オフショア開発について/二上 百合子

 先日、社内教育にてリスクマネジメントについて受講しました。ITコーディ
ネータ近畿会の方を講師に招き、プロジェクトマネジメントの中でも、最近特に
重要視されているリスク対応についての考え方を基礎から学ぶ、という講習会で
した。日頃慣習化したリスク対応を行っている私たちには非常に有意義でした。
 リスクマネジメントとは、まずは想定されるリスクを出来る限り洗い出し把握
し(識別)影響や発生確率等を分析することが第一歩です。その後リスクの対応
策を講じ(アクション)その対応策の効果の評価を行って(チェック)リスクを
回避、もしくは低減すること、そして効果があがらなければ、別の対応策を講じ
て様子を見る(モニタリング)それがリスクマネジメントという活動だと私は理
解しています。
 現実にはリスクというと当然避けて通りたいものと考えますが、その講義の中
で、一概にそうとは言えない、という説明が印象に残りました。リスクを避けて
ばかりの慣習化したビジネス活動をしていては、大きな飛躍は望めない。リスク
の中にはそれを越えることで、競合他社との差別化を実現し、市場内での自社の
強みに結びつけることができるものも存在する、という趣旨でした。
 その話を聞いて私の頭に浮かんだのは、今流行りのオフショア開発でした。弊
社は2000年以前に一度海外への開発委託を計画し発注したことがあります。
開発工期が非常に短い、クライアント単独で動くシステム開発でした。非常に簡
易な開発でしたのでコスト、品質ともに満足できる結果であれば、それをモデル
ケースに、オフショア開発を取り入れていくつもりだったようです。しかし結果
は時期尚早と判断され、それ以降の発注は見送られました。確かに開発発注コス
トは低く抑えられたのですが、弊社側の担当者のメール等でのやり取りにかかっ
た取引のコスト、及び実際に納品されてきたシステムの組り込みにかかった移行
コストを合計した場合、期待したほどの経済効果があがらなかったからです。あ
れから約8年程度経過しましたが、もう一度オフショア開発に取り組もうという
動きは今のところ上がっていません。
 当時の担当者に感想を聞いたところ、今のままの仕事のやり方をそのままオフ
ショア開発にもちこもうとすれば恐らく8年前と同じ結果になるだろう、と言い
ます。近年はWEB化が進み、言語や文化の違いによる障害も少なくなりつつあ
ることから特にオフショア開発が注目を集めています。とはいえ、8年前の開発
時、取引を担当していた相手が日本語をしゃべれなかったわけではありません。
相手は日本語も英語も堪能なSEでしたし、また、設計書もちゃんと、日本版W
ORDで納品されていました。オフショア開発の最も大きなトラブルの原因とな
る納期も問題もありませんでした。
 取引コストがかかった理由として、弊社内でオフショア開発以前の問題として
開発作業をアウトソーシングできる業務体制が確立していなかったことがあげら
れます。仕様変更時の管理や、最低限守って欲しいテスト手順といったことすら
明確に指定しておらず、恐らく日本国内でのアウトソーシングであっても、ある
程度の取引コストが発生したと思われます。
 また、よく言われることですが、商習慣の違い、文化の違いによる意思疎通の
難しさはあったようです。日本人同士であっても、込み入った話は顔を見て話せ
ば10分ですむことが、電話やメールではなかなか伝わらないことはあります。
コミュニケーションプランをプロジェクト初期に計画しておくことである程度は
軽減できるのですが、そこまで取引コストがかかるとは想定していなかったよう
です。
 また、コスト低減効果を期待し過ぎていました。米調査会社の META Group
によると、初年度の実際のコスト削減は15%~20%減程度との報告がありま
す。上記のような取引コスト、移行コストといった自社の作業コストをオフショ
ア開発のコストとして加えた場合、全体のコストは開発発注費の低下には比例し
ない、ということです。発注費の低さが印象に強く残る為、それに伴う一時コス
トの増大が見落されてしまうのです。
 弊社の例を挙げましたが、私はオフショア開発に取り組むこと自体がリスクだ
というのはありません。オフショア開発を行う際のリスクを洗い出し、マネジメ
ントすることで、他社に先んじてアフショア開発によるコスト削減を実現できれ
ば非常に強みになると思います。取引コストがかかりすぎる、というリスクに対
して、まずは社内業務をアウトソーシング可能な体制にする、また、例えば橋渡
し的な役割として既に日本の商習慣を理解した現地の方を雇用する。移行コスト
が増大するリスクに対しては、オフショア開発に向いている案件とそうでない案
件の切り分けることで軽減する。8年前とは異なり、蓄積されてきつつあるオフ
ショア開発の事例や、留意すべき文化や国民性の違い(当コラムでも先に一度詳
細に述べられています)といった情報を活用して、隠れているリスクを洗い出し
分析することは容易になってきてます。オフショア開発を取り組む前に、まずは
リスクマネジメント計画を綿密に立てることが肝要だと思います。



■執筆者プロフィール

二上 百合子(ふたがみ ゆりこ) ITコーディネータ


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