●中小企業にも求められる企業価値の評価
最近、企業買収関連のニュースを頻繁に目にするようになりました。企業は敵対的買収や物申す株主の批判から自己防衛するために安定的な株主の確保を求め「株主重視の経営」を意識しています。「株主重視の経営」とは、「企業価値」や「事業価値」を高めることにあると言われています。それでは企業価値とは、何で計ればよいのでしょうか。企業価値の評価は、不況時代の反省から財務諸表だけの数字や規模のみの判断に主眼を置くのではなく、本来の「商い」つまり本業の営業でどれだけのお金を将来生み出すことができるのかという「将来キャッシュフロー」から評価する方法がとられるようになっています。
企業の価値を将来営業キャッシュフローから考え注視しているのはなにも上場企業の株主だけではありません。中小企業においても金融機関の融資審査厳格化に伴い、取引銀行は常に営業のキャッシュフローを中心に融資判断しています。
営業キャッシュフローが事業活動の中で生み出せていないということは、当然返済原資も生み出せないと金融機関は判断し新規の融資は受けられません。つまり、中小企業にとっても将来のキャッシュフローをベースに企業価値を高めることが重要になってきています。
では、この将来キャッシュフローの評価についての考え方を少し見てみましょう。わかりやすくするために、企業全体でなくプロジェクトにブレークダウンして考えることにします。将来キャッシュフローから評価する考え方は新規プロジェクトに対して投資すべきなのか否か判断することにも役立ちます。
基本となる「現在価値」と「正味現在価値」の考え方を理解しましょう。
●現在価値とは
あなたは知り合いから「5年後に1,000万円もらえる国債があるから買ってくれないか」と頼まれました。あなたはいくらで買うでしょう、当然1,000万円で買うようなお人好しではありませんよね。今1,000万円出すのであれば、定期預金にでもすれば5年後には5年間の運用益を得ることができるはずです。
では金利を1%で考えると今1,000万円投資すれば複利計算で5年後には1,000万円×(1.01の5乗)=1,000万円×1.05101=1,051万円 となります。
最初に投資額が決まっていて、金利をかけて将来の価格を求めましたが、逆の見方をすると「5年後に1,051万円を年率1%で割り引く(割引債)は現在1,000万円が適正購入価格」と理解することができます。
それでは、あなたは今回5年後に1,000万円もらえる国債の現在の金利が1%としたときに、いくら以下なら購入しても良いと考えられるのでしょうか。
それは、先ほどの考え方の通り、
1,000万円÷(1.01の5乗)=1,000万円÷1.05101=951万円以下なら購入を考えても良いことになります。つまり951万円が5年後に受け取る国債の現在価値となります。
●正味現在価値とは
現在価値の考え方を学習しました。今度は正味の現在価値について考えてみましょう。あなたは部下から1,000万円の投資プロジェクトの提案を受けました。
部下のプロジェクトに対する熱意は感じましたが数的に判断できる資料が提出されていませんでした。そんなときあなたは部下に「正味現在価値を判断できる資料を持ってこい!!」と言えばよいのです。
正味現在価値=将来発生するキャッシュフローの現在価値の合計額-初期投資額と定義できます。
今回部下が持ってきたプロジェクトは京都市内で5年間の賃貸契約で飲食店を営業するプロジェクトでした。計画として1年目100万円、2年目300万円、3年目400万円、4年目450万円、5年目200万円で5年間合わせて1,450万円キャッシュフローを生み出す予定です。これを年度ごとにリスクを考慮して5%の割引率で割り引いた金額の現在価値の合計額は1,240万円となります。正味現在価値は、1,240万円-1,000万円=240万円のプラスとなり投資すべき案件と判断できます。
では、5年間のキャッシュフローが1年目100万円、2年目250万円、3年目300万円、4年目300万円、5年目200万円で5年間合わせて1,150万円キャッシュフローを生み出す計画ではどうでしょう。結論は985万円-1,000万円=-15万円で正味現在価値がマイナスとなりこの投資はすべきでないことになります。このように投資について判断するときにもよく用いられるのが正味現在価値です。
●企業価値評価方法
このように将来キャッシュフローを現在価値で割り引いて企業価値を求める方法がDCF( Discounted Cash Flow )法と呼ばれるもので一般的によく用いられる方法です。もちろんDCF法は「現在価値」の考え方ですべて理解できるものではありませんが、考え方のベースになっています。
「正味現在価値」がプラスかマイナスか計ることにより、「企業」や「事業」のM&A実行についての参考にしています。
企業価値評価方法にはDCF法の他、自社の事業領域と近い上場企業(類似企業)を複数選定し、評価倍率を求めて自社の事業価値を算出する類似企業比較法等があります。ご興味のある経営者の皆様はこれをきっかけに一度自社の企業価値について考えてみられてはいかがでしょう。
■執筆者プロフィール
氏 名 間宮 達二(まみや たつじ)
所 属 ひかりアドバイザーグループ(ひかり経営戦略株式会社)
資 格 ITコーディネータ
お問い合わせ mamiya@hikari-advisor.com
HPアドレス http://www.hikari-advisor.com
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