先般、京都市中小企業支援センターの主催で、上手にITを活用して経営成果に結びつけている企業事例を紹介するイベントがありました。以下は、エコ・ビジネスを推進する大阪のファブレスメーカー(株)フクナガエンジニアリングを支援しているITコーディネータ生田勝氏の話の一部です。
フクナガエンジニアリングさんに訪問しましたときのIT化の状況は、社長がIT化に熱心なために部分最適みたいな状態になっていました。企業の規模とか事業形態から言えば進んでいて、給与も経理も販売管理も基幹のシステムはパソコンのパッケージソフトを導入されていました。社長の思いが非常に強いので、IT化しなければと思ったら即実行されるわけです。その結果、断片的にシステムが孤立・乱立していて一段の飛躍をしたいという場合、統制がとれず全社的には非効率なマズイ状況でした。
2つ目に、この会社は、お客さまを非常に大事にするところなので、お客さまのデータをたくさん取っていて、何万件というお客さまの情報を持っておられるのですけれど、それをうまく使うとか、整理をするというところまでは、忙しくて手が着かないで宝の山が眠っているような状況でした。
3つ目に、当時は業種によってインターネットでのビジネスなんて、うちは関係ないと言っていた時代なのですが、社長の先見の明で自社で要員を育てて、戦略商品のコンテナバッグを中心にホームページを持たれていて、情報を発信していました。驚くのは、旧来事業である金属スクラップの相場を発信しているのです。これは、フクナガさんに金属を売りに来る人に、今いくらで売れるから、いくらで買うという買値を公開するかたちです。売り手よし、買い手よしで行きたいという社長の思いで、金属相場を当時から公開していて、これが結果的に「売るならフクナガに持って行って売ろう」ということになり、フクナガファンができている理由です。このサービスは継続して、いまは携帯で発信しています。
それから、当時全従業員で30数人なのですが、eメールはパート社員を含めて全員が利用可能な状態で、神戸にある支社とはマイクロソフトのメッセンジャーみたいなものを使っていました。ITについては、「こんなことを聞いたんだけど、あるいはこんなアイデアがあるんだけど、ITでできないかなあ」と社長から相談され、それをできるかできないか判断して、できるようにして行くというのが、私のこの会社でのITコーディネータの仕事でした。このようなケースですから、ちょっと特異かもしれません。
とにかく、経営理念を忘れないで適正な利益が上がっていけばいいから、そういう経営戦略を一緒に考えてくれというようなことで、強み、弱み、機会とか脅威を分析しました。それから、社員にたくさん外国人の方がいらっしゃるので、これからは国際化で社員に良い事業をやろう。3つ目は、廃棄物とか環境ビジネスを、とにかくやっていこう。ただ、成長していくためには、4つ目のコストリーダーシップがポイントということで、やはり適正な利益は出して行きたいということを、目標に掲げられました。ちょっと変わっているのは、3つ目の環境対応で、子どもに胸を張って説明できるビジネスしかやらないという方針で、高い理念をお持ちです。これまでの反省から長期ビジョンを持ってIT化を進めたいということで、3段階でIT化を進めて行くことにしました。最初に、社長からすると社員のITリテラシが低いので、グループウェアのようなものを入れて、皆がほんとうにITを駆使できる力を付けながら、次のステップに進みたいということで、グループウェアの活用から入りました。小さな会社でも機動的に大きな力を発揮するためには、社内の情報共有、スケジュールとかナレッジを共有して行こう。それで、スピーディーで効率的な企業活動をしようということを第1ステップとしました。現在は顧客データベースを充実しようとか、全社の経営業績を瞬時に把握できるようにしようと言うような第2ステップに入っています。
グループウェアの導入で、社長は多国籍社員で構成する企業なのでオープンな経営ということを目指しておられました。社長から常に大事な情報を全社員へ発信して、同時に全社員が知ることができるようにしようということです。それから、やはり営業力を強化したいのだが、会社を大きくしないで少数精鋭のセールスマンで営業力を強化したいと言うことでした。
バトンタッチして、ここで福永社長に本心を語って貰いましょう。
グループウェアから入ったのは、コスト的に一番やりやすい。はっきり言いまして何千万円の投資というのは、簡単に私どものような企業でできる訳もなく、正直言って怖い。採用したのは営業日報をグループウェア化した営業優先のソフトです。営業が伸びて収益も上がって、グループウェアが浸透するということなので、これを導入することにしました。購入はしないで、毎月約10万円台そこそこで、ASPと言うレンタル方式での利用にしました。
一番の問題は、これが浸透するかということだったのですが、1日を費やして徹底的に使い方とか、モチベーションの上げ方、末端の社員でもちゃんと続けてやれるような指導をされ、非常に役に立ちました。やはり皆、こんなことをするのは嫌なんです。「何で忙しいのにこんなことせなあかんねん」と、特に現場の人はなかなか来ません。とにかく気付きとか、褒めるとか、モチベーションを上げるとか、そういうことをこの日報を通じて必ず毎日する、特に社長はする、全管理職にも励行することです。やってはいけないことは、絶対にメール上で叱っては駄目だとか、モチベーションを下げるような行動は取るなと言われました。
メールで伝える言葉と、口で面と向かって言う言葉では非常に違う。それは私も経験していて、よく分かりました。今のところアメとムチでモチベーションが上がっていると思います。その結果、これで約2年目に入っていますが、社内の情報共有は非常に進んでいます。いま止めれば、やはり仕事に支障が起きるでしょう。お客さんにも迷惑がかかるような状態になっていると思います。グループウェア会社の思う壺にはまっていると言われればそうですけれど、非常に情報がわかりやすくなりました。そういうことが、こんな会社でもできるのです。
以上、ITを推進する際のスタンスやITを経営戦力化するヒントが得られるのではないでしょうか。このようなヒントや気づきを誘発する機会は、是非とも来年も企画して行きます。
■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ,中小企業診断士,社会保険労務士,ISMS主任審査員
e-mail: eri@nakamura.email.ne.jp