日本版LLCの幕開け/下山 弘一

1.新しい事業形態として期待されるLLC
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 ここ何年か、日本の法制度のなかではNPO法人の創設など、法人に対する取扱いが大きく変わってきています。18年度に予定されている商法の改正でも、株式会社などのいわゆる「会社」に対する取扱いが大きく見直される予定です。

 その中でも私が特に注目したのが、日本版LLCの創設です。情報・金融・法務などの人材集約型産業の受け皿として、また事業再編や共同研究開発、産学連携の促進での効果が期待されています。
さらに、経済産業省では、日本版LLCに先行して、新しい形態の組合組織である日本版LLPの17年度導入を目指しています。

 今までにない事業形態として起業促進、新事業創出に期待を寄せられている、これら日本版LLC、LLPについてご紹介します。

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2.そもそもLLC、LLPとは
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 みなさまが働かれている「会社」は、多くの場合、株式会社や有限会社という法人組織です。これらの会社は、出資者がお金を出して役員に経営してもらう組織です。中小企業の場合は「出資者=経営者」の場合が多いので、ピンとこない方もおられると思いますが、経営者と出資者は全く別のものなのです。出資者はお金を出すだけ、株式会社や有限会社はお金(物)の集まりなのです。これを有限責任といいます、ココがポイント。

 LLC(Limited Liability Company:有限責任会社)とは、米国で活用が進んでいる株式会社制度と並ぶ新しい会社制度の一種。外見は株式会社と同じ、出資者が全員有限責任の法人であるのですが、会社の内部ルールについては組合と同様に法律で規制されることなく自由に決めることが出来る、法人組織と組合組織の良い面を持ち合わせた新しい組織体の制度と言われています。

 一方、LLP(Limited Liability Partnership:有限責任組合)とは、株式会社の有限責任制度と組合のパス・スルー課税制度(LLP自体の利益には課税しないで、その組合員に直接課税する)を組み合わせた事業形態。英国のLLPは2000年に導入され、監査法人や法律事務所などの専門職種の他、一般の事業体でも活用が進んでいます。

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3.欧米の動向
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 米国のLLCは1977年に初めて法制化されるも、税の取扱いが安定していなかったためあまり利用されませんでしたが、その後、税の取扱いが明確になり急速に普及しました。1993年の約2万社から2000年には72万社まで増加し、現在も年率20%の勢いで増加し続けています。この結果、LLCはアメリカ法人全体の約1割を占めるに至っています。日本には約100万の株式会社が存在しますが、これに匹敵する数の会社組織が、わずか10年間で生まれ、拡大していることになるのです。

 英国のLLPは2000年に創設し、3年間で1万を超えるLLPが誕生しています。その他、LLPと同じような組織形態では、ドイツの有限合資会社は8万社(日本に引き直すと16万社に相当、日本の合名合資会社の4倍)あり。フランスのSAS(単純型株式資本会社)は1994年に導入され、ジョイント・ベンチャーに利用されています。

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4.日本版LLC、LLPに期待すること
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 これらLLC、LLPが出てきた背景には、柔軟な経営スタイルへの対応や、ノウハウと資本のマッチングのニーズの高まりがあるといえます。

 今までは、新しく高度な専門知識を必要とするスタイルで経営を行おうとしても、それをサポートしてくれる資本家を説得し、事業に見合う出資を募ることは容易なことではありませんでした。
 出資者がそれぞれ得意とする分野で出資(お金)と経営(ノウハウ)を分担し、その出資や経営の成果に見合ったリターンを得ることが出来る事業形態がLLC、LLPであるといえます。

 資本家の立場から見た場合、ハイリスクな事業の出資に、日本の税制はとても保守的であります。新規事業は最初の3~5年の間は赤字の場合が多いのですが、投資家はその赤字を、ごく限られた場合を除き、税金の計算上反映することが出来ません。また、事業が順調に進んで、その会社から配当を受けることが出来ても、その配当には先に税金がかかってしまいます。

 新しい事業への出資が、自らの事業の一部として損得計算される課税のしくみは、これらLLC、LLPの普及に向けて欠かすことの出来ない要件になっています。
 登録手続や税制面での整備が早く行われ、映画制作やJVをはじめとして、今までにない新しい出資形態のビジネスへと発展していくことを期待しています。


■執筆者プロフィール

 下山 弘一(しもやま ひろかず)
  税理士、ITコーディネータ、システムアドミニストレータ
  京都市中京区西ノ京南上合町35シンフォニー太子道8F
 URL:http://www.e-komon.jp
 E-mail:support@e-komon.jp
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