戦略という言葉は、企業経営の現場でよく使われます。”競合他社に対して、戦略的優位性を獲得する。”、”我が社の差別化戦略は、明確である。”等々です。また、経営学のテキストを見ると、”戦略論は組織論とともに経営学の2大構成要素”であり、”戦略とは、組織の基本的な活動の内容と範囲、経営資源の獲得・蓄積・配分、業務の構造とその基本的進め方、競争上の位置づけ等々を規定する特定の意思決定”(榊原清則)と定義されています。このように戦略論をひもとけば、様々な定義がありますが、今日では「競争戦略」がその中心であることに異論はないと思います。
それでは、競争戦略とはどのようなものでしょうか?
「競争の戦略」で有名なマイケル,E.ポーターは、どんな産業でも、(1)新規参入の脅威、(2)業界内事業者間の敵対関係、(3)代替製品・サービスの脅威、(4)買い手の交渉力、(5)売り手の交渉力、という5つの基本的な要因によって競争の状態が決まると述べています。5つの要因がどう作用するかによって、業界の競争状態と収益率が変わると言うことです。つまり、企業が業界内でどのような位置を取るかによってその企業の競争上の位置が決まってくるというものです。
企業の外部環境要因に着目し、平均的利潤率の高い魅力的な業界を特定し、その中での優位なポジションを確立することが競争優位を獲得する鍵となるとの主張です。
このようなポーターの競争戦略論は、市場ポジショニング・ビューと呼ばれ、多くの支持を得てきました。
ところが、1990年代初頭にポーターとは異なる競争戦略論が注目を集めるようになってきました。これは、競争優位の源泉を企業の内部資源に求める資源ベース・ビューと言われるものです。「持続的競争優位を左右する要因は、所属する業界の特質ではなく、その企業が業界に提供するケイパビリティ(能力)である。」「企業戦略の一貫としてこの種のケイパビリティの開発を目指し、そのための組織が適切に編成されている企業は、持続的競争優位を達成できる。」(ジェイ,B.バーニー)
バーニーによれば、持続的競争優位の源泉となるのはその企業が保有する独自の資源やケイパビリティとなります。その企業が保有する経営資源やケイパビリティの経済的価値が高いだけでなく、希少性があり、模倣困難性がある場合にのみ、持続的競争優位の源泉となると主張しています。
このようにポーターに代表される市場ポジショニング・ビューと資源ベース・ビューは、競争優位の源泉を全く異なった要因に求めています。組織の内在的な資源や能力に着目する資源ベース戦略論は、1990年代に大きく発展し、新たな競争戦略論として定着しつつあります。私たちがよく耳にする”コア・コンピタンス経営”、”ナレッジ・マネジメント”もこの流れの一部に他ならないのです。
ITの活用で競争優位を獲得する「ITケイパビリティ」
また、こうした資源ベース戦略論は、情報技術の組織的な活用能力=ITケイパビリティという見方を生み出しています。情報技術の高度化が進み、入手が容易になるにつれて、情報技術そのものが競争優位の源泉になるとの考えは、影を潜めています。情報技術が競争優位の生み出すのではなく、それを経営活動の中で使いこなす組織能力の差が競争優位を生み出すとの考えがITケイパビリティの根本にあります。
ITケイパビリティの構成要素は、(1)ハードウエアなどの情報技術資産、(2)情報技術を活用する人的資源、(3)組織や知識資源などです。
競争戦略という古くて新しい事業戦略は、情報技術という新しい要素をその中でどう活用するべきか議論されてきました。それは、情報技術に止まらずその組織的な活用能力を評価するところへ発展しているのです。
■執筆者プロフィール
藤原正樹(フジワラマサキ)
中小企業診断士 公認情報システム監査人(CISA)
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