テレワーク雑考/二上 百合子

三寒四温と言う言葉はもともと、朝鮮半島の真冬、シベリア高気圧の強弱の周期を言っていたようですが、この時期、私の住む北陸では、冬から春への移り変わりを表す言葉としての三寒四温がピッタリです。
 昨日5月中旬の陽気だったと思えば、今日はこの時期にしては珍しい積雪を観測しました。梅や早咲きのチューリップの花も白く覆われ、JR等の交通手段も乱れました。北陸に長く住んでいると10~30分程度の遅れは慣れっこです。
しかし、車の遅れだけは予測出来ない為、子供を保育園に送ってから出勤する母親はいつもより1時間以上早く出勤したり、迎えに遅れる旨を連絡したり、その苦労には頭が下がります。自宅で仕事ができれば、彼女たちの負担はもう少し減るだろうに、とテレワークの実現が期待されました。

前回、雇用型テレワーク促進の為には社内改革が必要だと説明しました。以下がその為のプロジェクトです。
 1.テレワーク導入可能な業務の選定
 2.テレワーク導入後のワークフローの確立
 3.社内ルールの確立(コミュニケーションルール、セキュリティルール)
上記の3つと平行して、テレワーク可能なハードを整備し、施行導入を行なって問題点を洗い出し解決しながら本格導入へ、というのが理想的な形です。

 個々の企業のテレワーク導入に先駆けて、まずハード面の実証実験を行っている県や公共団体が多くあるようです。社内改革は各社それぞれの特色があるため足並みをそろえることはできませんが、技術的な実証実験などは、地方自治体が補助金等を負担して行なうことが多いようです。私の住む県でも、産学官でつくる高度情報通信ネットワーク社会推進協議会が主体となって実施しました。

実証実験の主な目的は、以下の2つに集約されます。

1)導入を検討しているICT技術の利用で、勤務作業を不便なく行えるかを検証する。

IP電話・TV会議等のコミュニケーションツール、テレワーカーの勤務状態を把握するツール、ファイル等の情報共有するツール等が、使用に耐えるものであるかを、実際に使用して検証します。ブロードバンド環境が整備されていることが前提ですが、地域格差があることは否めません。平成18年8月に総務省が、[次世代ブロードバンド戦略2010]を発表し、2010年までにブロードバンドゼロ地域の解消とFTTHなどの上り下りとも30Mbpsの高速ブロードバンドの世帯カバー率90%を目標にあげています。平成18年9月末時点で、FTTHサービス利用可能率が90%以上だったのは大阪、東京、神奈川、滋賀奈良、兵庫、そして京都の7都府県でした。全国平均が81.9%とは言え、上位13都府県以外は平均に達していない状況です。また、加入可能率と実際の加入率のばらつきが大きくなっているようです。実際にテレワークを実施しようとしている環境でストレス無く作業が行なえるか、検証してみる必要があります。

2)導入を予定している勤務環境で、セキュリティ上問題がないかを検証する。

サテライトオフィスや自宅からのアクセスとなる為、情報漏えいの可能性は高くなります。ルール化やセキュリティ教育はもちろんのこと、暗号化やアクセス権の付与が最低限にされているか、ファイアウォール等の設置は適切か、等を検証する必要があります。(総務省「テレワークセキュリティガイドライン」参考)

実証実験のあと、アンケート等を元に問題を解決して本運用へ、という流れになりますが、ここで大きな問題があります。テレワークの導入コストです。どのくらいコストがかかるか、これを見極めることが実証実験の最大の目的とも言えると思います。自社内にデータセンターを持っている大企業以外は、ある程度の通信コストやサーバの維持費が発生します。実証実験を行う時点でコストを想定しその範囲内でテレワークが導入できるか、それ確かめる必要があります。

 企業がテレワークを導入する目的として、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」を1番にあげています。テレワーク実施にかかる費用に見合うだけのメリット(生産性の向上)が無ければ、企業活動がボランティアでない以上、余裕のある企業しかテレワークを導入しないでしょう。企業におけるテレワーク実施率は2003年の9.4%をピークに、2004年は8.5%、2005年は7.1%と少し下降気味です。(平成18年版 情報通信白書より)

このような風潮を打破する為か、総務省では2007年度から2年間の時限で、テレワーク環境整備税制として、テレワーク関係設備取得後5年度分の固定資産税の課税標準を3分の2に軽減する、と発表しました。(対象設備はシンクライアントシステムとVPN設備等)また、1企業でのテレワーク環境整備は負担が大きすぎるということから、共同利用型システムの実証実験も19年度に予定されています。(※所要経費:一般会計 3億円)

 平成18年1月発表の「IT新改革戦略」において、「2010年までに適正な就業環境の下でのテレワーカーが就業者人口の2割を実現」とする目標を掲げ安倍総理大臣も所信表明演説において「自宅での仕事を可能にするテレワーク人口の倍増を目指す」と明言しています。テレワーク導入にあたり、追風を利用しない手はありません。上記優遇税制を利用したい企業も多く出て来るでしょう。
ですが、まずは社内改革を行い、テレワークを導入することが本当に企業としてメリットがあるのかを明確にしてから、実証実験を行う。組織面、技術面そしてコスト面それぞれの問題を解決すること、それがテレワークの導入成功の鍵になると思います。


■執筆者プロフィール

二上 百合子(ふたがみ ゆりこ) ITコーディネータ
北電情報システムサービス株式会社 http://www.hiss.co.jp