的に判断する16の事例を掲載したものとなっています。
(注)債務者区分:債務者を(1)正常先、(2)要注意先、(3)破綻懸念先、(4)実質破綻先、(5)破綻先の5つに区分したもの
2.改定の主な内容(事例の追加・改正)
1)経営改善計画等の進捗状況が計画を下回る場合の取り扱い
中小零細企業の経営改善計画の進捗状況が計画を下回る(概ね8割に満たない)場合にも、進捗状況のみをもって機械的・画一的に判断するのではなく計画を下回った要因について分析の上、キャッシュフローを含め今後の見通しを検討する事例を追加。
2)貸出条件緩和債権の取扱いについて
平成15年5月に貸出条件緩和債権の「事務ガイドライン」が改正されたこと等を踏まえ、中小零細企業の貸出条件緩和債権の検証に当たって、当該債務者の信用リスクや基準金利を判断する際、あるいは卒業基準に該当するかどうかを検証する際の事例を追加。
3)代表者等からの借入金等の回収意思の確認は不要
中小零細企業の代表者等からの借入金等については、原則として、当該企業の自己資本相当額に加味することができ、代表者等が借入金等の返済を当面要求しないことについての確認は、検証ポイントにおいて不要としたことから、当該改正に併せて事例を改正。
4)資本的劣後ローンによるデット・デット・スワップ(DDS)
経営改善計画の一環として、資本的劣後ローンへの転換(DDS)を実施した場合に、債務者区分等の判断において、当該資本的劣後ローンを資本とみなす事例を追加。
5)一時的な外部要因による赤字や債務超過時の判断
債務者が一時的な外部要因による赤字や債務超過に陥っている場合について中小零細企業の財務体質の特性を勘案し、表面的な事象ではなく、本業の業況やそのキャッシュフローなどをきめ細かく検証する事例を追加。
従来、融資の際の審査には担保の有無が重要ポイトとなっていましたが、現在では企業の格付けに大きなウエートが置かれています。その際、重視されているのが財務評価(定量要因)となっています。今回の改訂では、金融機関の中小零細企業に対する企業訪問、経営指導等の実施状況についても検証し、それらが良好であると認められる場合には、それらを通じて収集した情報に基づく当該金融機関の評価を尊重することとされました。
■執筆者プロフィール
竹内政明(たけうち まさあき)
あおぞら税理士法人
代表 税理士・ITコーディネータ
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