長期戦略指針「イノベーション25」について/柏原 秀明

■はじめに
 米国大手証券企業のゴールドマン・サックスの報告書「BRICsと夢見る2050年
への道」(2003年10月)によりますと,21紀前半には,アジア諸国の経済力は,
欧米を抜き去る勢いであると予測しています。また,最近では,ポストBRICsと
して高成長のための条件を備えた有力な新興国を表す“VISTA”すなわち,ベト
ナム(Vietnam),インドネシア(Indonesia),南アフリカ(South Africa),
トルコ(Turkey),アルゼンチン(Argentina)の5カ国が候補に挙げられてい
ます。このように,21世紀は,グローバル化に伴う「(経済の)大競争時代」に
入り,第1集団のBRICsは既成の事実であり,今日では第2集団のVISTAが注目さ
れる状況にあります。これからも注目を浴びる新しい第3集団・第4集団が出現
すると予想されます。一方,我が国は,2050年には,人口が,1億人を割り65歳
以上の熟年者が40%になると予測されています。このような状況の中,日本政府
は,2025年までを視野に入れた長期戦略指針「イノベーション25」を発表しまし
た。

■長期戦略指針「イノベーション25」
 この戦略指針の特徴は,「人口減少下でも技術革新,新しいアイデア,ビジネ
スなどによるイノベーションで持続的成長と豊かな社会の実現」を目的とし,次
の3つの戦略に基づいています。
 ・2025年までを見据えた20年間にわたる長期戦略
 ・「社会システム」と「科学技術」の一体的戦略
 ・世界のリーダの一員としての戦略

 この戦略指針では,日本,世界のこれからの20年は「知識社会・情報化社会及
びグローバル化の爆発的進展」により,「知識・頭脳をめぐる世界大競争」が,
加速すると共に,「世界中の消費者が外国の商品・サービスに容易にアクセス可
能」な状況に進展すると予想されます。「イノベーション25」が目指す2025年の
日本の姿は,次の5項目と設定されています。
 ・生涯健康な社会
 ・安全・安心な社会
 ・多様な人生を送れる社会
 ・世界的解題解決に貢献する社会 
 ・世界に開かれた社会
政策ロードマップ重点項目として,合計174項目(短期:146項目,中長期:28項
目)が設定されています。ビジネスに関係する項目には次のようなものがありま
す。
 ・デジタル・コンテンツ流通促進の法制度整備
 ・テレワーク推進に向けた労働関連制度整備
 ・地域資源を活用した新商品・新サービスの開発・市場化への支援

一方,1996年から開始されている科学技術基本計画は,現在,第3期目(2006年
から2010年)の活動が実施されています。この科学技術基本計画は,3つの理念
に基づく6つの大目標と12の中目標が設定されています。この理念と大目標は,
次のとおりです。

 ・<理念1>人間の英知を生む: 飛躍知の発見・発明,科学技術の限度突破
 ・<理念2>国力の源泉を創る: 環境と経済の両立,イノベーター日本
 ・<理念3>健康と安全を守る: 生涯はつらつ生活,安全が誇りとなる国

この第3期の5カ年間の政府研究開発の投資総額は,約25兆円です。特に,8分
野:ライフサイエンス,情報通信,環境,ナノテクノロジィー・材料等に重点を
置いています。
 「科学技術基本計画」と「イノベーション25」との関係は,科学技術基本計画
にて得られた成果を社会に還元し,国民のニーズである「安全・安心,便利,豊
かさ等」に応えることにあります。

■「経営戦略」と「イノベーション25」
 政府の長期戦略指針は,大手・中堅・中小企業にとって様々な局面で大なり小
なり影響を及ぼします。ビジネスに直接的に関係しないことには,「鈍感力」を
発揮し気づかないものです。ついつい「目先のこと」に追われて,中・長期的な
自社の経営戦略(企業戦略,事業戦略,個別戦略)の企画・立案・実行が後回し
になりがちです。しかし,規模の大小を問わず「経営戦略」の策定・明示化は重
要です。「湯でガエル」にならないためには,基軸となる様々な情報,例えば,
「イノベーション25」のような,政府の戦略指針を参照し,そのキーワードから
自社に関係する情報を検索・推論・評価し,「経営戦略」立案に反映させること
が競争優位の源泉と考えます。

■おわりに
 20世紀までは「グローバル化」を意識しなくても,それなりにビジネスができ
た時代です。しかし,今日では,ある日・ある時,突然に「業界全体が傾く」出
来事が当たり前の時代です。その業界船に安泰として乗っていたら実は,「狸の
ドロ船」でしたでは済みません。私たちが,従来必要としなかった基軸となる多
様な情報源を羅針盤としながら,間違いのない操船方針・操船術が今後,益々重
要になってきます。戦法としては,「着眼大局,着手小局」が自然と考えます。
本稿が,多少なりともお役に立てれば幸甚に存じます。

■参考資料
[1] 第6回産官学連携推進協議会
http://www.congre.co.jp/sangakukan/top.html
[2] イノベーション25
http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/saishu/070601.html
http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/nani.html



■執筆者プロフィール

柏原 秀明

NPO法人 ITC京都 理事
ITC,技術士(総合技術監理・情報工学部門),APECエンジニア
ISO27001審査員補,QMS審査員補,公認システム監査人補


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