本質を見抜く力とマーケティング・マイオピア/下山 弘一

企業が自社のマーケティング上の使命を狭く解釈しすぎて変化への対応力を失ってしまうことを「マーケティング・マイオピア」というのですが、マイオピアは近眼のことをいいますので、「マーケティング近視眼」ともいわれています。
売る側の一方的な思い込みの理屈ではなく、顧客の視点に立って商品やサービスを捉えようとする発想で、その考え方が発表されたのは1960年の事で当時は非常に衝撃的で、注目を集めました。今で言う「顧客満足」と同じことを言っていたわけです。

 今回は、先ほどお亡くなりになられた、発明家であり偉大な事業家でもある、日清食品の創業者 安藤百福氏の功績を偲んでマーケティングの着眼点その事業化のノウハウを窺ってみることにします。
 安藤氏がインスタント・ラーメンを発明したのは約50年前の事になりますが、開発前に立てた目標は、ラーメンというものを「売る」のではなく、「満足」してもらうことであったのです。
 ビジネスは顧客を創り続けることであり、その目的を達成するために、会社は顧客が望む環境に対応すること、その環境を創り出していくことを意味しています。
 また、「売る」と「満足」には大きな違いがあり、そのことをよく理解しておかないといけません。「売る」ことばかりに目が向きすぎると、いかにして売上を伸ばしたらいいか、市場シェアを高めるためにはどうしたらいいかと、会社中心の考え方になります。また、販売実績を基に少しでも多く、少しでも高くと、過去の延長線上に物事を考えがちになってしまいます。
 考えておかないといけないのは、会社が「満足」させる顧客は、どのような層であって、どんなところに、どれ位いるのか。その顧客を「満足」させる方法を考え、ニーズの変化に対応して、潜在需要を掘り起こして新たなビジネスチャンスを掴むことになるのです。

 安藤氏が「麺」に執着しだしたのは、その発明からさかのぼること十数年前になります。終戦後の大阪梅田駅。空腹を満たすため、寒風に震えながらラーメン屋台に並ぶ長い行列を見て、人々の食に対する強い欲求を感じたのです。
 目指すものは見えていました、「こんな思いをしないでも、みんなにいつでもおいしいラーメンを食べてさせたい」安藤氏は、事業とするには具体的な目標を立てる必要があると開発前に5つの条件を決めました。

 一、毎日食べても飽きないくらい、おいしいこと
 一、保存が効き、家庭の常備食と出来ること
 一、簡単に調理できること
 一、安く手に入れられること
 一、安全であること

 安藤氏は、これらの条件を一つずつ確認しながら、毎日、コツコツと、開発を進めていきました。こうして、インスタント・ラーメンは開発から完成まで約1年を経て誕生したのです。

 執念の賜物…と、言ってしまえばそれまでなのですが、しっかりと目標を捉えてから、事業に取り掛かる。このことが、事業を成功させるためのポイントなのです。「走り出したら、如何にかなるさ…」こんな気持ちに流させそうになったら、まずは、カップ・ラーメンにお湯を注いでじっくり考えてみてはどうでしょうか。


■執筆者プロフィール

 下山 弘一(しもやま ひろかず)
  税理士、ITコーディネータ、システムアドミニストレータ
  京都市中京区西ノ京中御門東町39-3
  ラ・メール 1F
 URL:http://www.e-komon.jp
 E-mail:support@e-komon.jp
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