経営のヘッドピンは何か/梅津 政記

1.強い会社は必ず「勝ちパターン」を持っている

 昨今の市場はほとんどが成熟化しています。お客様のどこを訪問しても、ライバル企業とのし烈な競合状況が生じています。また店舗経営においても、同じような業種・業態のお店が多数存在し激しい競争をくり広げています。スポーツの世界では、一流選手、一流チームは必ず自らの「勝ちパターン」を持っています。
 例えば、プロ野球では、強いチームはそのチーム独自の勝ちパターンを持っています。足の速い1番打者が出塁し、2番打者が送りバントでランナーを2塁に進めます。3番打者がヒットを打ち2塁打者を生還させてまず1点。そして4番打者がホームランを打ってさらに追い討ちをかけます。先発ピッチャーは、先取点を6回から7回まで守りきり、中継ぎピッチャーにバトンタッチします。中継ぎピッチャーが踏ん張った後、最後は、押さえのストッパーが手も足も出ぬ快速球で勝利の方程式を締めくくります。

 また、大相撲の世界では、右四つが得意な力士は、立会いの踏み込みの強さで、相手を突き放し、その隙をすかさず攻めて、得意の右四つの形に持ち込みます。その後は引きつけ強くして寄り切るか、投げを打って相手を倒します。
このように、スポーツの世界で一流といわれる選手やチームは、自らの勝ちパターンを持っており、そのパターンに持ち込むために、更に磨きをかけます。
相手はそのパターンがわかっていても防ぎきれません。それほど勝利の方程式は研ぎ澄まされ、洗練されています。
 経営の世界でも、強い会社はその会社独自の「勝ちパターン」を持っています。グッドウィルグループの総帥である折口社長が「ヘッドピン理論」というものを唱えられています。読者の方々の中にはボーリングを行なった経験のある方も多いと思いますが、ストライクを出した時のことを思い浮かべて下さい。
ストライクを出すために絶対欠かせない条件があります。それは、最も前に立っているヘッドピンをはずさないことです。いくらいいボールを投げても、ヘッドピンを外せばストライクはではせん。例えば、ボーリングでいいスコアを出すためにトレーニングを行なったとしましょう。威力のあるボールを投げるために足腰を鍛え、腕の筋肉を強化しました。しかし、いくらこれらを鍛えても、ヘッドピンを外せば意味がないのです。再三ヘッドピンを外すようでは、ピンボケのトレーニングをしていたことになります。つまり、ボーリングの本質はヘッドピンを外さないことです。
 折口社長は経営の世界でも、ヘッドピンがあり、そのヘッドピンが何かを明らかにしなければならないと主張されています。同社長は、ディスコの全盛期にジュリアナ東京を大成功に導かれました。その時のヘッドピンは、ディスコを「毎日満員にすること」と捉え、それを実現するための戦略をさまざま工夫されたそうです。

2.自分がお客様であっても買いたいと思う商品・サービスを提供し続けることそれでは、経営全般にいえるヘッドピンとは何でしょうか。経営を成功させるためには、もちろん業績を上げなければなりませんが、その業績を上げるための本質は何なのかということです。よい人材を育成することでしょうか。あるいは、誰にも思いつかないような素晴らしい戦略を考えることでしょうか。
私は、経営のヘッドピンは、「自分がお客様であっても買いたいと思う商品・サービスを提供し続けること」だと考えています。
 まずお客様の立場から見ると、お客様にとって会社の良し悪しを判断できるのは、その会社が提供する商品やサービスしかありません。商品が他社より安いとか、他社がマネのできない品質を持っているとか、営業パーソンの信頼が高く彼の助言が売上に貢献している、などの要因でお客様は会社の良し悪しを判断されるのです。例えば社内の人間関係がいくら良くても、それはお客様には関係のないことです。業績を上げるためには、どんな商品・サービスであれば、お客様は買いたいと思うのかを明確にし、それを提供しなければなりません。
 しかも、その提供が一発屋で終わってはだめです。いくら良い商品やサービスでも、すぐに他社が類似品で対抗するからです。従って、お客様が買いたいと思う商品・サービスを提供し続けなければならないのです。
 ところで、自社の商品・サービスの品質やその他の内容を一番よく知っているのは誰でしょう。それは、社内の人達です。どんなグレードの材料を使っているのか、製造工程の中で品質管理を充分に行なっているかなど、彼らは社内の実情をすべて知っています。いうなれば、彼らは自社商品・サービスに対して最も厳しい目を持ったお客様なのです。従って究極的には、彼らがお客様であっても、買いたいと思う商品・サービスを提供しなければならないのです。
誰でも、自分が買いたいと思わない商品・サービスを、お客様に買っていただきたいとは思わないでしょう。そんな商品・サービスを扱っていては、社内のモチベーションも上がりません。
 「お客様が買いたいと思う商品・サービスを提供し続けること」を、社内の立場から言うと、「自分がお客様であっても買いたいと思う商品・サービスを提供し続けること」となります。しかも、社員価格ではなく、定価であっても買いたいと思う商品・サービスでなければなりません。ただし、自分が買いたいという意味は、自分の好みにあっているという意味ではありません。自分の好みにあった商品やサービスばかりを売っているようでは、お客様の本当のニーズを感じ取ることはできません。自分が買いたいと思うとは、品質、価格(決して安いという意味ではありません)などの点から見て、自分がお客様の身になっても買いたいと思うという意味です。
 もしあなたが、自分がお客様であっても現商品・サービスのままで買いたいと思えるなら、あなたの会社の商品・サービスは、おそらく非常に競争力を持っているでしょう。残念ながら、そう思わないなら、どんな商品・サービスであれば買いたいと思うのかを明確にしなければなりません。そして、その実現に全力投球することが必要です。
 企業経営を突き詰めれば、それ(自分がお客様であれば、どんな商品・サービスであれば買いたいと思うのか)を明確にし、徹底的にその実現を目指すことです。新たな商品やサービスを開発することはもちろんの事、コストダウンやよい人材を育成するのも、すべて商品力・サービス力の強化に結びついていなければなりません。いくら努力しても、商品力・サービス力の強化に結びつかない行動はピンボケの行動なのです。

 経営活動におけるヘッドピンは、「自分がお客様であっても買いたいと思う商品・サービスを提供し続けること」です。


■執筆者プロフィール

 梅津 政記(うめづ まさき)
 株式会社新経営サービス
 チーフコンサルタント 中小企業診断士・ITコーディネータ
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