ITベンダーとして、いままで数多くのシステム開発を手がけてきましたが、いまになって思うと、顧客目線でなくあくまでシステム屋としての見方でシステムやサービスを提供したように思います。品質(Q)、コスト(C)、納期(D)に注力するだけでは、だめな時代になってきました。
またシステムを導入した後のシステム運用については、昔と違って複数のインフラや技術要素がからみあって複雑化しており、見えざるコストも増大化の傾向です。
この見えざるコストとは、
(1)将来的なアップグレード費用
(2)システム部門やシステム管理者の人件費
(3)エンドユーザーの人件費(インストールやセットアップなどの作業、部署内ヘルプやサポート作業分)
(4)システムダウンやパフォーマンス低下などによる業務上の損失およびトラブルシューティング
といったものがあげられます。
ただ、人材やコストには限りがあるわけで、そういった制約のなかで、要求に答え最大限のITサービスを提供することが重要になってきました。そういった状況の中で、顧客の満足度を最大にするITサービスの提供をコントロールする「ITサービスマネジメント」という概念が生まれました。そのITサービスマネジメントを実現するためにITIL(IT Infrastructure Library)というフレームワークが提供されています。ITILは、ITを活用して成功した事例の集まり「ベストプラクティス」です。そのベストプラクティスを活用して効率的にITサービスマネジメントを実現することを可能にしようとしています。
ITIL導入のメリットとしては、
(1)すでに効果のあったベストプラクティスを適用することにより、高品質なITサービスをより低コストで実現。
(2)フレームワークとして体系的に整理しているため、プロセス間の連携が明確になり、高品質で効率的な運用プロセスの構築が可能。
(3)ITILの標準的な用語を共通に使用することで、内部組織、外部委託業者を含め、コミュニケーションを円滑に行うことが可能。
(4)ITサービスの可視化(明確化)、SLA(Service Level Agreement)の実現が可能。
といった点があげられています。
この、ITILの中心となる2つの要素として、「サービスサポート」と「サービスデリバリ」があります。サービスサポートは、ITサービスの日常の運用とサポートをプロセスとして定義しています。サービスデリバリは、ITサービス提供にかかわる長期的な計画と改善をプロセスとして定義しています。
その概要については、
サービスサポート
・サービスデスク
ユーザーからの問い合わせの単一窓口を実施する。
・インシデント管理
ITサービスが中断した場合に迅速に対応し復旧する。
・問題管理
発生した問題の根本的な原因を追求するとともに、問題発生を未然に防ぐ対策を実施する。
・構成管理
ネットワーク、ハードウェア、ソフトウェアなどのITサービスを提供するための構成要素に関する情報を管理する。
・変更管理
ITサービスの構成要素を変更する場合のプロセスを標準化し、変更が他の構成要素に与える影響を検証し、妥当性を明確にする。
・リリース管理
変更管理で承認された変更作業を確実に実施する。
サービスデリバリ
・サービスレベル管理
ITサービスの品質レベルに関して、事業と整合性とれた目標を設定し継続的な改善を実施する。
・ITサービス財務管理
ITサービスを実現する構成要素や運用・保守のコストを明確にし、費用対効果を高める。
・ITサービス継続性管理
災害などでITサービスが中断しても最小限の業務要件を満たすことを保証する。具体的にはどのようなリスクが発生するかを分析し、復旧のための計画や代替手段を検討する。
・キャパシティ管理
同時利用ユーザー数や各ユーザーの利用状況を把握し、将来の傾向を見据えてサーバーの処理能力、台数やネットワークの負荷を最適化する。
・可用性管理
業務要件を満足する必要なITサービスがいつでも利用できるように監視、報告を実施する。
理想をいえば自社の運用管理業務をITILに合わせることができればいいですが、現実的にはその一部のプロセスを参考にしても有効だと思います。大手ITベンダーからは、ITIL導入のコンサルタント、アセスメントや教育を提供しているところもあります。どちらにせよベストプラクティスとして定義されたものをうまく利用して、コスト削減や効率化に役立つ道筋示すことをITコーディネータとしての役割の一つとしたいものです。
■執筆者プロフィール
西田 則夫(Nishida Norio)
情報処理プロジェクトマネージャー、ITコーディネータ
マネジメントの経験を顧客満足の向上に役立てたいと思います。
Norio_Nishida@cii.csk.co.jp