1.はじめに
従来から“生産システム”の目的は、“生産要素を効率的に生産財(製品・サービス)へ変換し、価値増殖を行い、高い効用(有用性)を提供する”と捉えられている。(参考文献1) ここでは、経営革新のための重要な視点である、製品(生産財)設計と生産システムとの関係について述べる。
2.製品設計と生産システムとの関係
設計とは、「機械類の製作や建築・建築土木工事に際して、仕上がりの形や構造を図面などによって表すこと」(大辞林 三省堂)と説明されている。この説明のとおり、設計においては最終的に何らかの媒体によって設計図面に仕上げることが目的になる。理想的には、一旦この設計図面が完成すれば、その設計図面のとおりに実行すれば完全な製品ができるはずである。しかし、現実には、それほど単純ではない。様々な要因によって、部分的に、又は、全体的に幾度かの試行錯誤がおこなわれ、製品が完成されていく。特に新製品の開発・設計・製造の場合、この傾向が多く見られる。ご承知のように、モノ作りにおいては、 “作られるモノを決定する過程の仕組み”と“モノを作る仕組み(生産システム)”とが良好に相互に機能してはじめて、最良のモノが作り出されるのである。このことは、“凸(作られるモノを決定する過程の仕組み)”と“凹(モノを作る仕組み)”の両方が、お互いに最適な関係の維持が必要であることを意味している。
2.1.製品設計
最近は、製品を“如何にして迅速に市場に提供するか”が必要不可欠な要素になっている。それと同時に、環境問題を考慮し、製品のライフサイクル(寿命)全体を十分に考慮したモノを市場に送り出さなければいけなくなっている。このことは、製品設計までの段階で、その製品の生涯(設計-製造-使用-リサイクル・廃棄)を、どのように過ごさせるかを全て決定してやらなければならないことを意味する。このことからも判るように、今や“製品設計”は、その製品の“魂を吹き込む過程”と言ってもよいのである。この“魂を吹き込む過程”を、最重要視するかしないかでその製品の一生は決定されるのである。中には、一生を終えず、途中で回収され“おシャカの製品“になってしまう。
(1)製品設計とは
一般に製品設計は、大きく分けて“機能設計”と“製造設計”に分かれる。機能設計とは“製品に関する様々な情報を、製造に先立ち決定づけること”である。
製造設計とは、“製品を実際に作るという視点から、如何にして高品質・安価なものを速く実現すること”である。製品設計においては、この2大要素の両方を同時に満足させた設計をすることが最低限必要である。 もし、“機能設計”に重点を置いて“製造設計”を軽視すれば、その製品の寿命を短くするばかりか、製造すらできない場合もありうる。
(2)製品設計までの過程
製品設計の段階は、これから生まれてくる製品に“魂を吹き込む直前の過程”である。実は、ここで重要な点は、この“魂を吹き込む直前過程”ではなくて、それ以前の如何にして、どのような過程でこの“魂を作り上げていくか”という“魂創造過程”が最重要なのである。この“魂創造過程”では、その製品に関係する全ての部門(マーケティング、研究、開発・設計、製造、保守・サービス、営業、標準化、法律・特許、仮想顧客、…)のメンバーが、ゴールを目指して相互に激烈な討論をする必要があろう。すなわち、それぞれの視点で、製品への要求条件とその実現手段の整合性を十分に議論し、多様な評価指標に基づいて納得のいく“魂創造”をメンバー共通のものとし、享受することを意味している。そのことは、一度で、誰もが納得する“魂創造過程”を経た結論としての“魂(製品設計)”情報は、それ以降の全ての関係する部門・工程のメンバーの合意がすでに取れているのである。あとは、如何にしてこの“魂(製品設計)”情報に基づいて正しく、迅速に作業・処理をおこない顧客の手元に製品を届け、保守・サービスをするかのみを考えればよいのである。
一方、最近では、製品設計をおこなう場合には、その製品が環境に及ぼす影響についてあらかじめ評価されなければ、製品の競争力を危うくする事態も発生している。このような新しい評価要素についても、“魂創造過程”の段階に組み入れれば自然な形で“魂(製品設計)”情報に反映されていく。以上、述べてきた一連のことは、“設計革新”を意味している。
2.2.生産システムとの関係
モノ作りにおいて、前述の“設計革新”を図ろうとするならば“生産システム”の思考に立脚しなければならない。
生産システムとは、ご承知のように“計画-設計-購買-製造-流通-在庫-販売-管理”なる一連の職能連鎖を意味している。すなわち生産システムは、製品のライフサイクル全体を見通した概念である。よって、この生産システムの枠組みに沿えば、“魂(製品設計)”情報を自然な形で反映・具現化できるのである。“製造革新”中心の思考では、決して“設計革新”は実現しないし、ましてや生産システムを構築したことにもならないのである。
3.設計とDNA分子(デオキシリボ核酸)
設計とは、まさにDNA分子を作り上げることとよく似ている。説明によるとDNA分子とは、“DNA分子の中の塩基の配列順序は、種の個体によって異なり、それが個体の遺伝子情報となっている”とのことである。まさに、設計そのものが、このDNA分子を作り、遺伝子を形成することになるのである。悪い遺伝子を作れば、病気になったり死んだりする。設計も同じである。
4.おわりに
ここでは、経営革新を支える製品設計と生産システムとの関係について説明した。
モノ作りで一番大切なのは、如何にして、設計するかにつきると考える。その設計も、従来のような“狭義の意味での設計”ではなく、“広義の意味での設計”を真正面から捉える必要性を感じる。今や、単に技術者・研究者のみが、設計の主導権を握る時代ではなくなってきている。様々な分野の人達と共同で議論しゴールを目指す認識が大切である。そのためには、如何に、モノ作りの早期の段階で、真に正しい“魂”を作り上げていくかに全エネルギーを集中させても決して損はしない。むしろこのような仕組みを永続的に構築・利用するならば21世紀にも明るい展望が開けると確信する。なぜならば、ビジネスの世界は、いまやグローバル化し、日本国内のみならず米国、ヨーロッパ、アジア等の変化が、ほんの数秒以内に全世界に届く時代である。如何にしてその変化に正しく・素早く対応するかが勝負である。そのためには、“製造革新の思想”に軸足を置くのではなく、“設計革新の思想”に軸足を置かなければ生き残れない。
いまや、インターネットに代表される情報技術基盤が、非常な速さで進展してきている。時間や距離を意識せずにモノ作りをすることができる時代になってきた。製造業といえどもこの情報技術の活用なしに生き残ることは、不可能である。
それに加えて、如何にして“新しい知恵(発想)を創造するか”が、重要である。
この“新しい知恵”が生まれた瞬間に、その知恵を利用できる製品、ターゲット商圏、その実現手段などがインターネット上でコンカレントに議論され、瞬時のうちに処理が実行される時代がすぐそこまできている。21世紀において、日本の製造業が一層の飛躍をするためには、如何にしてこの“知恵(発想)教育”を充実・発展するかにかかっていると考える。経営革新の一助になれば幸いである。
参考文献
1) 人見勝人 生産システム工学 第2版 P.15 共立出版社 1990
■執筆者プロフィール
柏原 秀明
京都情報大学院大学 教授
ITコーディネータ,技術士(総合技術監理・情報工学部門)
ISMS審査員,ISO9000審査員補,公認システム監査人補,APECエンジニア
email:kasihara@mbox.kyoto-inet.or.jp