このメルマガの読者の方には、従来から「IT経営」という言葉が頻繁に出てきていますので、今さらIT経営の解説をする必要はないと思います。私自体も過去3回に渡り「IT経営のヒント」として、IT経営成功企業の取り組み姿勢についてこのコラムで紹介しました。しかし、新たな読者もいらっしゃいますので、念のために簡単に定義すると下記の通りになります。
IT経営とは、単にITを利用しているだけでなく、ビジネスモデルの中に組み込まれ、経営戦略を支えて、企業業績に貢献しているようなIT活用法をいいます。
企業業績が一直線の右肩下がりにある企業の経営を、ITだけで再建することは通常は困難です。ITを適用する前に、利益を創出できる仕事の仕組み(ビジンネスモデル)が必要で、その仕組みをパワーアップして利益創出を加速するためにITを活用するのが、IT経営の『正攻法』であり『成功法』なのです。
地域の中小企業が、このようなIT経営の実践に取り組む際の支援をする人材として、ITコーディネータは存在しています。一方、中小企業がIT経営に取り組む際の支援をする官民合同の組織としては、IT経営応援隊があります。経済産業省は、このIT経営応援隊事業を推進していて、平成20年度の事業予算は前年度比で相当に増加する見込みです。
ここからは、地域の中小企業がIT経営の実践に踏む出すための支援施策を、IT経営応援隊事業の中から、ご紹介します。是非ともご参考にしていただき、平成20年度のIT経営応援隊事業を上手に活用して、読者各位のIT経営の実践と企業業績向上に結びつけていただくことを期待します。
IT経営応援隊事業には、まずIT経営が必要だということに気づいていただくための「気づき」の事業と、気づきの次ステップではどうすれば良いかという方法を体得する「学び」の事業が用意されています。いずれも、国の支援施策ですので参加は無料または教材費程度の安価な費用が設定されています。
1)気づきの事業
【成功事例発表会】
地域においてIT経営を実践して、経営業績的にも成功しているIT経営の先達企業経営者から、どのようにしてIT経営に取組み、成功してきたかの経営現場からの苦労話やノウハウおよびヒントを語りかけます。参加者の感動を呼び、評判の良いセミナーです。支援した専門家からも、簡単な成功の秘訣を 解説されます。(無料の個別相談会を併設するケースもあります)
【1日経営者研修会】
主に商工会議所等で実施している3~6時間程度のIT経営のセミナーで、多忙な中小企業または小企業経営者向けの啓発研修会です。平成20年度から本格的に普及期を迎えるITソリューションのレンタルサービス「SaaS」の実演説明も実施されます。
【IT経営キャラバン隊事業】
最新のIT機器やソリューションを体験できるキャラバンバスが、あなたの町の商工会議所等へやってきます。併せて、小規模ながらIT経営実践の先達企業経営者やIT経営の支援人材であるITコーディネータが、IT経営について語り掛けます。所要時間は、2~4時間。
2)学びの事業
【経営者研修会】
地域の中小企業経営者を対象に20~25時間程度(6時間×4日、3時間×8日)のカリキュラムで通常は実施します。IT経営の基本をなすビジネスモデルや経営戦略を構想したうえで、経営業績向上に必要なITは何かを明らかにして行く実践形式の研修会です。多くの場合、中小企業にとって、このような取組は新鮮で、以後の企業経営を考える際の大きなノウハウになっています。
【IT経営成熟度診断】
人間が成長して成熟するように、企業経営にも成熟度があります。同様に、IT経営の成熟度が存在します。この診断事業では、2名のITコーディネータ(経営系専門家とIT系専門家)が、3~5回の企業訪問で、貴社のIT経営の成熟度の自己診断を指導するほか、身の丈にあった本当に使いこなせて、効果を発揮するITの活用を提案します。「動かないコンピュータ」にしないで、企業業績を向上させるITの利活用がIT経営です。
【CIO育成研修会】
Chief Information Officer(情報戦略担当役員)は、大企業だけのものではありません。むしろ、IT人材の少ない中小企業にこそ必要なのです。この研修会は、自社の現状を熟知し、またITの利活用についても明るく、自社のIT経営を推進して経営業績を向上させることのできる人材を、中小企業の中に育成するためのものです。カリキュラムは、それなりにテクニカルで、先に述べた経営者研修会等に参加済み程度の力量を要します。24~40時間程度で開催されることが多いようです。
さて、気づいて、学べば、次は実践段階に入るわけですが、ここから先については、現状で無料の支援施策を探すのが困難です。IT経営の実践については、金額の大小はあってもIT投資を伴います。そのような背景もあり、公的な支援施策も馴染まないという面があります。しかし、具体的にIT経営実践に踏み出される際は、ご相談いただければ何らかの方策の助言は可能です。
実践の前には、上に述べたような気づきや学びのステップを経由していただくことになりますので、その過程において実戦に向けた支援策の紹介ができるでしょう。平成20年度に実施されるIT経営応援隊事業は、このメルマガにおいて適時に広報いたしますので、引き続いて読んでいただきますようお願いいたします。
■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ、中小企業診断士、社会保険労務士
ISO27001主任審査員、プライバシーマーク主任審査員
e-mail: eri@nakamura.email.ne.jp