財務分析の話し/中川 秀夫

先日、経済産業省が推進するIT経営応援隊事業「IT活用で経営力アップ研修会」(主催:財団法人京都市中小企業支援センター)において、財務分析の研修講師を担当させていただきました。
どの企業にとっても有用なことですので、一部その内容をご紹介させていただきます。

財務情報は過去の企業経営の考課情報であり、業績の集約結果です。企業の戦略や経営戦略の改善・改革の結果は財務諸表に業績として表現されています。
財務分析を行う目的は、これまでの業績結果である財務情報から、自社の強み及び弱みを財務の視点で確認することです。
財務情報の評価を行い、これまで展開してきた経営政策の成果を検討したり、これからの経営戦略の立案や軌道修正などの参考としての活用が可能となります。

財務情報の評価は企業評価にあたっての第1歩です。
財務分析は、企業分析の一部分です。

企業分析の要素には、つぎのようなものが考えられます。
1.財務情報(定量分析)
2.企業概要(定性要因分析)
(ア)経営者の実績・資質(先見性(企画力)、指導力、責任感、柔軟な発想)
(イ)経営体制(組織、従業員、情報化の程度)
(ウ)取引関係、外部支援者との連携状況
3.マクロ情報
(ア)業界、業種の景況
(イ)地域の事業環境、商圏の景況

財務分析の方法
1.趨勢分析(過去3期から5期程度の推移を実数や比率で行います。)
2.比率分析(財務諸表の勘定科目の数値に基づいて財務指標で行います。)

財務情報は、財務諸表から入手します。財務諸表とは、貸借対照表、損益計算書利益処分計算書、製造原価報告書(製造業)、キャッシュフロー計算書のことです。主な財務諸表は貸借対照表、損益計算書となりますので、これらの構造的特徴をご説明します。キャッシュフロー計算書も重要です。

【1】貸借対照表の構造的特徴
1.期末における財政状態を取得原価で表わします。(時価で表したら財産状態)
2.財政状態=資金の調達状況と運用状況のことです。
3.資金の調達状況=負債(返済要の他人資本)・資本の部(自己資本)
4.資金の運用状況=資産の部
5.資産=負債+資本(必ず一致します)
6.流動○○=(購買→生産→在庫→販売→回収という営業循環過程にあるもの)
+(1年以内に現金化ないし費用化されるもの)です。
7.固定○○=流動○○以外(長期性)
8.繰延資産=支出の効果をその効果の及ぶ数期間に配分するために計上している
ものなので、換金性はありません。
9.資本=元入金+追加資金+設立から決算期までの儲けのうち企業に蓄積したもの(蓄積のうち今期分を「当期純利益」で表わします)です。

【2】損益計算書の構造的特徴
1.一会計期間の経営成績を表わします。
2.収益-費用=利益を5段階で区分します。 

(ア)売上高-売上原価=売上総利益(粗利益)
(イ)売上総利益-販売費及び一般管理費=営業利益(本来の活動利益)
(ウ)営業利益±営業外収益・費用=経常利益(金融損益等考慮後利益)
(エ)経常利益±特別利益・損失=税引前当期純利益(臨時損益後利益)
(オ)税引前当期純利益-法人税等=当期純利益

【3】キャッシュフロー計算書の構造的特徴
1.おカネの流れを把握するためのものです。 

2.経営活動を3つに区分して、それぞれの活動に関するおカネの増減から資金状況を判断します。
3.期首現預金残高→(1)営業活動→(2)投資活動→(3)財務活動→期末現預金残高

財務分析のポイントは、財務指標を複合的に評価することです。
(財務指標:(↑)は比率が高い方が良。(↓)は比率が低い方が良。)

(収益性)
a)資金の利回りは良いか→総資本利益率=利益/総資本(↑)
b)それは、会社の稼ぐ力が大きいのか→売上高利益率=利益/売上高(↑)

(活動性)
c)それとも、会社は活動的なのか→総資本回転率=売上高/総資本(↑)
d)投下された資本は効率的に運用されているか
→製品(商品)回転日数=製品(商品)/売上高×365(↓)
e)また、資金繰りの状態はどうか→売掛金回転日数=売掛金/売上高×365(↓)

買掛金回転日数=買掛金/売上高×365(↑)

(安全性)
e)資金の財務基盤は安定しているか→自己資本比率=自己資本/総資本(↑)
f)短期的な支払能力はどうか→流動比率=流動資産/流動負債(↑)
g)調達と運用の辻褄が合っているか
→固定長期適合率=固定資産/(自己資本+固定負債)(↓)
h)どの程度の金利負担があるのか
→売上高対支払利息比率=支払利息割引料/売上高(↓)

(生産性)
i)売上高に対する付加価値(加工高)はどれぐらいか
→付加価値比率=付加価値/売上高(↑)
付加価値=経常利益+労務費+人件費+支払利息割引料-受取利息配当金
+賃借料+租税公課+減価償却実施額
j)機械などの設備資産の有効利用度はどうか
→機械投資効率=付加価値/設備資産(↑)


■執筆者プロフィール

中川 秀夫(なかがわ ひでお)
税理士、ITコーディネーター、CFP(1級FP技能士)、
不動産コンサルティング技能登録者
IT投資に関する支援を新機軸に経営計画、 

建設投資、不動産に関する業務サポートを展開中。
お問合せ先:naka.h@dream.com