京都の大学発ベンチャー 調査研究/玉垣 勲

1.京都とベンチャー企業

 京都は、観光の街であるが、大学の街でもある(京都市の人口の10%は大学生)。最近、経済活力の推進役としてのベンチャー企業の動向が注目され、新聞紙上などを賑わしている。京都は過去、オムロン、京セラ、ワコール、日本電産などベンチャー輩出の多いことでも知られている。
 そこである団体(私は会員の一人)の仲間に呼びかけ、同志5名(うち4名はITコーディネータ京都の会員でもある)で「京都発大学ベンチャー」調査研究のプロジェクトを組み、過去4ヶ月間の調査研究結果・成果報告書(A4版63ページ)を公表した。本文は同報告書の一端である。

2.調査研究の独自性 調査要領

 京都にあっても行政、主要団体による大学発ベンチャーの動向に関する調査はそこそこなされている(対象のベンチャー企業はアンケートなど調査依頼に食傷気味)。そこで我々は、調査の主目的を「大学発ベンチャーの経営調査」におきヒアリング(複数の調査員で1回、1時間30分、後はメールでのフォロー)を行った。
 大学発ベンチャー企業の関心事は、所謂保有する「シーズの事業化」であり、”資金援助など実弾”を求める対象企業の調査協力を得ることは、当初の予想と違って必ずしも容易ではなかった。が、我々の意図する「経営課題とその課題解決」について、一定の理解を得た14社にヒアリングできた(うち1社を除いた13社を上記報告書に掲載)。

3.調査研究報告書の構成

 本調査の主目的は、大学発ベンチャー企業の経営の現状、課題・問題点、将来展望について、個別企業の経営者からその本音を聴取することにあるが、上記冊子は、調査研究のウイングを広げ次の通りの項目で記述した。
(1)大学発ベンチャーの概観(大学発ベンチャーを全国的観点から概観するとともに、本調査の概要を説明)。
(2)京都の大学発ベンチャー(京都に縁のある大学発ベンチャーの現状を調査と統計により整理した)。
(3)京都の大学発ベンチャー各企業のヒアリングレポート(調査取材した京都の大学発ベンチャーの実態ヒアリング・レポートである。
(4)京都の大学発ベンチャー特別調査(地元の代表的ベンチャーキャピタルおよび京都商工会議所へのインタビューと地元主要金融機関の動きを紹介)
(5)京都の大学発ベンチャー調査担当者座談会(本調査研究の5名の調査担当者による「覆面座談会」で、調査の結果に基づいた忌憚のない意見交換)。
(6)調査研究のまとめ(今回の調査結果を当ワーキンググループとして、重点的にまとめたもの)。

4.大学発ベンチャーの経営課題とその解決の方途

 大学発ベンチャーの経営ヒアリング調査による重点課題とその解決の方途として、次の4点を指摘した。

(1)経営管理力の不足

 取材した全企業・組織に共通して不足しているリソースは、経営管理力であった。大学発ベンチャーは、理工系教員が起業家であるケースが多く、これは仕方のないことである。この点で、大学発ベンチャー企業への支援はスポット的でなく継続的に行うことが効果的である。またその支援に対してフィーを支払う余力がないので、ボランティア精神と国・地方自治体等の支援施策の双方が必要である。

(2)人材の充実と組織・体制の問題 

 社長一人または数人以下のスタッフで動いている企業が、今回の調査対象の大半であった。アルバイトは有償でも、役員は無償というケースが一般的になっていた。大学発ベンチャーの求める人材は明確で、専門能力を備えた即戦力の人材である。共同研究する企業がいて、ここがスポンサーになるか、または研究開発要員を出すかのどちらかが必要である。また、大学発ベンチャーが必要としているもう一つの人材は、技術の分かる営業マン兼経営管理者である。実は、この課題解決は容易ではない。技術を理解する営業マンと経営管理職の双方を雇用するだけの財務力が、現状で大学発ベンチャーに欠けることから来る結果である。
ITコーディネータなどの経営専門家が、マーケティング力の強化策とともに、この難問に対するソリューションを提供すべきであろう。

(3)技術開発、設備投資資金の問題 

 大学発ベンチャーにとって悩みの種になっているのが資金調達である。資金問題は、特にシーズを事業化して市場展開するフェーズに至る試験研究・開発フェーズでは必須の課題である。現状では、補助金の獲得を狙うほか、スポンサー企業に頼っているのである。
事業プランとその資金計画との連動に不安がある場合、事業プラン作成の際にはITコーディネータをはじめプロのコンサルタント等の専門家の活躍が期待されるところであり、ここにも貢献できるシーンが大いにある。

(4)支援体制の仕組

 金融機関・大学・地方自治体や公的機関とかが単独で支援するより、経営全般に渡る支援能力のある人材・組織が中心となり、各機関が連携して組織的にバックアップする仕組みの構築が必要であろう。

5.今回の大学発ベンチャー調査研究の産物

 今回の調査研究から我々は、大学発ベンチャー企業が、経営管理、人材面、資金力などについて中小企業の経営課題、問題点と一面で類似していることを学んだ。
 一方、実態調査の中から我々は「大学の有用な知的資源の地元中堅・中小企業への還元、活用について」は大学側、中小企業双方にその期待があることが確認できたこと、そのために大学と中小企業の橋渡し役としてITコーディネータなどの経営のわかる専門家が活躍できる場があることを指摘した。
 さらに、この調査研究に関しては地元金融機関から相応の関心を寄せられ、地元金融機関が産学公連携及び大学発ベンチャーにかける期待は並々ならぬものがあることが判明した。当NPO法人との連携の可能性もあり得ることが、感触として得られたのは有意な副産物であった。

なお、上記報告書に関するお問合せなどは、mail:office@itc-kyoto.jp まで。


■執筆者プロフィール

玉垣 勲 (たまがき いさお)
ITコーディネータ、中小企業診断士、社会保険労務士
ファイナンシャル・プランナー(FP)、通訳ガイド
【一言】
サラリーマン35年(信用金庫)後、自営へ転進、人生後半・人生本番。
会社員時代の職務経験・人脈、過去に取得の資格を生かして、地域社会、地元企業、ご家庭のIT化に尽力します。
http://kigaru.gaiax.com/home/isa3915963