近年はIT革命をはじめとする環境の激変により、卸売業者がおかれている立場はきわめて厳しいものとなっています。しかし、取引における卸売業者の機能は、以下の2つの観点からなくてはならないものです。
1.不確実性プールの原理
卸売業の需給調整機能を説明する原理です。小売業者は、消費者の需要量だけを在庫とすることが望ましいのですが、実際には、消費者がどの小売業で、どの時期にどれだけの数量を購入するかを予測するのは不可能です。このような場合個別の小売業ごとに消費者の需要量の変動を見越した在庫を持つのではなく、卸売業が中間在庫を持つことができれば、地域間の変動や時間的な変動に対応できます。不確実性プールの原理によって、需要の不確実性の影響を軽減でき、小売業の在庫コストや輸送コストの節約が可能になります。
2.取引数量最小化の原理
メーカーの企業数がM、小売業の企業数がRあった場合、メーカーと小売業が直接取引きをすれば取引の数量はM×Rになります。しかし、卸売業が仲介することにより、取引の数量はM+Rと最小化できます。
例えば、メーカーが2社、小売業が5社の場合、卸売業が存在しないと取引の数量は、2×5=10回になります。しかし、卸売業の仲介があれば2+5=7回と少なくなります。
このように、取引数量を少なくすることで、輸送経路の減少による物流コストの軽減が可能になります。
3.卸売業の流通政策の課題
このように、卸売業は取引の簡素化にとってなくてはならない存在なのですが卸が介在することにより流通コストが高騰するため、メーカーや小売業には、昨今の厳しい価格競争に勝ち残れなくなるという危惧感があります。そのために、卸売業無用論などの議論も出ております。しかも昨今は、メーカーのマーケティング力はいっそう高まり、小売業のバイイングパワーも圧倒的に強くなっています。
このような環境の中で、卸売業が生き残っていくためには、新たな存在意義を見出さなければなりません。その主要な選択肢は次の7つにまとめることができます。
(1)物流代行に特化
大手メーカーもしくは大手小売業の物流機能を代行する。
これまでの物流は、卸売業者が商品を顧客の店別にピッキングして配送する「店別納品」が主流でした。このため、各店舗では店員が、受け取った商品の検品作業を行い、さらに商品を棚に補充するため、店内を移動しながら商品を1アイテムずつ棚入れしていくという、非常に時間の要する作業を行っていました。
しかし、ITの進歩のおかげで、手間ひまのかかる補充作業を大幅に短縮することが可能になりました。つまり、小売業各社の物流センターで商品を店舗の棚単位でひとまとめにし、なおかつ、完全に商品個数を確認して、出荷情報を店舗に事前に送り込んだ上で「棚別納品」することが可能となったからです。この物流センターへは、卸は注文を受けた商品を全店分まとめて納品する「一括物流」ですみます。店別の仕分けは必要ありません。センターで「総量納品」された商品を、店別かつ「棚別」にピッキングすればよいのです。
しかし、この「一括物流」システムは、卸売業者に極めて重大な影響を及ぼすことになります。一括物流センターへの納品は全店の注文分をまとめて納品する「総量納品」なので、メーカーによる納品も可能となるからです。
従って、大手小売業では、自社の物流センターへの納品は全店の注文分をまとめた「総量納品」が可能となり、今後はメーカーによる直接納品が進んでいくものと思われます。
このような環境下で卸売業が生き残っていくためには、大手小売業に代わってその物流機能を代行するサードパーティー・ロジスティクスとしての選択肢が考えられます。
(2)ターゲットを中小小売業に特化
自社で物流センターを保有できない中小小売業では、物流センターで各店舗向けに棚別納品を行うことができません。中小小売業が大手小売業に打ち勝つためには、棚別納品を可能にして手間暇のかかる棚への補充作業を効率化しなければなりません。その機能を代行すれば、卸売業の存在価値は高まります。そのためには物流の効率上、中小小売業に対してフルラインで一括して商品を受注することが必要です。
このように、中小企業に特化して生き残りをはかるという選択肢が存在します。
(3)リテールサポート
小売業者の商品管理・顧客管理などを支援したり、売れ筋商品の情報提供や棚割提案、さらにPOPなど販促物の提供やキャンペーンなど販促企画の提案などを行って、小売業者の業績向上をサポートすることです。顧客にとってなくてはならない存在になることによって、取引の継続が可能となります。
(4)専門特化
大手業者が参入できないすき間市場に特化し、他社にない商品アイテムの充実をはかることによって専門性を高める戦略です。
例えば、靴下、カーテン、ねじなどの商品に専門特化して独自の存在価値を維持している卸売業者があります。
(5)メーカー機能の保有
商品開発機能を強化し、自社のオリジナル商品を投入することで他社との差別化をはかる戦略です。生産は自社で行わず、他社あるいは海外で行うケースが多いようです。
(6)消費者直結の販売体制の構築
卸売業者自ら小売業またはネット通販などによって消費者と直結したビジネスに参入するケースです。ただし、既存の得意先との摩擦が生じ、売上げが急減する危険性を回避することが必要です。
(7)大手の系列化に入る
大手卸売業者を核とした業界の再編が進む中、大手の系列化に入ることで、生き残りをはかる戦略です。
■執筆者プロフィール
梅津 政記(うめづ まさき)
株式会社新経営サービス
チーフコンサルタント 中小企業診断士・ITコーディネータ
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