ITオフショア開発の変遷と課題/田上 淳一

 オフショア開発は、米国が発祥と言われている。もともとはコストダウンを目
的としていたが最近はビジネス・プロセス・エンジニアリングの一環として世界
中に拡大している。日本でも企業活動のグローバル化に伴い、ITシステムの開
発を海外に委託するいわゆるオフショア開発が盛んになってきている。現在、
日本の企業が厳しい国際競争に生き残るにはオフショア開発は避けて通れなくな
っている。

・オフショア開発の変遷
日本の大手ベンダーのオフショア開発は、20数年前に、インド、中国に子会社
を作ることから始まっている。当時はビジネス上の目的よりも、国家政策絡みの
長期的視野の産業育成、人材育成に主眼があった。新興国から人材を、日本のベ
ンダー先で数年預かり研修教育を行ない、帰国後その仕事を行なって貰うことで、
新興国の産業育成に寄与するのが目的であった。主流はホストや通信技術系で、
共通パッケージの一部や、OS周辺ツールなど、技術デペンドの開発であった。当
時は、開発インフラも、コミュニケーション手段も不充分で、また、開発手法、
管理手法も確立されていないため、生産効率も悪く、とても採算を論じるレベル
ではなかったと聞く。

 1990年代になって、オープン化の浸透、インターネットの世界的な普及に
よって、距離、時間、開発環境、開発標準化の問題が改善され、オフショア開発
が現実的な方策として注目されてきた。特に、ITバブル崩壊後、コスト削減を目
的として、ソフトベンダーのオフショア開発の取り組みが活発化する。また、
中国、インドにおいて、電力などの産業インフラ、ネットワーク、パソコン普及
など情報インフラの整備、情報処理技術者育成、開発受託企業の勃興が、オフシ
ョア開発の進展に拍車をかけた。しかし、この時期、日本のオフショア開発を行
った企業で成功を収めたのは、わずかのベンダーであり、大半が何らかの問題を
抱えて、当初の思惑と違った結果を招き、「二度とオフショア開発はしたくない」
と言う声も少なからず聞こえた。その多くは、コミュニケーション問題と言うこ
とになっているが、オフショア開発先の文化習慣に対する無理解、或いは日本固
有の文化に付随する問題など、クロスカルチャーという観点での奥深い課題も露
呈している。
 ただ、昨今においては、「失敗をノウハウ」として解決策を見出し、少なから
ぬソフトベンダーがオフショア開発を軌道に乗せて、コスト削減効果を享受しつ
つある。その解決策は、「ブリッジSE」の育成・活用、インターネットやIP電話
の利用、開発標準の整理、プロジェクトマネージメントの充実などである。

・オフショア開発の課題
 さて、2008年は、原油高と米国のサブプライム問題で幕を開けた。欧米中
心の世界経済が揺らぎ始めている。一方、中国、インドを中心とする新興国が、
急激な成長を遂げ、世界経済の一翼を担う推進者になりつつある。欧米市場が飽
和状態のなかで、多くの人口を抱える中国、インド、ロシアには巨大市場が出現
している。従来の「人件費の安い新興国=世界の下請け工場」と言う枠組みも変
ることになると思われる。
 オフショア開発においても、現在、発注先の人件費高騰などで、コスト削減効
果が薄くなりつつある。これは、ソフト開発が労働集約型産業であるための宿命
である。オフショア開発は、ある意味では、人件費のより安い国を追い求めてい
く宿命にある。しかし、過去、ソフト業界は、国内において、技術革新なきコス
ト削減が、最後は品質に付けを回す、泥沼プロジェクトの悲劇を体験した。今、
大きなビジネス環境の変化を迎えて、コスト削減の特効薬としてのみオフショア
開発を見る観点は、同じ悲劇を産み出すことになるかも知れない。

・オフショア開発におけるグローバル標準とクロスカルチャーの尊重
 従来の、人件費の安さに頼るだけのオフショア開発から脱皮するには、技術力
による生産性の高さ、優位技術による付加価値の高さを求めたオフショア開発と
言うことになる。その場合には、オフショア開発先の選択は、どの国ではなく、
どの企業、どの組織ということなのかもしれない。おのれの足らざるを補うパー
トナーである。
 ところで、このような、お互いの得意技を生かし足らざるを補完し合うオフ
ショア開発には、3つの留意点が必要と思える。一つはグローバル標準である。
同じ目的を持って一緒に“事を成す”ための、共通の基準、ルールである。つぎ
に、各国、各組織の固有文化・慣習の尊重である。プロジェクトの共通の基準
(標準)の適用で、各国の実情に応じた柔軟な運用を行なうことである。最後に、
プロジェクトの見える化である。ソフト開発の特性は、物つくりと違って“作業
も成果物も目に見えない”(関係ない他人にはわからない)特徴がある。オフシ
ョア開発に限ったことではないが、プロジェクト進捗確認とメンバー間の情報共
有、ノウハウの蓄積上、必須である。

・関西P2Mでの研究
 上記内容について、2007年6月から、関西P2M(プロジェクト&プログラム
マネジメント)研究会で、研究を進めている。現在、13名のメンバーによって、
中国、ロシア、ベトナムなど複数事例をたたき台に検討を行い、新たな視点での
成果も出つつある。2008年度早期に最終成果も纏まる予定であり、期待した
い。



■執筆者プロフィール

田上 淳一(タノウエジュンイチ)
資 格:ITC、PMP
得意技:プロジェクトマネジメント支援&プロジェクト監査

e-mail:tanouejkrs@yahoo.co.jp


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