キャリア開発 ~個人と組織の関係~/川島 昇

 「企業は人なり」という金言があります。その言葉は、松下幸之助氏が、部下に「もし、松下はどんな会社なのかと問われれば、『我社は人を作っております。
しかる後に電器製品を製造しております』と答えよ。」といわれたと何かの本で読んだ記憶があります。まさしくその通りで「企業は、人によって成り立っている」という見方は適切ですが、更に深めてみれば、「企業は、社員の能力による働きによって成り立っている」というのが一段と理解しやすいです。

 キャリア形成の支援関係の仕事をしており、企業を訪問している中で、人材育成や能力開発についていろいろお尋ねしている。その中である企業さんの人材育成の方針は、「企業のために個人があるのでなく、個人を高める場として企業は存在する」とあった。こんな企業に勤めてみたい気がします。
 以前の終身雇用制度から成果主義に変わり、個人の自立・自律で自らキャリア形成をしなければならない時代になったとはいえ訪問企業の中では、稀な企業であります。
 ITCや各種資格をお持ちで幅広くご活躍の方々には、失礼な事かもしれませんが、ご自分のことをどこまで理解されていますでしょうか。
「自分は何(仕事)をしてきたの」、「何ができるのか」、これから「何をしたいのか」、「今後はどのような人生を送りたいのか」について即答できますでしょうか。
 これはキャリア・コンサルティングの6つの基本ステップ(自己理解の支援、仕事理解の支援、啓発的経験の支援、意思決定の支援、方策実行の支援、新たな仕事への適応の支援)の導入部分の自己理解(気づき)を深め働きがい、生きがいを求めるものでの気づきの一例です。

 キャリアとは、全人生の中で仕事に関わる部分のことをいい、仕事とは、狭い意味でのジョブ(会社の仕事、報酬を得るための仕事)、広い意味でのワーク(ジョブを含めた社会・文化活動等有償無償に関わらない仕事)があり、また、捉え方の違いや社会から見るか個人から見るかの違いで内的・外的の区分もある。
外的キャリアは仕事の分野や種類で、それに対する内的キャリアは、仕事の質・人生の質で働きがいや生きがい等が対象となります。
 最近では、内的キャリアが重視されているが、それは内的キャリアの違いで(やりがい、働きがいを何に感じるかの違いで)、同じ仕事でも取組む姿勢・感じ方が変わるし、充足感や成長の度合に違いが出るからです。本気でやる気になり、「やりがい」「働きがい」を持って働いた方が自ずともたらされる成果が大きくなることが期待されるし困難が生じた場合の対応も自ずと違うものになるからです。
 他者とは違う自分のキャリアがあり、自分とは違う他者のキャリアがある。当然だが、それを明確に自覚するには、自分自身の内的キャリアを自覚するということが必要である。

 企業の成果・付加価値創造の源泉は個人の独創性・創造性に求められ、企業としてはそれらが発揮できる環境を整備することが大切です。
それは、企業として従業員の「やりがい・働きがい」をもって活き活きと働いてもらい、なりたい自分に向けて成長して欲しいと願っているからだと思います。
そして、企業として一人一人が活躍できる環境や条件を整えれば、自発的に創造性・独創性を発揮してくれると信じているからです。
 そうすることによって個人にとっては、「なりたい自分になろうとすること(自己ゴールの設定と到達・達成)」、組織にとっては「個人の成長を組織の成長に活かすこと」であり、「組織・個人の成長をともに実現する」いわば「Win- Win」の関係を創造しようとするものであるからです。
 当初あげた終身雇用制度の変化で、社員を他でも通用しうる人材として育成することは大きな意味で企業の社会的責任であり、エンプロイアビリティへの関心も高まり対応している企業もあります。しかし、まず個人が自己責任で能力開発していく姿勢が大切である。エンプロイアビリティとは、「雇用されうる能力」といわれていますが、「労働移動を可能にする能力」、「当該企業の中で発揮され、継続的に雇用されることを可能にする能力」の両者の意味でいわゆる市場性のある人材育成が求められていることです。
 個人が自己責任で能力開発していくには、自分のキャリア、自分の人生の経営者であり、主人公だから、自分で決めてよいのであり、自分が決めなければならない即ち「自己決定」と自分で決めたことなのだから自分で責任を取らねばならない「自己責任」を認識しなければならない。そのためには、自分自身のことを最初にあげた「自己理解」することが必要となる。自分のことをよく分かった上で(自己理解)、自分自身のことを決め(自己決定)、その結果について自分で引き受ける(自己責任)、このことが「自立・自律」につながるものです。
 然しながら、ひとりひとりがこれらを実践することは、そう簡単なことではありません。そのため、企業としてキャリア開発の環境面での支援を行っていくことが必要であります。


■執筆者プロフィール

川島 昇 (かわしま のぼる)

川島ビジネスソリューション
中小企業診断士、ITコーディネータ、
ISO9001審査員補、経営品質協議会認定セルフアセッサー
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