●船場吉兆という出来事
「船場吉兆」がついに廃業してしまいました。昨年からの偽装問題に続き、今度はお客の食べ残した料理を使い回したというような事実も明るみに出、世間からも従業員からも見放されるという結果となりました。顧客との約束を破ることによって、顧客によって創られた信頼、顧客との間の絆が失われていきました。
「吉兆」と言えば京都でも「京都吉兆」が、日本料理の代表的老舗のひとつとして存在します。、別会社とはいえ、同じブランド名を引き継いだお店として少なからず影響が出ているということです。
よく言われることですが、ブランドは築くのには長い時間と地道な積み重ねが必要とされますが、壊れるときはあっけないものです。ちょっとしたひび割れからダムが一気に決壊するかのように、打つ手を間違えればそれが見る見る広がっていきます。
●ブランドとよばれるもの
日常でよく耳にするブランドといえば、エルメスやルイ・ヴィトンやプラダなどのファッション関係の商品。またソニーブランド、アップルブランドのように企業名を頭につけたような、企業全体の商品イメージを表現する場合もあります。
そこには他社の商品とは区別できるなにかが存在するようです。
語源的にはその所有を表示するために家畜に押した焼き印(古代スカンジナビア語のbrandr=焼き付ける)に由来するらしいですが、教科書的な書籍でよく目にする米国マーケティング協会(AMA)の定義では、「ある売り手の財やサービスを他の売り手のそれと異なると認識するための名前・用語・デザイン・シンボルおよびその他の特徴」と規定しています。
●生まれて消えて洗練されて、時間と共に形作られてきた京都ブランド
京都には「京都ブランド」を創ってきた多くの老舗があります。京に都が据えられたときから、中国大陸や日本各地から新しい技術や技能者が集められ、培われ、時代と共に洗練されていったものが今日の京都というブランド価値を生み出してきました。当然その過程で消えては生まれ、生まれては消えていったりして、京の老舗として今に残っているのでしょう。もっとも天皇が東京へ行幸されたのに伴って、「虎屋」さんのように東京へ移られたのもそれはまたそれで意味のあることでしょう。
●感性に訴えるものづくりと経験価値
いわゆる老舗の商品というものは従来のマーケティング理論ではなかなかうまく説明できないところがありました。御用達という名の下に、積極的に販売網を広げたりすることもなく、家訓を守り続けてきました。
「最高の品質のものを高価格で、直営店舗中心で、ほとんど広告宣伝せずに売る。
」そんな言い回しがぴったり来るような商売でした。
そんな中で感性に訴えるものづくりのための「経験価値」ということが言われ
るようになりました。
他社がまねできない技術で、選りすぐりの材料を使い、デザイン・高級感などで感性に訴え、付加価値・ブランド価値を高める。そこには○○らしさ、○○の商品という誇りが感じられます。
「経験価値とは何か」、顧客が企業やある商品と接点を持ったときに何かを身体で感じたり、その一瞬に感動したりするそういう感性に訴えかける力、その価値。その商品のデザインによる感動、あるいは接客のおもてなしによる感動、その商品が誕生するまでのストーリーによる感動、従来の機能的な価値に加え、感性を刺激する価値。それらが、機能的価値に加えて、ブランド力を推進する大きな力となっていきます。
●売る時代から選んでもらう時代へ
新しい顧客を求めて営業力でぐいぐいと押して売る時代は終焉を迎えてくるように思われます。消費者は自分で調べたり、人から聞いたりで自ら商品を選ぶようになりました。
老舗の商品は普段そんなにしょっちゅう買うというわけにはいかないのですが、とっておきの時、大切な人への贈り物など、特別な機会に消費されることが多いのでしょう。(もちろんいつもそれしか買わないと言う方もおられるでしょうが。
)そんな選ばれる商品、信頼される商品と、それを知ってもらうことが重要になってきます。
●ブランド構築
ブランドの構築はマーケティング費用を長期にわたってを削減します。市場に対して認知や良い印象を与えることは、マーケティングの外枠を埋める役割を果たします。ブランド構築は、情報化社会の販売戦略としても重要な要素となっています。
インターネットで簡単に情報収集ができる時代、買い手の力が強い時代。買い手は積極的に敏感に、価値ある情報を欲しています。その価値を分かりやすく伝えることが、ブランディングの力となります。
■執筆者プロフィール
藤井健志(ふじい けんじ)
一級建築士・中小企業診断士・ITコーディネータ
(勤務先:株式会社日商社 http://www.nisshoshsa.co.jp )