突然、社長から「会社の業績不振によりリストラを実施します。その方針に基づきあなたを解雇します。」と通告を受けたら、あなたは納得できるでしょうか?
リストラとは会社の事業を再構築することです。そして上記のような整理解雇は、リストラ策の一環として実施されるものです。リストラは、手段や手順を誤ると、事業を再構築するどころか従業員の士気を低下させ、会社を倒産へ導く諸刃の剣です。
では、どのようなリストラが従業員の士気を落とすのでしょうか?
例えば、次のようなリストラを実施すれば、従業員は納得しないでしょう。
・他のリストラ手段をとらずに、突然実施される整理解雇
・なぜ自分が整理解雇されるのか、理由が不明確なリストラ
・将来に対する展望が不明確なまま実施されるリストラ
・何回も実施されるリストラ
・「明日はわが身が整理解雇」と従業員に思わせるリストラ
反対に、次のようなリストラを実施すれば、従業員の士気は大きく落ちることはないでしょう。
・将来の展望を示し、従業員に希望と目的を与えるリストラ
・整理解雇回避の努力を十分に行ったリストラ
・整理解雇対象者の解雇理由が納得できるリストラ
・リストラ実施による業績の向上
判例では、整理解雇ができる条件として、次の4つの要素をあげています。
ただし、4要素をすべて充足しなければ整理解雇が有効にならないということではなく、整理解雇が有効かどうかを判断する際の考慮要素を類型化してまとめたものに過ぎないとしています。
1.人員削減の必要性
判例では、以前、人員削減を行わなければ企業の維持・存続が危ぶまれる程度に差し迫った必要性があることまで要求する例も少なくありませんでした。
しかし、最近では経営悪化とか倒産の危機などの事態に陥っていなくとも、資本効率を高め、競争力を維持・強化するという戦略的リストラの目的で行う人員削減まで有効とする判例があらわれ、判断基準が緩和されつつあります。
会社の傷が大きくなった段階で、人員削減を伴うリストラを断行しても、業績は再び低下してしまうケースはよくあります。その時には再度、人員削減を実施する必要が生じます。人員削減は1回で済まさなければなりません。2回以上になると、自主退職者も増加し会社は回復不可能な状態に陥ってしまいます。会社が存続するためには、やはり、傷が大きくなって取り返しがつかなくなる前の段階で、リストラを決断することが必要です。
2.解雇選択の必要性
人員削減が必要だとしても、いきなり正社員を解雇することは妥当ではありません。まず、正社員の出向、一時帰休、希望退職や、パート・アルバイトなど非正規社員の人員削減などの解雇以外の可能性を検討しなければなりません。
もちろんその検討に入る前に、役員の給与カット、役職者の給与カット、従業員の給与カットなどの措置を講じるべきです。
以上のような手続きを経てもなお、人員削減の必要がある場合には、正社員の整理解雇を実施することが必要です。
大切なのは、従業員に解雇という手段も仕方がないと納得してもらうことです。
そのためには、普段から経営上の数字を公開して、従業員に会社の経営状況を把握してもらわなければなりません。あわせて、解雇にいたるまでに様々な手段を尽くしたことを彼らに理解してもらうことも必要です。
会社の状況もよくわからないまま、いきなり解雇されれば、当事者はもとより残された従業員も納得できないのは当然です。
3.被解雇者選定の合理性
整理解雇が回避できないとしても、被解雇者選定について、客観的で合理的な基準を設定し、これを適用して整理解雇を実施することが必要です。
例えば、「満55歳を超えている社員」という基準は、一般的に見て客観的です。とくに年功序列制の会社であれば、賃金の高い、業種によっては労働生産性の落ちる高齢者を解雇対象者とすることになります。従って、裁判所では合理性があると判断される可能性が高いといえるでしょう。
それでは、「成績のよくない社員」という基準はいかがでしょうか。企業側からみれば、必要な人材を残すという意味で合理性があるといえそうです。しかし、判例では、会社の主観的判断が入り込む余地が大きい基準であるため、解雇対象者の選定に合理性がないと判断されたケースも少なくありません。例えば人事評価での点数の低さなど、客観的な基準でもって「成績がよくない社員」かどうかを判断することが必要でしょう。
4.手続きの妥当性
整理解雇の実施に当たっては、会社は、労働組合または従業員に対して説明をなし、十分な協議を経て納得を得るように努力しなければなりません。また、その際には、人員整理の必要性を会社の会計書類等で明らかにした上で、人員整理が実施される時期・規模・方法等を説明することが必要です。
説明の時の重要なポイントは、整理解雇を実施するだけで将来の希望がまったく望めないような説明の内容では、従業員の士気は大きく低下してしまうことになります。彼らに整理解雇の必要性を訴える際には、今後、会社がどの方向に進むのか、「将来の希望ある展望」を明確に示さなければなりません。そのためには、リストラ実施の際には中期経営計画を作成し将来の戦略を明確にした上で、説明に臨むことが大切です。
以上、従業員の士気の観点からリストラを説明してきましたが、彼らの士気を高めるために最も大事なことは、「リストラの実行により会社の業績を回復させること」です。一時的な痛みが伴っても、経営者および従業員がとともに幸せになることがリストラの目的であることを十分に認識し、労使方法が「何が何でも業績を向上させる」という強い決意で持って、リストラの断行にあたらなければなりません。
■執筆者プロフィール
梅津政記(うめづ まさき)
株式会社新経営サービス
チーフコンサルタント 中小企業診断士・ITコーディネータ
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