★IP電話の概要
IP電話とは、通常の電話網ではなく、インターネット網を介した電話サービスのことだ。ADSLや光ファイバーなどブロードバンド環境はすでに一般的となり、映像・音楽などのデータを送受信する事ができる。その「ブロードバンド」を活用して、『声』のデータを送受信しようとするのがIP電話である。
技術的な解説は省略するとして、IP網を利用するため、距離に関係なく一律の料金を設定され、導入によるコスト削減が可能だ。大手企業中心に導入が始まったIP電話も、ここ数年は中小企業での導入が本格化している。導入目的も、通信コスト削減にとどまらず、経営革新のために使えるソリューションとして注目されている。本稿では、IP電話サービス形態の概要と、IP電話で実現できるワークスタイル変革について紹介する。
★IP電話のサービス形態
IP電話といっても様々なサービス形態がある。
「IP電話サービス方式」「IP-PBX方式」「IPセントレック方式」の3つに分類される。
IP電話サービスを利用する場合、新たな投資や運用コストが発生し、電話の使用方法の変更等を伴う。導入時は、それぞれの方式の特徴を理解した上で、自社の回線規模や拠点数、電話の利用状況や電話設備の状況を分析し、IP電話への移行コストや費用削減効果などを把握した上で決定することが重要となる。
1つめの「IP電話サービス方式」とは、既存の電話設備(ボタン電話やビジネスフォン)をそのまま利用可能な通信事業者の提供サービスである。追加の機器購入コストを抑え、割安な通話料金を利用できるため、小規模の企業でも導入しやすいサービスのため様々な企業で導入されている。但し、あくまでも「音声通話」をターゲットにしたサービスであり、IPを利用した様々なアプリケーションとの連携等の拡張性は高いとはいえない。
2つめの「IP-PBX方式」とは、従来のPBX(電話交換装置)による電話の発着信の制御をIP-PBXに置き換えるものである。IP電話とアプリケーションの連携が可能となり、電話とEメールとFAXを一元管理したり、パソコン上で電話(ソフトフォン)を利用したり、会議室などからモバイル環境で自由にアクセスしたりと企業内のコミュニケーションを変革させるツールとして注目されている。
離れた拠点の内の電話を集中管理できるので、拠点毎のPBX設置が不要となり、音声通話は社内ネットワークを利用するので電話代が無料となる。また電話線をLANケーブルに統合できるので、電話専用の配線が不要となる。
IP-PBX方式は、現状の電話設備のリプレースが必要となる。ある程度の回線数を複数拠点で利用したり、拠点間で通話のやりとりが多い場合はコスト削減の効果が期待できる。他のアプリケーション連携も含め、電話の高度な利用を必要とする企業むけの方式といえるだろう。
3つめの「IPセントレックス方式」とは、通信事業者などが自社に共用型のIP-PBXを設置して、企業向けにIP電話を利用できる環境を提供するサービスのことである。
企業においては、IP-PBXへの買い換えやネットワークの再構築などが不要となり、拠点に設置されているPBXの一部または全部が撤去可能になり、リース支払や保守・運用コストが削減できる。導入コストがIP-PBXより低いことから、中小規模でも導入効果が期待できる。
但し、注意が必要なのは、利用できるPBX機能やアプリケーション連携に制限があることや、ネットワーク障害時への対処が必要なことである。
★IP電話で実現するワークスタイル変革
ビジネス環境が急激に変化する中、人の持つ知識(ナレッジ)が企業競争力の源泉となる。限られた時間を有効に活用し、知識作業に時間を振り向けるためには、企業でのコミュニケーションのあり方やワークスタイルを変革することが重要だ。
IP電話は、単なるコスト削減のためのツールではなく、アプリケーションと連携することで、ワークスタイルの変革をもたらし、業務効率や生産性向上が実現する。
例えば、コミュニケーションを支える、電話、FAX、電子メールは、これまで個別のシステムで管理されていた。そのメッセージを1つのメディアに統合し利用するのがユニファイドコミュニケーションである。従来のオフィスでは、お客様から電話がかかってきたときに担当者が不在だと、受付をした人が伝言を記録して担当者に伝える。伝言やメモの場合は正確な内容や相手のニュアンスがうまく伝わらないこともある。そこで電話の内容をボイスメール(留守番電話機能)に蓄積して外出先から携帯電話などで、お客様の声を直接確認すれば、迅速かつ適切な対応がとれる。もちろん電話を取り次ぐ人の手間も省けるので業務効率が高まる。また、受信メールの文書を自動音声で読み上げたり、受信したボイスメールやFAXを電子メールソフトから確認するなどコミュニケーションを効率化することで、時間の有効活用が可能となる。
さらにテレビ電話や電話会議機能を使えば、支店や工場など離れた拠点との情報共有がスムーズになり、わざわざ会議のためだけに出張する等のムダを減らすことができる。もちろん取引先との情報共有にも一役買うことになるだろう。
このようにIP電話は、コスト削減やワークスタイル革新を支援するソリューションとして今後益々注目を集めていくだろう。導入を検討する場合は他のシステムと同様、導入の目的を明確にし、自社の現状をふまえて、期待できる効果が高いモノからはじめよう。もちろんワークスタイル変革のためには、IP電話システム導入だけではなく、社員の意識や業務ルールの変革も並行して推進することが成功のための鍵となる。
■執筆者プロフィール
杉村 麻記子(スギムラ マキコ)
伊藤忠テクノサイエンス株式会社 ITコンサルティング本部に在籍
中小企業診断士、ITコーディネータ
e-mail:pxa10762@nifty.com