百日紅(さるすべり)が、ふわっとした赤い花をつけたと思っているうちに夏も通り過ぎ、プラタナスの大きな葉が少しづつ舞い始め、いつのまにか京都の街も秋の気配です。
今から5年前(2003年)の秋、P&G(ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー)の従業員への人事サービスを、IBMがアウトソーシングで提供するというニュースが報じられました。このとき、P&Gから約800名がIBMの人事部隊に移籍、合流し、アウトソーシングが開始されたのですが、IBMが、化粧品・サニタリーのトップメーカにして超優良企業とされているP&Gの、約80カ国、9万8千人余りの従業員に対して、人事業務サービスを提供するということが大きく報じられました。コンピュータメーカーの枠を本格的に脱しつつあった当時のIBMの強力なアピールでした。
自社の業務の一部を、外部に委託、アウトソーシングすることは、物流や製造の部門で古くから行われていますが、BPO(Business Process Outsourcing)と呼ばれるアウトソーシングは、主に、総務・経理・人事業務など管理業務の分野で、自社がコアとしていないプロセスを専門性を持つ外部へアウトソーシングすることを指します。また、そこでは、対象とする業務の企画、改善設計、運用、人材といった全てについて、一括してアウトソーシングできることが、従来の作業請負や人材派遣、などとの違いで強調されています。
BPOの登場は、80年代後半の米国にまで遡りますが、情報システム、情報通信が高度化することで、管理業務を社内外の何処に置くかという場所的な制約も無くなり、BPOの利用環境は、時代とともにいっそう整ってきました。そうしたなか、上述のP&GのIBMへのアウトソーシングは、BPOの代表例のひとつになったのでした。
国内企業が行っているBPOの身近な例としては、財務、経理業務や、カスタマーセンター業務などがあげられそうです。また、政府の地方行革指針の発表以降、地方自治体の民間委託分野が拡大し、そこでも自治体の非コア業務の委託がBPOとして注目されました。もっとも、国内でのBPOの普及そのものは、その世界的な拡がりや伸びに比べ、低いペースだといわれます。
それでも、経済産業省が、今年2008年6月に公表した「BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書」によれば、「国内のBPO市場は、世界の成長スピードには及ばないものの、年平均5.0%で成長を続け、2006年に8,246億円であった市場規模が、2011年には、約1兆650億円規模になると見込まれる」とされています。
また、同報告では、BPO未経験ユーザは、コストメリットやセキュリティ、また、自社への柔軟な対応が得られるかといった不安が強い、という反面、既にBPO利用ユーザーは、BPOについての満足が高い、という分析結果となっています。BPOへの期待が表われています。
BPO利用側の要点のひとつは、自社よりも優れた専門性を有する外部企業を活用することにあります。これによって、自社の本来の中核業務への注力を強化しようというものです。
BPOの提供側は、情報システム会社やコンサルティング会社、人材派遣会社、会計事務所など、様々です。求められる業務について高い専門性とマネジメント力が発揮できる企業であれば、単なる受託では無くBPOの担い手になる道があるともいえそうです。
大企業を中心に利用が注目されたBPOでしたが、中堅・中小企業での利用も拡がっており、中小企業の52%が、何らかのかたちで、人事、財務および経理などでBPOを利用している、という調査結果も別途伝えられています。皆様の企業ではいかがでしょうか。
BPO利用の検討は、自社が最も大切にすべきプロフェッショナルとしての仕事が何なのかを、あらためて再認識したり見直したりすることに繋がるかも知れません。
-参考‐
BPOベンダー企業が請け負う主な業務内容
総務部門
オフィスサービス: 備品管理 文書管理 庶務 受付業務
ファシリティ管理: オフィス・会議室管理 施設管理
経理部門
資産管理: 支払い業務 予算・利益管理 債権債務管理 決算関連業務
人事部門
給与、賞与計算 社会保険関連業務 人事管理 採用 研修 退職者支援
(アウトプレースメント) 福利厚生関連
参照:経済産業省 BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書
■執筆者プロフィール
藤原正樹(フジワラマサキ)
松井 宏次(まつい ひろつぐ)
ITコーディネータ 1級カラーコーディネーター 中小企業診断士
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