IT化とメンタルヘルス/西田 則夫

コンピュータのCPUの処理速度の向上、メモリ容量・ディスク容量の増大により、ムーアの法則で知られるように指数関数的にその能力が向上しています。
また、それに伴って、以前は、大型汎用機で実現されていた規模のソフトウェアがテーブルの上のPC上で実行されています。もちろん、はりめぐらされたネットワークの発展もその能力向上に寄与しています。
その発展は、経営情報のリアルタイム化、在庫削減・コスト削減、生産性の向上など、IT化による寄与は計り知れないものがあります。
ただ、その仕組みを作り上げているのは、機械でなく、人の知恵、経験、労力を集めたものです。一昔前なら、人の思考がなんとか、コンピュータに追いついていけたものですが、今のように、肥大化してしまったものに追いつくことは不可能になっています。
IT部門で働く人達にとっては、そのような環境で、納期に追われる日々が続いているわけで、ストレスがたまらないはずがありません。
IT業界を取り巻く主なストレス要因としては、
 ・過重労働
    納期に追われる。急な障害対応や仕様変更。徹夜もざら。
 ・人間関係の希薄化
    プロジェクト型の作業でコミュニケーション不足。
 ・お客さまとの人間関係
    必要な情報や人を的確に提供してくれない。遅延や障害には過度に反応する。
 ・速い技術の進歩
    技術の変化が激しいため、ベテランに頼れない。キャリアアップが難しい。
があげられます。
プロジェクトマネジメント手法や、ソフトウェア開発技法が発達しても、実行するのは、その人達であるわけで、そういった手法・技法を有効に使えるかは、最終的には、常に体と心が健康な状態であるべきではないでしょうか。
昨今、心の健康=メンタルヘルスに問題がある人が増えてきています。
厚生労働省の調査によると、精神障害等に係る労災請求・認定の件数が以下のように増加の傾向にあります。
・平成15年度 請求件数:447件、認定件数:108件
・平成16年度 請求件数:524件、認定件数:130件
・平成17年度 請求件数:656件、認定件数:127件
・平成18年度 請求件数:819件、認定件数:205件
経営の根幹をにぎるIT部門の要員が、このように疲弊していくということは、経営のIT化を進める上で大きな障害になります。
そういった意味で、メンタルヘルスケアをいかに実施していくかが、企業にとってIT化が進むにつれますます重要になってくるのではないでしょうか。
ここで、管理者の役割として以下に留意することが必要とされています。
1)従業員の心身の健康状態に留意
2)従業員の適正配置を心がける
3)職場のよい人間関係を作る
4)職場の就労意欲を盛りたてる
このような対応により、職場のストレスの程度は管理者が適切な心配りや注意深い観察を行うことで、ある程度軽減できるとのことです。また、管理者は、精神不健康者の発見のキーパーソンとなり、早期のうちに適切な対応をとることが可能となります。
また、個人としても次の2点を心がける必要があります。
1)今のストレスレベルを自覚する
2)ストレスレベルをさげる
ストレスレベルを自覚するには、ストレスレベル診断テストの項目を定期的にチェックすることや、ストレスが過剰になると体の様々な部分に変調があらわれるのを見逃さないようにすることです。
ストレスレベルを下げるには、一般的には、娯楽、くつろぎ、休息があげられますが、間違ったストレス解消として次の3つがあげられます。
1)寝坊
  休日に昼まで休養と思って寝ること。長時間家にいるとストレスの原因となり、体のリズムを崩し、ストレスを発生させる。
2)集中的な運動
  集中的にスポーツをすること。楽しいことでも無理をすればストレスを生む
3)寝酒
  寝つきをよくするために寝る前にお酒をのむこと。寝つきはよくなるが、睡眠が浅くなる。アルコール依存症になる可能性もある。
システム開発のリスクマネジメントとして、見積もり、計画、実行の局面において、留意・確認すべきチェックポイントをピックアップしてレビューを実施し、事前に課題を抽出して対策をうつことがおこなわれています。通常、そのチェック項目は、工数算定の妥当性、要員の体制面、新技術の採用などについてがあげられることが多いようですが、今後は、実行局面でのレビューにおいては、要員のメンタルヘルス面についてのチェック項目を追加する必要があると思います。
システム構築にかかわる生産性、品質面に大きく影響を及ぼす可能性があるといえます。これは、発生確率は低くなく、影響度は高いリスクといえるのではないでしょうか。リスクを軽減するためには、企業として、カウンセラーを設置することが一つの対応策となります。ただ、企業としてはコスト増になりますし、すべてそれで解決することはできません。
前述しましたように、現場の管理者、個人による予防が最も大切な要素となります。経営者としても、そのようなリスクを軽減させるためにも、メンタルヘルスについての取り組みの強化を実施する必要があると思われます。


■執筆者プロフィール

西田 則夫(Nishida Norio)
情報処理プロジェクトマネジャー、ITコーディネータ
マネジメントの経験を顧客満足の向上に役立てたいと思います。
Norio.Nishida@csk.com