10年前と比べて大きく替わった我々の意識変化の中で、「著作権」は結構上位にランクされるのではないかと思います。「何を今さら」という気がしないでもありませんが、ユビキタス・ジャパンという高度情報化社会に進みつつある日本の社会常識の中で、「今さら人にききづらい」ことがあるものです。今回、取り上げるのは、そんなテーマの一つのように思います。
1)知的財産権の概要
インターネットの普及と共に、知的財産に関わるトラブルが増加しました。
知的財産権には、著作権、産業財産権、不正競争防止法や種苗法等に関わるその他の権利があります。日常生活の中では、著作権と産業財産権の違いを理解しておきましょう。著作権法に基づく著作権は、創作した時点で自動的に権利が発生して、死後50年間まで保護されます。これに対して、特許権、実用新案権、意匠権、商標権のような産業財産権は、登録しなければ権利が発生しない点に注意が必要です。今は知財に担保価値を認められている時代なのです。
2)著作権法の対象物
著作権法は、著作物や実演などの創作者(著作者)の権利を保護し、第三者による模倣を防止します。その保護の対象とは、次のようなものです。
言語の著作物:論文、小説、脚本、詩歌、俳句、講演など
音楽の著作物:楽曲及び楽曲を伴う歌詞
舞踊、無言劇の著作物:日本舞踊、バレー、ダンスなどの舞踊、パントマイムの振り付け
美術の著作物:絵画、版画、彫刻、まんが、書、舞台装置など(美術工芸品も含む)
建築の著作物:芸術的な建造物
地図、図形の著作物:地図と学術的な図面、図表、模型など
映画の著作物:劇場用映画、テレビ映画、ビデオソフト、ゲームソフト等
写真の著作物:写真、グラビアなど
プログラムの著作物:コンピュータ・プログラム
二次的著作物:以上の著作物(原著作物)を翻訳、編曲、変形、翻案(映画化など)して作成したもの
編集著作物:百科事典、辞書、新聞、雑誌、詩集など
データベースの著作物:編集著作物で、コンピュータ検索可能なもの
3)著作者の権利
著作者の権利には、一身専属の著作者人格権があり、これには公表権(自らの著作物で、公表していないものは公表するか否か、また、公表の仕方を決めることができる権利)、氏名表示権(自分の著作物を公表するとき、著作者名を表示するか否か、実名か変名かを決めることができる権利)、同一性保持権(自らの著作物の内容または題号を自らの意に反して勝手に改変されない権利)があります。一方、著作者の権利で重要な財産権(譲渡・相続が可能)としては、次に示すものがあります。
複製権:著作物を印刷、写真、複写、録音、録画などの方法によって有形的に再製する権利
上演権・演奏権:著作物を公に上演したり、演奏したりする権利
上映権:著作物を公に上映する権利
公衆送信権・伝達権:著作物を自動公衆送信、放送、有線放送、また、それらの公衆送信された著作物を受信装置を使って公に伝達する権利
口述権:著作物を朗読などの方法により口頭で公に伝える権利
展示権:美術の著作物と未発行の写真著作物の原作品を公に展示する権利
頒布権:映画の著作物の複製物を頒布(販売・貸与など)する権利
譲渡権:映画以外の著作物の原作品または複製物を公衆へ譲渡する権利
貸与権:映画以外の著作物の複製物を公衆へ貸与する権利
翻訳権・翻案権など:著作物を翻訳、編曲、変形、翻案する権利(二次的著作物を創作することに及ぶ権利)
二次的著作物の利用権:自分の著作物を原作品とする二次的著作物を利用するに関して、二次的著作物の著作権者が持つものと同じ権利
※ 著作物の創作者でなくとも、著作物の伝達に重要な役割を果たしている実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者には、著作隣接権が認められている。
4)著作物を自由に使える範囲
著作物について、我々が一番留意しなければならない自由に使える範囲としては、以下のようになります。
・私的使用のための複製
この場合、デジタル方式の録音・録画機器等を用いて著作物を複製する場合には、著作権者に対し補償金の支払いが必要です。コピープロテクション等技術的保護手段の回避装置などを使って行う複製については、私的複製でも著作権者の許諾が必要となります。
・図書館などでの複製(法律で定められた図書館に限る)
・引用
・教科書への掲載(学校教育の目的上必要と認められる限度で教科書に掲載できる。著作者への通知と著作権者への一定の補償金の支払いが必要です。)
・学校教育番組の放送など
・学校における複製など(教育を担任する者および授業を受ける者は授業の過程で利用するために著作物を複製することができる。)
・試験問題としての複製など
・点字による複製など
・聴覚障害者のための自動公衆送信
・非営利目的の演奏など
・時事問題の論説の転載など(新聞、雑誌に掲載された時事問題に関する論説は転載禁止の表示がなければ他の新聞・雑誌に掲載したり、放送したりできる。)
・政治上の演説などの利用
・時事事件の報道のための利用
・裁判手続などにおける複製
・情報公開法による開示のための利用
・放送などのための一時的固定
・美術の著作物などの所有者による展示
・公開された美術の著作物などの利用
・展覧会の小冊子などへの掲載
・プログラムの所有者による複製など(プログラムの所有者は、自らコンピュータで利用するために必要と認められる限度でプログラムを複製、翻案することができる。)
■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ,中小企業診断士,社会保険労務士,ISO27001主任審査員
e-mail: eri@nakamura.email.ne.jp