近年、コンプライアンスという言葉が広く使われるようになってきた。企業の中には、経営理念などにもコンプライアンスが明記され、コンプライアンス委員会やコンプライアンス担当役員などを組織化するところも増えつつある。
このコンプライアンスという言葉の意味については、以前は単なる法令順守という意味で解説している書籍なども多かったが、最近では法令順守はもちろんのことであるが、社会的規範や企業倫理を守ることまでを含めてコンプライアンスと言われることが多い。
企業というものは、社会に対して製品やサービスなどを提供して、その対価として利益を得ることにより存続している。この企業がさらに存続・発展していくためにはより多くの利益を得ることが必要となってくる。そこで、多くの利益獲得をめざして、優れた製品・サービスの開発、効果的な営業活動やコスト削減など様々な活動を行っていくのである。
これらの活動を行っていくうち、自分たちの利益を最優先に考えるあまり、企業が反社会的な行動を取ってしまうケースもしばしば見受けられる。しかし、このような行動が明るみになると社会全体から反発を受け、企業活動の規模縮小や廃業を余儀なくされる。そのため、企業は自分自身が反社会的な行動をとらないようする対応が必要であり、これがコンプライアンスなのである。
企業活動に致命的なダメージを与えかねない反社会的行動として、まず初めにあげられるのは、法令違反であろう。介護報酬を不正請求した在宅介護サービス会社や材料の偽装を行った食肉加工会社など、多くの企業が行政・司法の処分を受けている。処分の内容としては、免許の取り消しなど即廃業につながるものから、一定期間の営業停止処分などがあるが、営業停止処分を受けたケースでも消費者の信頼回復ができず、廃業に追い込まれたケースも多くある。
直接的には法令違反とはされないケースにおいても、企業活動に致命的なダメージを与えることがある。大阪の高級料亭が客の食べ残し食材を使いまわしていたという事件が、その代表的な例としてあげられる。高級料亭という看板があれば、顧客は提供される料理に対して非常に大きな期待を持って店に訪れるであろう。その期待が大きいものであるが故に、それを裏切った場合の反感は非常に大きなものになる。このように、社会からの期待を裏切ることによっても、企業が活動を続けることが困難な状態に陥ってしまうこともあるのである。
企業のコンプライアンス違反が発覚する方法としては、マスコミによる報道がきっかけとなることが多い。これらの大半のケースにおいては、報道する側の企業の責任として、様々な角度から取材を行ってしっかりと事実確認を行ったうえで報道が行われる。
近年のインターネットの普及により、個人が容易に情報の発信をできるようになった。これによって、個人が自分の意見を世間に伝えることが容易になった反面、不確かな情報や一方的な意見などが多く出まわる結果にもつながっている。
すなわち、噂や口コミ程度の内容が、あっという間に世界中に広まるという可能性があるのである。
「A社の製品を使ったところ非常に良かった」などという噂がインターネットで広まれば、A社にとっては、時としてテレビでコマーシャルを行うことよりも効果的なPRとなり、売り上げの拡大につながるのである。
しかし、一般的に噂や口コミというものは、好意的な意見より批判的な意見のほうが多いのではないだろうか。たとえば「B社の商品は非常に使いにくかった」などという噂が広まれば、B社にとっては、大きなダメージになる可能性がある。
だが、本当に使いにくい商品を市場に送ってしまった場合であればともかく、ごく一部の人にとって使いにくかっただけで、そのことが企業活動に対して大きなダメージをあたえてしまうのであろうか。
インターネットが文化的に成熟してきている今日において、多くの人々はインターネットから得られる情報(特に個人のブログなどに書かれている内容など)はすべてが正しいものであるとは限らないし、一部の人による偏った考え方である可能性があるということを十分に認識して利用している。したがって、インターネット上に発信されている情報が正しいものであるかを判断する際には、マスコミの報道によるものなどを含む他の情報を参考にして、その情報が正しいかを判断するであろう。
たとえば、有名な高級レストランに対して「客の食べ残した食材を使いまわししている」という情報が発信されていても、多くの人が「そんなことはあり得ない、このレストランを陥れようとしている人物が発信しているのであろう」などと考える。しかし、以前に食材の産地偽装をおこなっていた高級料亭に対して「客の食べ残した食材を使いまわしている」という情報が発信されていた場合、多くの人が「やっぱりそうか、あの料亭ならやりかねない」と考えるのではないだろうか。
インターネットは企業活動に対する良し悪しのイメージを一気に増幅する力をもっていると考えても良いのではないだろうか。このような時代において企業活動を続けていくためには、法令順守だけでなく反社会的な活動を行わないという、広い意味でのコンプライアンスを守っていくという意識をしっかりと持たないといけないのである。
■執筆者プロフィール
池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)
学校法人聖パウロ学園
光泉中学・高等学校 入試部
ITコーディネータ
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