■中小企業の会計に関する指針
去る平成17年8月3日はじめて中小企業が計算書類を作成するに当たり望ましい姿として統一した見解が日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会により公表されました。これは、中小企業が適用することができる商法の「公正ナル会計慣行」とは何かが十分に明確になっていないと指摘されてきたなか、新会社法への対応や中小企業金融の円滑化などを見据え「中小企業の会計に関する指針」としてまとめられました。
指針の適用対象法人は、以下を除く株式会社です。
(1)上場会社並びにその子会社及び関連会社
(2)商法特例上の大会社(みなし大会社を含む。)及びその子会社
さらに有限会社などについても、適用することが望ましいとされています。つまり上場会社規模の会社以外のすべての会社が対象となるということです。ただし、ここで注意を要するのはこの指針はあくまで「指針」であり「基準」ではないということです。つまり、その適用については「must」と言い切っていません。
その指針の求める会計処理の内容については、中小企業が従来どおり適用してきた法人税法の取り扱いを会計処理として適用できる場合もありますが、その処理が経済実態と乖離している場合は法人税法とは異なったより保守的な取り扱いをする必要があります。主なものは以下のとおり。
(1)下落したゴルフ会員権の時価評価
(2)退職金規定のある会社での退職給付引当金の計上
(3)税効果会計の適用
(4)厳密な発生主義の継続適用
(5)決算書の注記及び公告への対応など
■求められる対応
上記までは少し硬めの内容でしたが、ここからは具体的に中小企業に与える影響を考えてみたいと思います。その影響を一言でいうと企業にとって一番大切な資金の流れに影響を与えるということです。
従来、地銀・信用金庫における中小企業の決算書に対する認識は、開示された情報が少くまたその正確性においても疑問を持っています。ですからその対応として信用保証協会や物件担保の確保によるリスクの回避若しくは貸し出しの停止という手段をとります。そこでこの指針が公表されたことにより、決算書の正確性がある程度担保された指針に従った決算書を要求してくる可能性があるということです。もちろんそれを条件とした新規融資のスキームなども考え出されるでしょうから、このような状況をビジネスチャンスと捉える企業様もいらっしゃるでしょうが、借入過多で当期利益の確保に四苦八苦しておられる企業様には大変な影響があると思われます。保守的な指針の採用により当期利益が圧縮され、それを見た金融機関より金利レートアップの話しが飛び出してくるかもしれません。
ですから今や中小零細企業といえども、年1回の決算でなければ正確な損益が把握できないようでは外部より情報公開として要求されるに十分な内容の決算書は作成できません。やはり、事前に事業計画を立案し実践しつつスピーディーで的確な損益把握から適正な経営の舵取りを行うことが必要になります。それを実現し経営の効率化を図るには中小零細企業にも業務のフローにITを取り込むことが急務であるといえます。
■ 中小零細企業のIT導入のPOINT
最後にあくまでも私見で皆様にとっては当たり前に思われるかもしれませんが、中小特に零細企業におけるIT導入(会計・販売管理システム)成功のPOINTをまとめました。少しでも参考になれば幸いです。
(1)社長の必要性への思い
これがなければ、IT導入を進めてもうまくいきません。常に外部の経済環境が変化することに合わせ、企業内部も変化させる必要を感じ常に経営革新を心がけ実践している社長様のリーダーシップが必要です。
(2)必要な人材が企業内に存在すること
零細企業におけるIT導入の一番の問題として、投資資金の問題があります。
おおむねオリジナルのシステム開発を選択するのではなくパッケージソフトを選択し、どうしても必要な場合にのみカスタマイズを行うことで投資コストを最小限に抑えます。ですからパッケージソフトの制約された機能を理解し、最も効率よく運用する方法についてある程度考えることのできる人材が企業内に1人でも存在することが必要です。
そんな人を雇う余裕はないとお考えになる社長様もいらっしゃるかもしれませんが、少人数の会社では専任のIT担当者を置くほど仕事があるわけではありません。営業部門でも経理部門でもパソコンに興味のある方を担当に据えればこと足ります。ただし、業務を理解していることが前提ですので、業務につき理解が乏しければ教育する必要はあります。また、その人のモチベーションが高くなければ、パッケージソフトを業務にマッチさせるための仕組みや仕掛けを考えられるわけがありません。マッチさせるためには業務フローの変更も必要ですので社長のバックアップも必要となります。
(3)業務に対する評価体制がとれていること(Check&Action)
零細企業にありがちなことですが、完了した業務に対して何の評価もしていないことがよくあります。売上が伸びたか減ったかだけに注視し、物販であれば棚卸管理がおろそかになる、またサービス業であれば報酬に対する作業時間の管理(工数管理)ができていないなどです。特に棚卸の問題は重要です。棚卸は企業にとってのリスクの固まりであり、お金と何ら替わりないという認識が乏しいことがしばしば見受けられます。お金であればきちっと管理するのに、棚卸なら管理しないというのはおかしいのではないでしょうか。
帳票類などの作成についても、時間を掛けて作成しているわりにはその帳票を誰も利用してないということがあります。何のために作成されているのですがと質問すると前の担当者が作っていたからという答えがよく返ってきます。誰もチェックしないムダな帳票作成、いわば未来につながらない作業ほど疲れることはありません。
(4)ITCなどの専門家のアドバイス
最後に手前味噌になってしまいますが、中小企業にとって決して少なくないIT投資は失敗が許されません。少し経費がかかったとしても、いろいろな導入事例の知識がある専門家の意見を聞くことが成功の秘訣と言えるでしょう。
■執筆者プロフィール
氏 名 間宮 達二(まみや たつじ)
所 属 ひかり税理士法人
資 格 ITコーディネータ補
お問い合わせ mamiya@hikari-tax.com
HPアドレス http://www.hikari-tax.com
お客様の業務改善を通じて常に経営の効率化を目指したお手伝いをさせて頂いております。