○ はじめに
企業の業績を向上させるために戦略が重要であることは言うまでもありませんが、この戦略を奏功させ、業績を向上させるのは容易ではありません。なぜでしょうか?それは、戦略が実効性あるものになっていないからです。しかし、実効性ある戦略を立案し実行段階にもっていくのは簡単ではありません。
ここでは実効性ある戦略とは何か、またその立案方法について考えていきます。
○ 中堅・中小企業の一般的な経営計画の立案方法
どんな企業でも、次年度の計画や売上目標はあるはずです。展望を持った企業であれば、中長期計画までを作成します。しかし、多くの場合、この計画には大した根拠はなく、「5年後に売上を3倍にしよう」とか「来年何%成長させよう」という単なる願望なっています。このような戦略なき計画は、絵に描いた餅となる可能性が高まります。計画未達が慢性化すると計画に対する意識が低くなり、計画そのものに意味がなくなってしまいます。
○ ITCによる戦略策定
ITCプロセスガイドライン(PGL)では、経営戦略との整合を図りながらIT戦略を立案していきます。また、ITCのケース研修では、戦略はPGLに従いウォーターフロー型で論理的に整然と進められていきます。よく「戦略は一日でつくれる」といわれますが、多くの企業では数日間で集中的に作成されるケースが多いようです。しかし、実際このようにスマートに戦略を立案するのはとても困難です。
ITCはIT戦略の立案に主眼を置いていますので、PGLやケース研修で取り上げる経営戦略の立案について非常にスマートなケースを想定するのは致し方ないことですが、ウォーターフロー型で戦略がそのまま部門に展開された場合、失敗の可能性はかなり高いといえます。この点は十分に注意が必要で、安易に行わないことです。
○ 実効性ある戦略のために
通常、トップあるいは企画部門により立案された戦略は仮説にすぎません。この段階では、戦略により本当に業績が向上するとは限りません。戦略は単なるアイデアではいけません。戦略を見誤れば致命的な結果を招くことになります。
大切なことは、戦略をより確かなものにしていくことです。実効的な戦略の立案をめざし熟成させる必要があります。それには、仮説と検証のプロセスを繰り返すことが効果的です。実効性が担保されるまでじっくり検証すべきです。
○ 検証の方法
仮説とした戦略を戦術、施策、実行計画にまで落とし込み検証します。実行計画にまで落とし込んで初めて戦略立案段階では見えなかった問題が見えるようになります。このとき、より具体的な内容や数値で検証することが肝心です。また、計画の時間軸はとても重要です。成長のスピードは時間のかかるインフラ構築や人材育成のスピードに影響を受けます。これは、実行計画にまで落とし込まなければ検証できません。
ビジネスモデルやビジネスプロセスモデルについては、特に念入りな検証が必要になります。営業、生産、購買、請求といった直接部門だけでなく、人事、経理、総務、システムの間接部門まで細かく見ていきます。全国に拠点展開をしている企業であれば、サンプルの拠点についてより細部まで検証するとよいでしょう。
ケース研修ではAPQCビジネスモデルやバランススコアカード(BSC)の活用を習得しましたが、単なるモデルにとどまらず、売上や経費を、いつまでにどのような方法で増大させるのか具体的に試算してみます。どのような組織体制とするのか。構成人員は何人で、どのような役割なのか。作業効率はいかほどか。またそのコストはいくらか。このように検証を詳細に行っていくと、当初の計画より売上が伸びなかったり、コスト高に陥ったり、時間がかかりすぎたりすること判明します。
もし、検証がうまくいかなければ上位のレベルに戻って別の方法を検討します。
つまり、部門展開され実行計画に落とし込まれた戦略は、修正を加え再度統合し、全体の戦略の見直しを行う。この手順を数回繰り返すことで、戦略の実効性を高めることができます。
■執筆者プロフィール
角倉 悟郎 (すみのくら ごろう)
ITコーディネータ
suminokuragoro@ybb.ne.jp