1.SaaSとは
ここ最近、SaaSという言葉を雑誌の特集記事などで見る機会が増えてきた。
SaaSとはSoftware as a Serviceを略したものであり、直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」となる。
これまでのIT利用は、利用者が自前で開発したり、パッケージとして購入したりしたアプリケーションソフトウェアを所有し、それを動作させるために必要となるサーバなどのコンピュータ機器を用意して利用することが一般的であった。
これに対してSaaSと呼ばれるものは、アプリケーションソフトウェアやそれを動作させるサーバなどの機器をサービス提供事業者が所有し、利用者はそれをインターネットなどのネットワーク経由で利用するというITの利用形態である。この場合、利用者はサービス提供事業者からIT利用による恩恵をサービスとして提供を受け、その対価としての費用を支払うのである。
このIT利用の形態は、2000年前後に注目され始めたASP(Application Service Provider)と同じものであると考えられる。ただし、一部の意見では、旧来のASPが進化してカスタマイズや他のアプリケーションとの連携が可能となったものがSaaSであるとも言われている。しかし、カスタマイズや他のアプリケーションとの連携が可能となったのは、そこで提供されているアプリケーション自体の進化であり、ASPというサービスの概念としては変化しておらず、SaaSとASPは同一のものであると考えることができる。
2.システム導入・運用費用
SaaSを導入することにより、自社でシステムを構築する必要がない。そのため、初期投資が抑えられるうえ、パソコンなどの端末とインターネットに接続できる環境があれば、すぐにでもシステムが利用可能となる。また、システムの運用を自社で行なう必要がないため、そのための人材を確保する必要がない。
サービス提供事業者は、アプリケーションソフトの開発やサーバの導入などで必要となった初期投資を回収する必要があるため、利用者が支払う料金には、システムの運用費用に加えて、これらが含まれている。しかし、サービス提供事業者は同じサービスを複数顧客に提供することにより、スケールメリットが得られるため、比較的安価な料金でサービスが提供可能となる。
3.システムの柔軟度
SaaSはひとつのシステムを使って複数の顧客にサービスを提供するという特性上、顧客ごとの独自機能を盛り込んだソフトウェアでサービスを提供することが困難である。したがって、顧客ごとに大幅なカスタマイズが必要な独自性の強い業務には不向きである。ただ、最近のアプリケーションでは、ある程度のカスタマイズ機能を備えているものが多く、以前と比較して若干自由度は増してきている。
このような特性より、SaaSとして提供されているアプリケーションは営業支援、財務会計、人事給与など、顧客ごとの業務内容が比較的似通っているものがこれまでは大多数であった。しかしSaaS市場が拡大するにしたがって、業界固有の業務に対応したアプリケーションなどを提供するサービスも増えつつある。
4.セキュリティ面での考慮
SaaSを利用するということは、自社の業務データをサービス提供事業者に設置されているサーバのデータベースに登録することになる。したがって、サービス提供事業者のセキュリティ対策が不十分であると、情報漏洩などの事故が発生するリスクが大きくなる。
また、事業者に設置されたサーバへの接続はインターネットを通じて行なうことが一般的であり、そこでの通信が安全に行なわれるような考慮も必要である。
5.システム運用の留意点
SaaSにおけるシステムの運用は、サービス提供事業者に委ねられる。したがってシステムを利用可能な時間帯や、メンテナンス等で利用できなくなる頻度などを事前にしっかりと確認し、自社の業務に支障がないことを確認しておく必要がある。さらに、システムの応答速度など、サービス品質についても提供されるレベルが明確になっていることが望ましい。
6.解約時のリスク
利用者側の立場から見るとSaaSによるシステム導入は初期投資が少なく、万一システム導入に失敗して断念する場合においても、従来型のシステム導入と比べて費用面での損失は小さくなる。しかし、このような場合において、導入を断念するまでに投入されたデータがどのように扱われるかに注意をする必要がある。自社構築したシステムの場合は、データを格納した機器等が自社に残るため、システムの導入を断念した場合においても、それまでに投入されたデータを利用することは可能である。しかし、SaaSの場合は契約を打ち切るとシステムを使用できなくなるため、それまでに投入されたデータは、一切利用できなくなる可能性がある。
このようなケースについても、ある程度想定しておかないと、万一システム導入を断念してサービスを解約したいと思っても、それまでに投入されたデータを参照する必要がある期間は解約をすることができないといった状況に陥る可能性もある。
7.まとめ
ITが普及していくにつれて、利用方法・規模が多様化し、システムが提供される形態も多様化しており、SaaSもこのような流れの中で生み出された選択肢の一つである。メリット、デメリットを正しく捕らえ、自分達にとって有益なものであると判断されれば、SaaSを活用したIT化を進めてみてはいかがだろうか。
■執筆者プロフィール
池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)
学校法人聖パウロ学園
光泉中学・高等学校 教務部 情報担当
ITコーディネータ
E-mail: ikeuchi@mbox.kyoto-inet.or.jp