新たな「顧客価値の創造」としての新規事業開発/中川 普巳重

かつては企業の寿命は30年と言われていましたが、最近では企業を取り巻く環
境変化も厳しく、また顧客のニーズも多様化し、単一事業だけでは、顧客満足度
を高め事業継続することは難しくなってきました。企業に対する要求や期待も高
まる一方で、顧客から見捨てられる企業も増えています。競争が激しくなり顧客
の要求で価格を下げる。売上が減少する中で、価格を下げることは更なる売上減
少を招くだけでなく、利益率の低下を招きジリ貧への悪循環になります。
 こうした状況を打破する1つの視点として、新たな「顧客価値の創造」があり
ます。低価格訴求ではなく、自社の技術やノウハウを活用して顧客に対する新し
い価値の提供につながるように、徹底的に顧客視点に立った商品やサービスを開
発するのです。さらに商品やサービスの販売の仕組みや体制をも変えるのです。
 このとき、顧客の視点に立った商品やサービスを開発するためには従来の発想
では限界があります。以下に述べる3つの「新規事業開発の視点」で検討するこ
とが有効です。

1.既存事業の棚卸とコア・スキルの明確化・・・自社の「現状を知る」ことか
ら始めます。自社内でのディスカッションや顧客へのヒアリングによって、既存
の経営資源である「人」「物」「金」「情報」「組織風土」の中から、コア・ス
キル(真似されにくいダントツの能力)を明確にします。意外と会社が思ってい
る強みと顧客から見た魅力は異なります。ここに事業機会や気づきがあります。

2.市場機会の探索・・・次に、コア・スキルを活用して参入市場や新商品・サ
ービスの投入分野を検討します。ここでのポイントは、自社や業界を取り巻く環
境を分析して、チャンスのありそうな市場をターゲットとした上で、その市場に
参入するためには「何を補完すればいいのか」という視点で考えることです。

3.儲かる仕組みの検討・・・いい商品だから、いい技術だから売れるとは限り
ません。顧客はそこまでの機能を求めていないかも知れません。自社技術と顧客
ニーズのミスマッチが起きていないかをマーケティング活動によって見極め、提
供する商品・サービスの売り方を検討していきます。

 具体的には私どもの関与先企業であるプラスチック金型メーカーA社の事例で
見てみましょう。
 A社は、神戸市で靴の金型メーカーとして創業し、現在は3DCADの活用と熟練技
術者による技術力で某自動車メーカーのプラッスチック部品の金型製造に進出し
業容を拡大しています。メーカーの取引条件は大変厳しく、競合他社に打ち勝っ
て、受注量を確保するためには、メーカーの研究者が要求する製作スピードや仕
様変更に応えるための大変な労力がかかるため、受注量は確保できるものの利益
が出ない体質になっていました。そんな状況で、自動車業界以外で自社の3DCAD
の強みを活かした金型分野に進出して、新サービスを開発したいという相談があ
りました。
 A社の新規事業を検討する際に、まず、既存事業の棚卸とコア・スキルの明確
化を行いました。A社の経営者によると、自社のコア・スキルは3DCADを活用し、
金型の設計・試作段階から熟練技術者が素早く提案できる「技術対応力」にある
とのことでした。さらに、詳細にヒアリングを行うと、メーカーから受注をする
ために、研究所のキーマンとなる若手研究者を経営者が特定し、その研究者から
の要求に対しては、365日24時間いつ何時でも駆けつけるという徹底ぶりでした。
 金型製作だけではなく、試作品そのものを提案するというような、若手研究者
の手足となる顧客密着力が、メーカーからの受注指名の理由であることが分かり
ました。このような顧客対応は、手間とコストがかかるにも関わらず、顧客は当
たり前のものとして、さらに同業他社と同じようにコストダウン要請を繰り返し
利益の出ない体質になっていたのです。
 そこで私どもが考えたA社の新サービスは、同社のコア・スキルを現在の顧客
に新サービスとして売ることでした。メーカーの若手研究者にとってA社は試作
品の金型製作だけでなく、試作そのものにおいて不可欠な存在であり、これを新
サービスの視点で考え、従来は無償サービスで提供していた試作設計~試作製作
に価格をつけたのです。勇気のいる決断ではありましたが、儲かる仕組みの検討
として、競合比較を徹底して行い、他社が提供できない価値で、かつメーカーが
支払える経費相当の価格で提示したところ、これが売れたのです。
 正当な価格をつけることによって、そこで得た利益を提案力強化の再投資とし
さらに今後は、自動車業界で蓄積した顧客密着力や試作品提案力を、頻繁、かつ
スピーディーに試作が必要な他業界で売ることを検討しています。
 この事例にあるように、自社のコア・スキルを正しく認識し、コア・スキルを
活用して新しいサービス開発を実施した結果、単なる新サービスの開発ではなく
受注型金型下請け企業から提案型金型企業への脱皮という第二創業を可能にした
のです。
 企業は成長し続けなければなりません。皆さんも是非、新たな「顧客価値の創
造」としての新規事業を考えてみませんか。


■執筆者プロフィール

中川 普巳重(なかがわ ふみえ)
京都リサーチパーク株式会社 EBSセンター 副所長
 中小企業診断士、ITコーディネータ、日本経営品質賞セルフアセッサー、
 キャリア・デベロップメント・アドバイザー
Eメール  n-fumie@krp.co.jp 

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