この4月より個人情報保護法が施行され注目を浴びていますが、e-文書法も
同様に施行されています。個人情報保護法ほど目立って紹介されていませんが、
ビジネスへの影響は序々に浸透して大きくなると考えられます。
このe-文書法は正式には、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報
通信技術の利用に関する法律」で、従来紙での保存が義務付けられていた文書を
一定の条件を満たすことによって電子データで保存することを認めるものです。
これによって、ビジネス上の必要な文書・帳票類の印字・流通・保存に要するコ
ストを大幅に削減できます。契約書・見積書・領収書(3万円未満)あるいはカ
ルテやレセプトなどの紙の書類は特定の年数を保管しておく必要がありますが、
それには当然保管コストがかかります。経団連の試算によれば、そのコストは経
済界全体で年間3000億円かかっていると言われています。更に電子データの
保存プロセスをパターン化したモデルでは、約28~43%の削減効果が試算さ
れています。(注1)
これは、年間の保存コストが何億円もかかる大企業にとって、コスト削減効果
が大きいのですが、大企業以外では必要ありません。しかし、今回e-文書法を
ご紹介したのは、ビジネスプロセスを変える要素を含んでいると考えられるため
です。
電子化容認に対する要望は、企業のIT化が加速し始めた90年代の半ば頃か
ら顕在化して、98年には「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の
保存方法等の特例に関する法律」(電子帳簿保存法)が成立しています。ところ
が、電子帳簿保存法が対象にしていたのは、「自己が一貫して電子計算機を使用
して作成する帳簿書類」に限られていました。今回の取組みは、原本を電子デー
タで作成したものをそのまま保存することを認めるだけでなく、原本が紙である
文書についても、一定の技術基準の元にスキャナー等でイメージデータ化したも
のを電子的原本とみなすという画期的な内容が盛り込まれています。また、対象
書類も約250本の法律を対象にする広範囲な取組みとなっています。 従来各業
界・各業種で紙と電子媒体とが混在して効率化が図れなかったビジネスプロセス
は、これによって新たな展開の余地が拡がってきます。紙での契約書や見積書あ
るいは領収書を郵送やFAXによるやりとりから、Webを通じてのEDI(Electronic
Data Interchange:電子データ交換)や電子伝票でのやりとりになり、企業に
とって業務効率の向上、さらには顧客に対する付加価値を提供できるという効果
が非常に大きな意味を持ちます。そのため、中堅・中小企業もその体制を整える
必要があるのです。
こうした効果を引き出すには、単に既存の紙文書を電子データに置き換えると
いう発想だけでは不十分です。重要なのは、承認プロセスといった従来の業務も
見直したうえで、付加価値を高めるという視点からワークフローを整備できるか
ということです。電子保存システムを導入したから効果につながるのではなく、
導入した電子保存システムを運用する中で、いかに効果を高めるかという考え方
が求められるのです。電子保存は、単に記録媒体の変化ではなく、業務や経営に
とっての付加価値を生み出す可能性も秘めています。経営という視点から必要性
や効果を見極め、IT環境や運用体制を整備する。企業に問われているのは、e-文
書法という法律への対応方法ではなく、自社にとって最適な文書情報管理システ
ムの構築・運用のあり方だと言えるかもしれません。
また、電子保存の要件としては、真実性と可視性の確保が必要となります。
真実性とは、一定水準の解像度・カラー画像(紙と同程度の小さな文字、色を再
現)、電子署名(偽造防止不能な電子署名を付して改ざんを防止)、タイムスタ
ンプの付与(イメージ化した時刻を第三者が証明)、バージョン管理(改ざん等
の内容を事後に確認)、文書の作成・取得から一定期間内のイメージ化(改ざん
可能期間を制限)等が満たされていなければなりません。
一方、可視性を確保するための要件としては、税務調査に際して、紙の文書と
同様の効率的な調査が行えるようにするため、重要な項目の検索機能、ディスプ
レイ、プリンター等の備付け等が必要となります。
更に注意しなければいけないのが、標準化とコンプライアンス強化の2つの大
きな流れです。文書情報管理は、企業活動の基盤として今後ますます重要視され
ますが、e-文書法はそのための企業の電子文書情報管理が大きく進展する契機
となります
そして今、必要なことはビジネスの取引ルールや商習慣が大きく変化すること
を考え、人材育成と社内の電子化ルールなどを早急に決めていくことです。
(注1)
日本経団連の2004年3月1日の報告書「税務書類の電子保存に関する報告書」
■執筆者プロフィール
大塚 邦雄
情報処理システム監査、ITコーディネータ
25年にわたるシステム経験をもとにIT化を支援します。
e-mail:kunio920@mbox.kyoto-inet.or.jp
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