このコラムでは、企業の存続及び発展のために「IT経営」の必要性を一貫して述べてきました。最近は、これに加えて「知的資産経営」を推進する動きが活発になっています。その源流は、どちらも同じようなところにあるといえます。
スイスのIMD(International Institute for Management Development:経営開発国際研究所)が毎年発表している国際競争力において、日本は1994年までは世界第1位でしたが、以後は順位を下げて2002年には30位まで転落しました。そして、2008年は22位まで回復しています。ちょうど日本と逆の動きをしたのが米国で、1990年代前半の低落から回復して再び世界第1位に帰り咲き、そのまま頂点に居座っています。米国復活の舞台裏には、知的財産戦略がありました。
日本では、2002年に当時の小泉首相が「知的財産立国宣言」をしてからが本格的な動きになり、2003年知的財産基本法施行、2004年からは毎年「知的財産推進計画」が発表されています。また、2004年から「知的財産情報開示指針」に基づき「知的財産報告書」の作成が始まり、2005年からは範囲を拡大した「知的資産経営の開示ガイドライン」による「知的資産経営報告書」が作られています。
2006年には広報資料として、「知的資産経営のすすめ」や「知的資産経営報告書活用のすすめ」、2007年には「中小企業のための知的資産経営マニュアル」が出ています。詳細については、経済産業省が運営する知的資産経営ポータルサイトをご覧ください。↓
http://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/index.html
ところで、知的資産経営の本質は、日本企業が持つ「強み」や特徴を活用して企業価値を高め、持続的な利益・成長を実現することにあります。知的資産には知的財産権・製造段階での「すりあわせ」のような製品へのこだわり・技術ノウハウ・高品質を達成してきた組織力・消費者からの信頼・企業の社会的存在としての活動能力などが該当して、広範囲な知的蓄積が対象になります。
もう少し分類して言えば、特許権・実用新案権・著作権などの知的財産権はいうまでもなく、営業秘密・ブランド・ノウハウ等の知的財産、そして技能や人的財産・組織力や顧客とのネットワークなどの知的資産までを対象とします。ただし、借地権や電話加入権のような単なる無形資産は該当しません。
知的資産経営は、各企業において当然にその内容や実行の方法が異なります。
知的資産経営に取り組むには、第一に企業が自らのもてる能力・実力を認識し評価しなくてはなりません。自社の企業価値の源泉である「強み」や将来「強み」にしたい部分など、自社の業務プロセスとリソースを洗い出し、その中に潜む知的資産を認識することから始まります。
次には、発見した知的資産を業務の中でどのように活用しているのかを見つめ直して、価値創造を高めるための工夫や整理を行い(場合により業務や事業の再構築とともに)、企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者達)に分かりやすく表現した報告書を作成します。
今般、京都府では各企業等が上記の作業を実施する場合に、支援するサポーター制度を創設しました。幣(NPO)ITコーディネータ京都には、サポーターに認定された人材が10名程度いますので、知的資産経営に取り組んでみようと思われる企業家は、是非お気軽にお問い合わせください。
特に京都府では、昨年から「京都府中小企業応援条例」を制定して地元中小企業が知的資産経営に取り組む場合、「知恵の経営」実践モデル企業認証制度を設けています。全国的には知的資産経営といっていますが、京都府では知的資産を更に緩やかに捉えて「知恵の経営」といっています。このモデル企業に認定されますと、知恵の経営実践に必要な場合の低利融資を行うほか、今後に補助金の支給も検討しているところです。京都産業の復活に向けて、積極的に取り組みたいものです。
さて、「IT経営」においては、ITを適用する前に自社の内外環境分析を行い、自社の持つリソース及び社会・市場環境等の外部制約条件の変化を把握して、付加価値創造を高めるためのビジネスモデル再構築または経営戦略立案を実施してきました。その上で、ビジネスモデルや経営戦略を直接支援し、成果実現を加速するために必要なITは何かを構想します。
この前半のプロセスは、知的資産経営に取り組むプロセスと酷似していると思いませんか。共に企業の存続と成長を目指した取組である以上、基本的に同一であって当然ともいえます。
今般、8月23日から毎土曜日ごと4回シリーズで「IT経営応援隊事業経営者研修会(4日コース)」を、幣NPO等の主催で開催します。この経営者研修会では、上記のリソース及び環境分析・ビジネスモデル構築による付加価値創造の見直しとその仕組みを支えるIT化構想を検討します。知的資産経営やIT経営に興味を持たれたかたは、是非ご参加ください。(但し、予約が必要です)↓
https://www.itc-kyoto.jp/event/index_080823.html
■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ、中小企業診断士、社会保険労務士
ISO27001主任審査員、プライバシーマーク主任審査員
e-mail: eri@nakamura.email.ne.jp