IT導入の効果を発揮するために/池内 正晴

1. はじめに
 「ITを導入したけれど、効果が見えてこない」といった嘆きの声がしばしば聞かれます。IT導入により効果が出て、業績が拡大したという多くの事例と比較して何が違うのでしょうか?

2. IT導入の効果が得られない
 ITを導入するために投資をする際には、もちろん効果を期待して投資するかを決定することになります。期待する効果としてよく聞かれる言葉のひとつが、「業務の効率化」です。
 「ITを利用することにより、業務の効率化ができるのであれば、業務経費の削減となり、業績の改善につながるので、ITを導入すべきである。」
 といった具合に、導入が決まってしまうケースが典型的な例です。この思考にいたる背景としては、「IT関連の展示会でデモを見て、そのシステムが気に入った。」「同業他社が同様のシステムを導入している」などがよく見受けられます。
 ITも普及が進むにつれて低コスト化が進んできていますが、ランニングコストなどを含めると、それなりの投資額にはなります。その投資を行うにあたっては、効果に見合う投資額であるかを検討するのですが、導入を前提に効果を予測することにより、楽観的な効果予測になってしまうことも否めません。
 また、ITを導入する段階においては、現行業務の流れを重視し、これにあわせて適用範囲・機能を決めていく傾向がみられ、パッケージソフトに大幅なカスタマイズを加えるなど、さらにコストを増加させる要因にもなります。
 このような、プロセスでIT化を進めた結果、今までは紙と鉛筆を使っていた業務がキーボードとディスプレイを使うようになった以外は表面的に大きな変化はなく、効果としては若干の業務スピードアップと計算間違いなどのヒューマンエラー減少のように、限定的なものにとどまります。もちろん
 楽観的に予測した効果が得られないのは、言うまでもありません。
 これは、かなり典型的な例ですが、これに近い事例は実際にも多く見受けられます。「ITの導入は社員に楽をさせるだけで利益を生まない。」といった嘆きの声が、こういう状況に直面した経営者から、聞かれることもあります。

3. IT導入の効果を発揮するために
 企業が業績を上げるには、顧客の満足度を上げることが必要不可欠なのは言うまでもありません。経営者はこの満足度を上げるために、リードタイムの短縮、低価格化、品質の向上など、さまざまな戦略を立てていきます。そして、この戦略を実現するために、業務フローの見直し、低コスト化、品質管理手法の改善などの戦術を講じていくことになります。
 この戦術を効果的なものにしていくための手段として、IT導入という選択肢が現れてくるのです。しかし、この選択肢としてIT導入を考えるためには、IT技術によって何が実現可能となるのかということを的確に捉えていく必要があります。
 かなり抽象的な表現になってしまいますが、IT技術によって実現可能なことを少し挙げてみると、以下のようなことがあります。
・大量の情報を記録し、瞬時に検索することが可能
・数値の集計が高速かつ正確に行える
・遠隔地においても、同じ情報をリアルタイムで共有可能
・決められたルールに従った正確性が保障されるその反面、以下のように実現が困難なことも存在します。
・イレギュラーなケースへの柔軟な対応
・数値化ができないあいまいな情報の取り扱い
・決められたルール以外の判断
 これらを総合的に勘案して、戦略を実現するための手段としてIT化が有効であると判断されたとしても、導入コストが効果に見合うものであるかを判断した上で、最終的に導入が決定されることになります。
 IT導入が効果に見合うものであるかを判断するにあたって、考慮すべき点としては、IT導入の直接効果は戦術に対して現れるということです。
 しかし、企業にとって効果を出すべき部分は戦略的な効果です。そのため戦略を実現するための各戦術が戦略に与える効果を判断し、その戦術に対してIT導入がどれだけの効果を与えるかを、総合的に判断する必要があります。

4. まとめ
 ITベンダーのパンフレットによく記載されているフレーズとして「最適なソリューションを提供します。」とあります。このソリューション(Solution)という言葉を辞書で調べてみると、「(問題などの)解決」という意味が書かれています。IT化というのは、問題や課題を解決するための手段であるということを、常に念頭において進める必要があります。
 前者の事例のようなケースは、手段であるはずのIT導入が、目的となることにより、本来の目的が不明確となってしまい、効果を出すことが難しくなってしまいます。
 後者のような導入を進めることにより、効果を期待できるのですが、導入時に期待した効果は、想定外の要因により影響を受ける可能性があります。
 また、社会情勢の変化等により、戦略そのものの修正を迫られることもあります。
 したがって、導入した後もPlan→Do→Check→ActionのPDCAサイクルを常に繰り返して、最適化をはかっていく必要があります。


■執筆者プロフィール

 池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)
 学校法人聖パウロ学園
 光泉中学・高等学校 教務部 情報担当
 ITコーディネータ
 E-mail: ikeuchi@mbox.kyoto-inet.or.jp