私がコンピュータを使いはじめた頃は、汎用機+COBOLが全盛の時代でした。
時は流れ・・・今ではコンピュータは日用品化(コモディティ化)して、一人一台の時代になりました。インターネット白書2006によれば、接続場所を問わずにインターネットを利用している人がいる世帯の割合(世帯浸透率)も、85%を超えました。
これから、ITをめぐる環境は、またビジネスとITの関係はどのようになって行くのでしょうか。1エンジニアの観点から、少し考えて見たいと思います。
■速く、より速く
一番分かりやすいのは、高速化です。
コンピュータやネットワークの速度は、高速化の一途を辿ってきました。
「集積回路の集積密度は18~24ヶ月で倍増する」というムーアの経験則は、伸び率こそ鈍るでしょうが、まだ続きそうです。
ビジネスの要求も「思考スピードの経営」(1999年 ビル・ゲイツ)や、上場企業に対する「四半期毎の業績の概況」開示の義務付けのように、より速い情報の収集や開示が必要になってきています。システム開発のプロジェクトの期間も、ビジネスの要求から短縮される一方です。
■集中→分散→また集中
次に分かりやすいのは、処理形態の変化です。
オフコンや汎用機のホスト集中の時代から、クライアント/サーバでの分散処理へと移り、またWebシステムを中心とした集中処理へと変わって来ています。
では、また分散処理の時代が来るのでしょうか?
ビジネスの世界では、トップダウン経営→「改善」を中心としたボトムアップ経営→情報公開をベースにしたトップダウン経営と比較できるかも知れません。
■独占→オープンシステム→オープンソースソフトウェア
オフコンや汎用機の時代は、そのメーカーが独占所有している技術(プロプライエタリな技術)を利用して来ました。パソコンが強力になって、業務システムがクライアント/サーバで実現できるようになると、オープンシステムという名前のマイクロソフト社の独占がはじまりました。この状態はまだ続いていますが、Linuxに代表されるオープンソースソフトウェアのシステムや、Open Officeのようなツール群の出現によって、揺らぎはじめています。
ビジネスに当てはめると、メーカーに負んぶに抱っこ→自己責任だけ押し付けられて実はフランチャイザーだけが丸儲け→本当の自己責任・・・?
■プロセス→データ→オブジェクト
システムの設計方法論も、「処理手続き」を中心にしたプロセス指向(POA)から、「データ」を中心にしたデータ指向(DOA)、オブジェクト指向(OOA)へと変化してきました。さらには、サービス指向(SOA)という流れも顕在化してきました。実はこの流れの背後には、いわゆる手続き型言語から、構造化プログラミング、オブジェクト指向言語へという開発言語の変化と、オブジェクト指向の塊であるインターネットの普及があります。
■滝から原型へ、原型から渦巻きへ
システムの開発方法論は、段階を踏んだウォーターフォール(滝)からプロトタイプを作成して要件を確認する方法へ、さらにプロトタイプに機能を拡張して行くスパイラル型(渦巻き)から、アジャイル開発のように顧客と目標を同じにして開発する方法へと変化してきています。
■作ってナンボから使ってナンボへ(開発から運用・保守へ)
これまでは、開発して納品して検収を受ければ、お金を貰えました。
ベンダーはユーザの言う通りに、とりあえず作って収めてきました。ユーザは良く分からないので、とりあえず検収してお金を払ってきました。しかし、当たり前のことですが、ビジネスに対してシステムが価値を生むのは、実際に運用してからです。
たとえ10万でも、使えないシステムにお金を払えば無駄金です。逆に10億かかっても、それ以上の利益がでれば、生きたお金です。
これまで、システム開発の体系や標準はいくつもありましたが、運用や保守に関する標準はありませんでした。しかし、ITIL(IT Infrastructure Library)が日本語化され、さらに昨年ISO化されたことで、運用・保守が「サービスマネジメント」として体系化されました。いまさらながら、運用・保守の重要性が見直されてきたのだと思います。
前置きばかりが長くなりました。
さて、皆さんの中でもマイクロソフトのWordをお使いの方は多いと思います。
では、Wordの「スタイル」「テンプレート」を使って文書を構造化されている方は、どれくらいいらっしゃいますか?数式エディタを使ったことがある方は?
Wordは多機能なワープロソフトですが、全ての機能を使う必要がある人は開発者以外には誰も居ないように思います。でも、Wordの価格の中には、当然それらの機能の開発費も含まれています。
SaaS(サーズ)という言葉があります。新型肺炎ではありません。
Software as a Serviceの略で、具体的には(多くの場合インターネットを経由して)サービスとしてソフトウェアを提供する形態の事です。例えば、ワープロの基本機能だけを利用して普通の文書しか作らない人は、その分だけのお金を払います。より高度な機能(サービス)が必要な場合には、追加料金を払います。
ケーブルテレビの、ペイ・パー・ビューみたいな感じを想像していただければ分かりやすいかもしれません。
ビジネスとITを結ぶ場合、これまではITの「システム」が重視されてきました。
しかし通常のビジネスでは、Amazonのような場合を例外として「システム」本体が価値を産む事は少ないのでは無いでしょうか?実際に必要なのは、ほとんどの場合「機能」であり、自前の「機能」でなくても、利用できる「サービス」があれば充分な場合も多いと思います。
いくつかの先進的なITベンダーは、この事に気付きはじめており、各種の機能を「サービス」として提供してきています。またユーザが数社集まれば、共同で利用できるアプリケーションサービスを開発させることもできる(この場合、開発費ではなくサービスの利用費用を支払う)かと思います。
IT関連は、サービス業として三次産業に分類されていますが、実際のシステム開発の仕事は労働集約型の二次産業でした。ITの目的が「システム開発」から「サービスの提供」へ変化し、ITベンダーのビジネスが「システム開発で開発費をもらう」から「サービスに対して対価をいただく」に変わってきたことで、やっと本来の「サービス業」として機能するようになったと思います。
「伝統的な労働力体制の下にあっては、働く人々がシステムに仕えたが、知識労働力体制の下では、システムこそが働く人々に仕えなければならない。」P.F.ドラッカー
■執筆者プロフィール
上原 守 m-uehara@to.ksi.co.jp
ITコーディネータ CISA CISM システムアナリスト
IT関連の資格だけは10種類くらい持っています。京都を中心に仕事をしたいと思いながら、毎週東京へ出張しています。上流から下流まで、ソリューションが提供できる人材を目指しています。