減損会計のインパクト/藤原 正樹

今回は最近マスコミでもよく取り上げられている「減損会計」という会計処理についてお話しします。減損会計とは、企業が保有する固定資産の価値が低下した場合に、バランスシートに計上してあるその資産の価格(帳簿価格)を引き下げ、それに見合って損益計算書にも損失を計上する会計手法のことです。
2000年頃から新会計制度として、キャッシュ・フロー重視、時価会計の導入などが進められてきましたが、減損会計はその総仕上げともいうべきものです。

 上場企業では、来年度(2005年4月から始まる会計期)から強制適用となります。既に前年度(2004年3月末で終了する会計期)から、早期適用が始まっており、上場・非上場を含め計169社が減損会計を導入しています。
(経理情報No.1059)

 また、減損会計の導入をとらえて、「不動産の有効活用セミナー」なるものが各地で開催されています。減損会計導入を機に、「資産の有効活用」、「遊休資産の整理」が企業課題になるのをビジネスチャンスととらえ、不動産関係者が開催しているものが多いようです。ところが、減損会計は、遊休資産や不良資産を処理するのが目的ではありません。

 減損会計導入の目的を一言でいうと、財務諸表の信頼性を高めるということです。日本企業の財務諸表があてにならないといういう話は、以前このMLで紹介しました。企業の保有する資産が実勢の価値で正しく財務諸表上に記載されていなければ、その財務諸表はあてにならないということになります。財務諸表が信用できなければその企業の社会的信用は低いものとなります。ひいては、顧客や取引先から信用されなくなり、企業の存続そのものが危うくなります。減損会計は企業が持つ財務諸表に現れない含み損をはき出させ、財務諸表を健全なものにすることを通じて、企業の信頼性を高めるためのものなのです。

 減損会計が対象とする資産は、企業が保有する土地や建物、工場などの事業用固定資産です。認識の方法は、市場価格が大きく下がったと考えられるものについて、その資産が将来生み出すキャッシュフローの総額が、帳簿価格を下回っているかどうかを調べるのが基本です。下回っていた場合は、将来のキャッシュフローを現在の価値に引き直した価格と、資産を売却した場合の価格のどちらか高いほうを選び、帳簿価格との差額を損失として計上することになります。
 なにやらややこしい用語が続きましたが、要約すると資産が持っている本来の価値を算出し、その値で貸借対照表に記載すると言うことです。問題はその「本来の価値を算出」する方法です。これが従来の会計処理と大きく変わっており、減損会計の特徴を表したものです。

 従来の会計処理では、固定資産は購入時にそのときの価格(取得価格という)で計上されます。その後、建物や工場などはその耐用年数に合わせて、減価償却という会計処理で費用処理し、同時に固定資産の帳簿価格を減少させていきます。
このように、購入価格=取得価格がベースになります(これを取得原価主義といいます)。ところが、減損会計では「その資産が生み出すであろう将来のキャッシュ・フロー」でその資産の価値を算定します。これは従来の会計にはなかった考え方です。その資産が将来に生み出すであろうキャッシュ・フロー(利益)をベースに、その資産の現在価値を算出し、財務諸表に表示しようというものです。
 これは会計に対する経営責任を明確にするものです。減損会計の導入によりバブルの精算=不良債権処理が進むと言われています。同時にそれは、不良債権を生み出した経営者の責任を明確にします。

 このように減損会計は、新しい会計処理の考え方を多く含んでいます。当面、導入が強制されるのは上場企業だけですが、このような考え方は企業会計の中に広がっています。従来の税務申告を中心とした会計の時代は終わり、企業の価値を社会に広くアピールするものとして財務会計が変わりつつあると言えます。

 余談ですが、減損会計で計上した損失は、税務上では損金と認められません。
この件の説明は別の機会に譲りたいと思います。


■執筆者プロフィール

藤原正樹(フジワラ マサキ)
ITコーディネータ 中小企業診断士 公認情報システム監査人(CISA)
e-mail: masaki_fujiwara@nifty.com