「プロジェクトマネジメント知識体系」の理解と活用/山崎 正敏

 筆者は、「経営を生かす情報化とプロジェクトマネジメント」をコンセプトとしてコンサルティングと研修を中心に活動している。
 プロジェクトマネジメント力をつけるため、あるいはプロジェクトマネジメント・プロセスを導入するために、「プロジェクトマネジメント知識体系」(PMBOK - A guide to the Project Management Body of Knowledge)をベースとしたPM導入コンサルテーションや研修の依頼をうける場合がある。

 ところが、PMBOK が上記目的の万能薬であると勘違いされている方がいるので、十分な説明をもってコンサルテーションや研修を実施している。そういった理解の上で、組織あるいは個人に選択適用することで、組織のガイドラインや個人の行動指針の役割を果たすことができる。

 一方、初見で、PMBOK に書かれていることを理解するのは、結構難しい。
PMBOK 特有の単語、表現、考え方があるからだ。そのようなPMBOK をどのように理解し活用すればよいのかについて、日頃のコンサルティングや研修の活動を通じて考えていることを述べる。

---------------------------------
PMBOKは、5つのプロセス群(立ち上げ、計画、実行、監視コントロール、終結)と12の知識エリア(統合マネジメント、スコープマネジメント、タイムマネジメント、コストマネジメント、品質マネジメント、人的資源マネジメント、コミュニケーションマネジメント、リスクマネジメント、調達マネジメント)を中心に構成されている。
---------------------------------
(PMBOKは、米国のPMI(Project Management Institute)が発行している。)

◎ PMBOK の利用目的

 PMBOK の利用目的は2つある。第一に上記PMIが認定しているPMP(Project Management Professional )資格を取得するため(個人のスキル向上)、第二にプロジェクトマネジメントの実務に活かすためである。

 ◆ PMP資格試験対応(個人のスキル向上)
  PMP資格試験に合格するためには、PMBOKを隅々まで読んで理解・記憶することが必須だろう。その際、単純に最初からページの順に読むだけでなく、計画プロセス群であれば、その流れに沿って各知識エリアのプロセスを順に読んでいくことも理解に役立つ。

 ◆ プロジェクトマネジメント・プロセスの導入
  実務にPMBOK を適用するという場合は、導入するマネジメント・プロセスについて必要な部分をPMBOK ら引用、改変し、組織目的に合うようにマネジメント・ガイドラインを作成すればいい。丸ごと適用することはできないのである。
 いずれの目的にせよ、PMBOKが何を表しているのかを知っておく必要がある。
PMBOK には、「何をすべきか(What to do)」についての記述はあるが、「どのようにするのか(How to do)」の記述はないということを理解した上で、次の2項目について知っておくと、わかりやすい。

◎ PMBOK構成の理解

 初めてPMBOK 接し、その全体を理解しようとする際には、次のように9つの知識エリアの位置づけを考えればよい。
 まず、プロジェクトを開始するには、何をやらなければならないかを考える。
スコープが決まらなければ何も始まらない。「スコープ・マネジメント」の領域である。
 次に、プロジェクトの成功・失敗の判断基準となる指標(目標)として品質、予算、期限があることを理解する。すなわち、「品質マネジメント」「コスト・マネジメント」「タイム・マネジメント」である。これらのマネジメント領域では、計画(予算)を設定し、実績を捕捉し評価するというように、技法に重点が置かれている。
 そして、所定の品質、予算、期限を守るために、「人的資源」「コミュニケーション」「リスク」「調達」「変更(統合)」の各マネジメント・プロセスをしっかりとおこなうことが必要であると理解する。実際に、品質、予算あるいは期限が守られなかった原因を分析していくと、人的資源等これらのマネジメント・プロセスに原因があることがわかる。例えば、スケジュールの遅れの原因は、「要員の士気が低かった」「リスクの識別がおろそかであった」など、「品質」「コスト」「タイム」のマネジメントそのものよりも根が深いところに原因があることが多い。プロジェクトを成功するためには、これらのマネジメント領域に関する問題点、課題を確実にタイムリーに解決していくことが重要である。

 このように各マネジメント領域の位置づけを理解すると、PMBOK に対する「食わず嫌い」や「消化不良」は、起きにくい。

◎ 計画プロセスを重視した活用

 組織にプロジェクトマネジメントを導入する場合、マネジメント・ガイドライン(あるいは規程)を制定することになる。その記述内容は、主に「計画書」をどのように作成するのかということに主眼が置かれていることが多い。
 PMBOK もガイドラインのひとつであるので、計画フェーズに多くのプロセス(全44プロセス中21のプロセス)が記述されている。したがって、組織にプロジェクトマネジメントを導入する際、計画フェーズのマネジメント・ガイドラインを策定するのにPMBOKRを参考にすることが有効であることが多い。その際、ガイドラインの制定・運用という組織の成熟と、ガイドラインを正しく使いこなす個人の能力を高めることが肝要となる。

 一方、監視コントロールでは、プロジェクトの状況を正しく認識し、タイムリーかつ適切な意思決定が必要となる。適切な監視コントロールは、プロジェクトマネジャー個人(あるいは、マネジメント・チーム)の能力に依存する割合が高いのである。監視コントロールのプロセスをガイドラインとして制定したとしても有効に機能しないことが多いので、ガイドラインに依存することは危険である。
交渉力、問題解決力、意思決定力など個人の能力を育成することがより重要となる。このようなことから、PMBOK では監視コントロールには12のプロセスが定義されているが、「How to do」は書かれていないので、有効に活用するには工夫がいる。

以上


■執筆者プロフィール

山崎 正敏
オフィス Ajビジネス・プランニング/有限会社 ピーエム情報技術研究所
http://www.ajbp.jp/index.htm

特定非営利活動法人 日本プロジェクトマネジメント協会 理事・関西代表
ITコーディネータ、中小企業診断士、
PMP(Project Management Professional)