ワーク・ライフ・バランスのもたらすもの/大塚 邦雄

新年明けましておめでとうございます。
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ところで、今年も心豊かに過ごしたいものですが、昨年末に昨年一年を表す漢字として「偽」という字が選ばれました。毎年揮毫しておられる清水寺の貫主も悲憤に耐えないと言われていますが、皆様も同様に感じておられることでしょう。
トップに立つ者の「真(まこと)」とそれを補佐する人達の羅針盤としての役割の重要性を感じた一年でした。

話は変わりますが今年の歌会始めのお題は「火」で、既に入選が決まっていますが、燃えるような火、あるいはささやかながら心温まる灯など、どのような歌が披露されるのか楽しみです。
最近では正月に書初めをされる方も少なくなりましたが、一年の計は元旦にあり、といわれ、その年の決意を書いたものです。経営者の中には年の初めに今年一年の想いを認めて社員に発信されている方のもあるかと存じます。

流行語ではありませんが、ワーク・ライフ・バランスという言葉が注目されています。この言葉は「仕事と生活の調和」と訳されています。その目的とするところは政府の男女共同参画会議の専門調査会の報告によれば、個人にとっては「希望するバランスの実現」、社会にとっては「経済社会の活力向上」、個々の企業・組織にとっては「多様な人材を生かし競争力を強化」することにあるとされています。その背景は少子高齢化やなかなか改善されない長時間労働への対応などがあります。また就労世帯を見ますと共稼ぎ世帯数が 900万世帯を越し、男性雇用者と無業の配偶者の世帯数との間には逆転傾向が定着し、共稼ぎ世帯が益々増える傾向にあります。ワーク・ライフ・バランスは欧米では1980年代から取り組んでいて既に定着しているようですが、日本での取り組みはまだまだ緒についたばかりです。これには文化の違いもあるように感じます。

ワーク・ライフ・バランスは雇用において単にジョブシェアリングすれば良いという問題ではなく、社会・経済構造と深く関わりのある問題ですので、一概に論ずることも難しいですが、しかし今後の企業経営の上で考慮しておく必要があります。
ただ、ワーク・ライフ・バランスは結果であって、働く個人の私生活の実質的な選択肢を確保することに意義があり、それが有能な人材の定着に結び付くことになります。間違ってはいけないことは、公器としての企業と私生活を混同して間違った忠誠心を求めたり、一律に従業員のライフスタイルを決め付けたりすることです。従業員にとって仕事で成果を挙げることは、自己実現の一つであり、経済的利益が保障されることを前提としています。従ってワーク・ライフ・バランスを高めることは従業員の仕事に対する満足度の必要条件となリませんが、ワーク・ライフ・バランスを欠くことは従業員のモチベーションを下げることになり、結果として企業にとってマイナスに作用することになります。
このことは、どのような雇用形態であれ、ワーク・ライフ・バランスが新たなライフスタイルの在り方のインフラストラクチャーといえます。

このことは、もとより当然企業だけで環境を準備できるものではありませんが、2008年の中小企業景況調査では、原材料価格・燃料コストの高騰、国内消費の低迷・販売不振等の不安要素が多く、昨年に比べ先行きに対する慎重な見通しが増えている中で、人を人財として生き抜くために企業にとって必要なものの一つとなります。
単に効率も求めるだけのITではなく、産業構造の知識集約化・サービス化が進むなかで、仕事と生活のバランスを図ることが、結果として生産性向上につながり精神的なリフレッシュが新しいアイデアを生み出し、商品開発あるいはマーケティング面でプラスに作用することを期待するものです。


■執筆者プロフィール

 大塚 邦雄
 情報処理システム監査、ITコーディネータ
 30年にわたるシステム経験をもとにIT化を支援します。
 e-mail:k_ootuka@mbox.kyoto-inet.or.jp