「メール」削除、その前に ~eディスカバリーに学ぶこと~/梶原 雄太

 この10年で、当たり前の連絡手段として、なくてはならないツールとなったeメール。今や携帯電話にも十分過ぎるメール機能があり、家でも外出先でも関わるビジネスツールになりました。毎日数十から数百件を処理されている方も少なくないのではないでしょうか。

 そのメールが昨今、裁判において有力な証拠として取り上げられるケースが見受けられます。ライブドア事件において昨年、証拠物件として提示された粉飾決算指示のメールの件などは、まだ記憶に新しいところです。

 ところで米国では民事訴訟において、自らの立証の為に、相手に証拠の提出を要求できる「ディスカバリー制度」が整備されています。相手に要求されれば、自分に不利な証拠でも法廷に提示しなければならない、という制度です。
 求められた側がそれを提出できなければ訴訟で不利になり、また不利な情報を隠すため提出に応じなければ「法廷侮辱罪」に問われることもあります。提出要求に応じなかった懲罰的賠償だけで20億円以上を科された事例もあるということで、ここ数年注目を集めています。

 そして近年では、メール等の電子文書が増えたことで、この制度でも電子データを対象とした「eディスカバリー」が大半を占めるようになりました。
 「eディスカバリー」を要求された場合、求められた電子文書を速やかに提示しなければなりませんが、PC1台の書類データすら、ダンボール数十箱分に相当する現在、要求されたデータの発掘(!)作業には、相当の労力と時間が必要になります。不用意に削除してしまったメールや文書は当然提示することができず、これにより裁判において不利になることも十分予想されます。

 米国市場で取引をする場合、こうしたケースに遭遇することも視野に入れて、いざという時に社内のPCやサーバに保存されたメールや電子書類を速やかに用意できるよう、日頃から電子データを整備しておく必要があるということです。
 またeディスカバリー対応のデータ検索ツールも出てきており、これらの導入を検討しておく必要もあるかもしれません。

 さて、日本ではディスカバリー制度導入は現在まで見送られていますが、裁判にてメール(携帯電話のメール含む)が証拠物件として有効となる事例は多く、証拠となるメールの有無が判決の行方を左右することも有り得ます。
 訴訟にいかないまでも、取引先やパートナーと見解の相違が発生した時に、こちらの言い分を証明する過去のメールのやりとりを消去してしまったために、すぐに解決できるはずの問題が長引くこともあります。

 自社に不利な情報を「隠した」為に社会的信用を失う会社もあります。しかし公正な会社が、不用意なメールの削除によって自社の正当性を証明できずに不利益を被ることは、避けねばなりません。

 eディスカバリーに関わらなくとも、メールは時に事実を証明する重要な証拠物件となります。その可能性を利用者が認識し、常日頃から慎重に扱っていくことは、いざという時に顧客やパートナーとのトラブルを回避し、自社の利益を守ることにつながるはずです。
 カン違いや認識の違いといったことから、言った/言わない、の水掛け論を含め商談がこじれた時、先ほどあなたに届いた一通のメールがそれを解決する重要なカギとなるかもしれません。


■執筆者プロフィール

梶原 雄太 ykazi-links@kfy.biglobe.ne.jp
「人の出会い」のコーディネータを、目指しています。