Webサイトにおけるペルソナの活用に/杉村 麻記子

1.背景 ~Webサイトが抱える問題

 インターネットが普及して、企業におけるビジネスモデルが大きく変わってきたのは皆さんご存知の通りです。自社サイトをマーケティングに活用したり、ECサイトで直接セールス活動を行ったり、製品のサポートなどを通じてお客様の満足を獲得しブランドを育成することがWebサイトに寄せられる期待です。
 また新規見込み客へのアプローチ方法として、TVや新聞などのマスメディアでの宣伝を中心にしたものからWebサイトへの誘導型も増えてきています。大きな広告費をかけずに見込み客に様々な問題解決や経験をしてもらえる場所として活用されています。電通の調査によると、不況下において広告宣伝費が削減されていく中でも、Webサイトにかける広告費は増えているそうです。
 このように様々な役割が期待されているWebサイトですが、一方でコンテンツが爆発的に増大してしまい、サイト内の誘導(ナビゲーション)や説明(プレゼンテーション)がますます悪くなっているという現状があります。
価値のあるコンテンツが増えたのにもかかわらず、その結果必要なコンテンツにたどり着けなくなってしまったため生じた問題です。顧客が訪問した目的を達成できないWebサイトは「使えないサイト」の烙印を押されてしまいます。
 今後、Webサイトにコンテンツや機能を追加しても、運用体制の負荷がさらに増えることになり、今のままの体制では制御できなくなってしまいます。すでに、コンテンツ単位・コーナー単位で別の部署が担当している事柄を把握することができなくなっている企業も多数あります。

2.解決の手法

 これらの問題を解決するためには、Webサイトを利用するユーザニーズをきっちり想定した上で、シナリオ・デザインを設計したサイト構成にすることが必要です。ここで言う「シナリオ」とは、サイト訪問者の理想的な利用パターンをストーリー(台本)化したものです。そして、訪問者のニーズを想定してシナリオをデザインする手法として「ペルソナデザイン」が注目されています。本稿ではこの内容について説明します。
 またWebサイトへの訪問は、GoogleやYahooなどの検索エンジン経由のものが多く、訪問者が階層の下のページに直接アクセスするケースが増えています。こういった背景から、すべてのページがランディングページ(最初に表示されるページ)に必要な機能やコンテンツを配置することが求められます。具体的には、各ページごとにユーザが望む情報へのリンクが全て用意され、どのページから入っ
てきても必ず目的の情報にたどり着くことができる構造などです。
 更に、必要な情報にたどり着くためのツールとしてサイト内検索機能の充実が望まれます。検索エンジンの活用方法については、前回のメールマガジンで取り上げましたのでご興味のある方は下記をご覧下さい。
https://www.itc-kyoto.jp/itc/index0317.html 

3.ペルソナデザインとは

 ペルソナとは、企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデルのことで、そのモデルを作ることを「ペルソナデザイン」といいます。
 徹底した顧客視点からニーズをつかみ、象徴的な顧客モデルを発見することで、ユーザに強い影響を与えるツール(webサイト等)のデザインができるというものです。(Personadesign.netサイトより引用)
「顧客」を深く理解することで、行動を理解し、Webサイトのデザインやコンテンツ、構成を検討するうえでの指針が明確になります。
 これによりWebサイトを設計するときに企画担当者やデザイナー、マーケティング担当者が、自分たちのお客様がいったい誰で、その人はWebサイトでどんな目的で訪問し、どのような行動をするのか?(何をどのように見るのか)を具体的にイメージすることができます。制作者側の勝手な思い込みではなく、本当のターゲットユーザのニーズや行動から、Webサイトの問題点を発見し、最適なデザインを決定することが可能となるのです。

4.ペルソナ・デザインの例(イメージ)
 具体的なペルソナイメージは以下の通りです。

–《ペルソナ作成者:中堅食品スーパーA社》——–
 所在地:京都市内(3店舗)
 担当者の抱える課題:
  郊外型大手スーパーや近隣スーパーとの競争は激化し、あらたな顧客層の獲得を検討中。平日来店できない共働き家庭をターゲットに、インターネット通販・宅配サービスを提供するためのWebサイトのリニューアルを検討し始めた。

 《ペルソナ:ターゲット顧客》
  氏名:江角奈々子さん(36歳)
  プロフィール:大手メーカーに勤務するキャリアウーマン
         二児の母 夫は一流企業のサラリーマン
         子供を保育園に預けフルタイムで仕事もこなす
   江角奈々子さんは、平日は朝早く起きて朝食の準備と夕食の仕込みをします。子供を保育園に連れて行きその後会社に出社。限られた時間で集中的に仕事をこなし残業も最小限に抑えて子供を迎えに行きます。家に帰ってからも、時間との戦いです。子供たちのために夕食を準備し食事が終われば入浴し子供を寝かせます。あわただしく過ぎる平日は、自分の時間をほとんど持つことはできません。
   あわただしい平日とは違って、休日は子供との時間を少しでも長く取りたいと思っています。時間を節約するために身の回りの買い物は通販をよく利用しています。
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  A社のWebサイトリニューアルでは、ペルソナ江角奈々子さんをターゲットにさまざまなコンテンツや機能を盛り込む検討をします。

5.ペルソナ作成の手順と中小企業での活用方法
  さて上記はあくまでもサンプルですが、今後、ペルソナをデザインする場合の手順、ポイントには以下のものがあります。

 1.最も大事なお客様層(セグメント)をベースにする
 2.仮説だけではなく、実在の人間へのインタビューや行動観察により人物像や深層心理を引き出していく。
 3.複数のインタビュー結果から、共通の行動をグループ分けするなどして、ユーザの行動パターンを確定する
 4.一連の行動や背景にある価値観、意識を物語風に作成する。
   一つのカスタマー・セグメントを代表する人の名前や写真をいれる。

 ペルソナを作成する際には、ペルソナデザインを専門に支援しているコンサルティング企業に協力を依頼する方法があります。
 中小企業においては、こういった会社と契約する予算を確保できないケースもあると思います。その場合は、まずは社内の企画部門やwebサイトの担当者、営業担当者などでブレーンストーミングをしながら上記の手順に沿って仮説のペルソナ像をつくるところから始めてみてはいかがでしょうか?


■執筆者プロフィール

杉村麻記子(すぎむら まきこ)
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 勤務
ITコーディネータ、中小企業診断士