京都市の新景観政策と都市のブランド力/藤井 健志

 3月13日、京都市議会において今後の京都の町並みを大きく左右する「新景観政策」の関連条例が、全会一致で可決されました。
 市中心部のマンション建築の近隣との問題化や、木屋町通りなどの繁華街での「京都らしさ」の喪失が取りざたされるようになり、近年でも船岡山周辺、青蓮院、俵屋などのマンション建築に対する反対運動が話題になりました。
 1980年代のバブル経済期に、地価の高騰から相続税の負担が大きくなりやむなく売却、中心部にマンションが増えていくという流れが起こってきました。
また総合設計制度(公共的なオープンスペースを設けるなどすると容積率や高さの制限を緩和される)が適用され、京都ホテル等が建てられる際には、大きな論争が巻き起こされました。
 昭和5年に風致地区が指定され、日本でもその先頭に立って景観保全に取り組んできた京都ですが、無秩序な都市景観の出現により、急速に京都らしい景観が失われてきました。
このたび問題をはらみながらも全会一致で市議会で可決された、京都らしい景観の保全と創造に向けた新景観政策では、「市眺望景観創生条例」をはじめ、関連6条例により、市街地での高さ規制が強まり、デザイン基準が見直され、屋外広告物規制が強化されます。

主なポイントは以下の3点

(1)高さ規制の強化
市内での10m、15m、20m、31m、45mの5段階の高さ規制を、45mを廃止し、新たに12m、25mを追加して6段階に再編される。
中心市街地の「田の字」地区(御池通から五条通、堀川通から河原町通に挟まれた地域)では幹線道路沿道は45mから31mに引き下げられ、地区内のいわゆる「職住共存地区」(「田の字」のあんこの部分)は31mから15mに規制が強化される。

(2)特定地点からの眺望を守る
今回の施策から新に導入された「視点場」という考え。
世界遺産に登録されている社寺を含め、38カ所からの眺望や借景を保全するために、「視点場」を設け、そこからの眺めを阻害する建築物の高さやデザインが規制される。

(3)屋外広告物の規制
屋上看板は京都市全市で表示を禁止、他の屋外広告物についても高さ、大きさ、色彩の規制が強化され、ネオンサインなどの点滅式照明も禁止される。地域ごとの景観特性に応じた規制の見直しが図られ、これまで9種類であった規制区域が21種類に再編される。

◆景観に対する価値観の変化
 京都らしい景観というものの保全、将来への継承を目的に可決された新景観条例ですが、景観問題は過去にも繰り返され、「経済の活性化」か「景観保全」かの二律背反のぶつかりあいで論争が続いてきました。
 しかし、今回の新景観政策に対する市民の意見は、8割超が賛成(京都新聞社電話世論調査2/14、「賛成」38.2%、「どちらかといえば賛成」44.8%)。京都らしい景観に対する市民の意識が、自ら規制を受け入れる方向にもシフトしてきています。もちろん住宅産業界やマンション住民からの反発もあるが、時代の大きな流れは「京都らしい景観」の方により大きな価値を見いだしています。

◆都市ブランドとしての競争力
 京都市には世界遺産14社寺があり、海外からの観光客は円安の傾向もあるのか、著しく増加しています。
 最近行政関係の資料でよく目にするキーワードに「京都創生」とか「都市格」とかいう言葉があります。この新景観政策も「時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会」の答申の元に作成されました。「時を超え光り輝く京都」、街の魅力の向上は、競争力が増すことになり、京都は、日本が世界に誇る街、付加価値の高い街に育っていきます。

 今回の新景観政策は京都の将来の姿を方向付ける画期的なものであり、50年先、100年先を見据えた長期的視野から、景観が大きな財産となって京都の未来を拓いていくでしょう。それを動かしていくのは、もちろん私たち一人ひとりの力です。


■執筆者プロフィール

藤井健志
一級建築士、中小企業診断士、ITコーディネータ
株式会社日商社 プロジェクト開発部
fujii@nisshosha.co.jp