なりたい自分になる方法/中川 普巳重

 最近「働く女性のためのやりがい」「働く女性のための時間管理」などといったテーマで、女性社員向けの講演依頼が続いている。大手・中堅企業に勤める女性社員がこれからチームリーダーとしてがんばってほしいという時期に寿退社してしまうらしいのだ。仕事に対する価値観は世代によって違うように思うが、女性の総合職が初めて企業に導入された時代に就職した私にとってはちょっと意外な現象である。

 社会学者で東京学芸大学教授の山田昌弘氏の著書「希望格差社会」の中に、実力で上を目指せる勝ち組と、頑張っても報われない、明るい未来が開けないと絶望する負け組みが存在し、その二極化が進んでいるという話があった。
 勝ち組になるべく、もっともっと頑張って上を目指すのは大変そうだし自信もない。かといって今の仕事を続けていって、現状維持できる保障もなさそう。このままでは負け組みになってしまうのではないだろうか・・とふと不安に思う。

 そんな彼女達に向かって私は「なりたい自分像」について話をする。
「好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、不得意なこと」は何ですか?
「経験のある業務は何ですか?」「経験のある業務でもっとやってみたいことは何ですか?」「なぜそれをやってみたいと思うのですか?」「その業務で人並み以上の成果を出すためには何が必要だと思いますか?」好きなことが得意であり、それがやりたいこととイコールであれば幸せだと思う。さらに第三者からの評価を得られればもっともっと自分の可能性にチャレンジできると思う。

 自分のことをもっと知って、もっと好きになって、「なりたい自分像」をイメージしてほしい。もっと目的意識を持ってほしい。
「人生の目的は何ですか?」「仕事の目的は何ですか?」「家庭の目的は何ですか?」「その他にある目的は何ですか?」なりたい自分像を考えるときには、ただ漠然と考えるのではなく、仕事や家庭などテーマ別に考えるとより具体的にイメージできるだろう。

「1年後の姿は?」「3年後の姿は?」「5年後の姿は?」「10年、20年、30年後の姿は?」なりたい自分像がなんとなく見えてきたら、そこに時間軸を加えてみる。1年後にイメージする自分像へとたどり着くために、いま何をすべきなのか?を考えることが重要なのである。「現状の自分となりたい自分像のギャップは何ですか?」現状とのギャップを正しく認識し、どんな自分でもいまの自分を受け入れて、ギャップを埋める方法を具体的に、前向きに考えて、後は一歩一歩進むだけ。「なりたい自分像」が明確になりさえすれば、きっと到達できる。

「なりたい自分像」には正解があるわけではない。人と比べるものでもない。自分がどう生きたいか・・・を自由に考えるだけなのだ。人それぞれ環境が違うし、あの人のようには無理だ、なんて思う必要はない。そもそもステレオタイプの勝ち組、負け組などなく、皆がそれぞれの勝ち組になることができるはずである。 現状の把握こそが、「なりたい自分」にたどり着く大切な一歩ではないだろうか。

 私はカウンセラーではなく企業のコンサルティングを主業務としている。従って、企業研修などで「なりたい自分になる方法」と題して講演するときも、実はベースは企業の経営戦略フローなのである。

 企業には経営理念という「想い」があり、その想いを実現するために経営目標を掲げる。そして、経営目標達成に向けて活動する領域として競合他社との競争に勝つための「誰に何をどのように提供するのか」という事業領域を設定する。
これをマーケティング戦略などの重要戦略へと落とし込み、最終的に「製品・サービス、価格、プロモーション、チャネルの最適な組み合わせ」として市場へ提供するのである。しかし、この一連の流れは価値を前提としたものであり、「顧客、競合、自社の状況」といった事実を前提としたものではない。そこで、「顧客、競合、自社の状況」といった3つの事実を正確に把握し、「事業の目指すべき姿」としての価値とのギャップを認識することが重要となる。そのギャップ=課題へどのように対応すべきかを繰り返し仮説検証する「仮説・検証サイクル」こそが企業の日々の活動なのである。

 自分を企業に置き換えて考えてみる。「自分が会社へ提供する価値は何か?」「同僚が会社へ提供する価値は何か?」「自分と同僚の提供する価値の違いは何か?」「会社の求めるものは何か?」「会社の評価はどうか?」自分という経営資源の棚卸をきちんとして、競合である同僚の提供価値を分析し、ここでなら自分の良さを最大限に発揮し絶対的な価値を提供できるという事業領域を見つけることが仕事における「なりたい自分像」なのである。

「事業の目指すべき姿=なりたい自分」が明確にならなければたどり着くことは出来ない。これからも、「事業の目指すべき姿=なりたい自分」を追求し、新規事業をテコに経営革新を行う意欲ある経営者、働くやりがいを見つけて元気にがんばる個人の自己実現のお手伝いができればと思う。


■執筆者プロフィール
中川 普巳重(なかがわ ふみえ)
京都リサーチパーク株式会社 EBSセンター 副所長
 中小企業診断士、ITコーディネータ、日本経営品質賞セルフアセッサー、
 キャリア・デベロップメント・アドバイザー、JANBOインキュベーション
マネジャー
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