「内部統制」という言葉をきいて、対象とされる企業は上場企業だけなのだから我々には関係ないとお考えになる社長様もまだまだ多くいらっしゃるでしょう。
たしかに、金融商品取引法による内部統制の評価・報告及び監査の対象となる企業は「すべての上場企業と政令で定める企業」とされ、2008年4月以降に開始される事業年度から適用されます。中小企業には直接関係がないように見えますが、まず内部統制の求める基本的な枠組みから検証してみる必要があります。
<内部統制の4つの目的>
(1)業務の有効性と効率性を高めること。
(2)企業の財務報告の信頼性を確保すること。
(3)事業経営に関連する法規の遵守を促すこと。
(4)資産の保全を図ること。
<内部統制の目的を達成するための基本的要素>
・統制環境 ・リスクの評価と対応 ・統制活動
・情報と伝達 ・モニタリング ・ITへの対応
上記のとおり、内部統制とは企業がその業務を適正かつ効率的に遂行することで企業価値や競争力を高めるとともに、企業を構成する者のすべてによって遂行される体制及びプロセスのことです。今後、上場企業等は、この枠組みに基づき構築し、評価した「内部統制報告書」の提出を義務付けされ、公認会計士等の監査も受けなければなりません。実際には「全社的な内部統制」と「業務プロセスに係る内部統制」の2つに分けて実施していきます。
中小企業として特に注意しなければならないポイントは「業務プロセスに係る内部統制」です。具体的には決算・財務報告、生産管理、販売管理など財務報告の信用性に重要な影響を及ぼす業務プロセスが対象となります。従い、業務プロセスごとのリスクを洗い出しプロセスを文書化、その評価を行い、不十分であれば、文書の見直や不備の是正作業の実施をしなければなりません。
このことから、上場会社等やその子会社は取引関係(委託関係)にある中小企業からの不祥事発生を防ぐため、取引先中小企業に製品やサービスの安全性など想定されるリスクを十分に検討し、その責任や品質のコントロールを文書化することを今後要求してくることでしょう。つまり、納品する製品、提供するサービスの業務に対し、書面による報告と業務プロセスの文書化、文書保存の実行が企業として担保されていることが重要になるということです。
業務プロセスが定義され、文書化されたルールに従って業務が遂行されていない中小企業は、今後上場企業等のアウトソーシング先としての選定基準から外れてしまう可能性が十分あります。取引の継続には財務状況の開示、取引状況の開示も求めてくることでしょう。
このように、中小企業も業務プロセスを文書化する必要が生じていますが、決してマイナスにとらえる必要はありません。むしろ業務プロセスの再定義によるメリットに目を向けてください。コンプライアンス強化による法規制、社会的責任からの逸脱はカネボウ、不二家事件のように企業の継続性を困難にし、人材の流動化は担当者の業務未成熟によるミス、不効率を発生させ、経済の多様化・国際化は調達、販売プロセスの複雑化させています。このような中小企業を取り巻く経営環境の変化とそれに伴うリスク増大を回避してくれるこが業務プロセスの改善の大きなメリットです。
この機会にもう一度自社の業務プロセスを見直し効率的な運用ができているか、部門間の業務の受け渡し情報の伝達と共有に問題はないか、想定されるリスクとその損失額を考慮し適正な対応ができているか、全社的な視点で全社業務の最適の構築に着手されてはいかがでしょうか。
ただし注意すべきことは、内部統制の対応のためだけの業務プロセスの改善と文書化は中小企業にとってコスト増大につながるだけであるということです。業務プロセスの改善、見直しは内部統制の目的にもなっているとおり業務の有効性と効率化により企業価値を高めることが命題となります。つまり、その企業の経営課題を解決し収益を増大させることを業務改善する方向性にすべきです。経営戦略を立案し3年後、5年後の「企業のあるべき姿」になるために業務改善するのだということを忘れてはいけません。
■執筆者プロフィール
氏 名 間宮 達二(まみや たつじ)
所 属 ひかりアドバイザーグループ(ひかり経営戦略株式会社)
資 格 ITコーディネータ
お問い合わせ mamiya@hikari-advisor.com
HPアドレス http://www.hikari-advisor.com
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